神経線維


はじめに
・神経線維の名称は、その元になっている分類方法が2種類あり、それぞれの分類法によって独自の名称
 が付けられており、混在して使われているのが現状である。神経繊維の学習をややこしくしている一因
 であるので、ここでまず整理しておきたい。
・2種類の分類法をまとめた表は世間にあまり存在しないようであるので、下に記した。

神経線維の分類
・神経の研究や分類は、下等な動物を用いて始められた。したがって、神経の種類やその分類方法は、下等
 動物の神経から得られた知見が元になっている。
・一つは、電気生理学的な計測から得られた結果によるものであり、活動電位チャートの峰分かれから求め
 られる伝導速度や後電位の違いにより、伝導速度の速い順にA、B、C の3種類に分けられた(下表の右
 部分)。
 さらにAの中にも速いものから遅いものまであり、速い順にAα、Aβ、Aγ、Aδに分けられた。
・一方、別の研究者により、感覚神経(求心性神経)について、その太さによってⅠ~Ⅳに分類された(下
 表の左部分)。
 さらに、Ⅰは発信元の受容器の違いにより、ⅠaとⅠbに分けられた。
・遠心性神経(運動神経)には骨格筋に行く速度の速いAαと、骨格筋の筋紡錘に行く速度の遅いAγの2種類
 があるが、遠心性神経だけを言い表すために、これをα運動ニューロンと呼ぶようになった。
 これに合わせ、筋紡錘に行くAγをγ運動ニューロンと呼ぶようになった。
・すなわち、下表において、太字のほうの名前が一般的な名称として使われている。

線維の機能と太さによる分類 電気生理学的性質のよる分類
機能  直径
(μm)
 

 
名前(役割)  伝導速度
(m/sec)
名前(役割) 
求心性
(感覚、
 知覚) 
12~20  有  Ⅰa(筋紡錘から)
Ⅰb(腱受容器から)
70~120  Aα 
 5~12 Ⅱ(筋紡錘から) 30~100 Aβ(皮膚触圧覚)
 1~ 5  5~30 Aδ(部位が比較的明瞭な皮膚温痛覚)
  < 1 0.5~2 C(dorsal root C、内臓痛、皮膚温鈍痛)
遠心性
(運動)
12~20 α(骨格筋へ) 70~120
 2~ 7 γ(筋紡錘へ) 15~40
自律性   1~ 3
 3~14 B(自律神経節前線維)
0.2~1
0.2~2 C(自律神経節後線維、somatic C


【各神経線維の特徴】
筋紡錘とつながる神経線維(Ⅰa、Ⅱ、γ)
<筋紡錘とは>
・筋紡錘とは、骨格筋の筋周膜内に存在し、筋の伸長速度や伸長程度を感受する装置である。
・上腕二頭筋では320個、ヒラメ筋では60個ほど存在するといわれる。細かい運動をする筋では密度が高い。
・全体の長さは6~8mmで、細長い紡錘形をしている。
・普通の筋線維と並列に並び、両端でこれに付着している。
・筋周膜に連続する被膜で囲まれ、内部には通常の横紋筋線維より細くて構造も異なる紡錘内線維(錘内筋
 線維)と呼ばれる2~10本の特殊な横紋筋線維が存在する。
・紡錘内線維には下記にあげる各種の神経線維が連結する。

<求心性神経線維
 ・筋紡錘から中枢に向かう神経繊維であり、2種類がある。
◆Ⅰa線維
 ・太い方の神経線維はⅠa線維と呼ばれ(第1知覚終末とも呼ばれる)、紡錘内線維の中央を螺旋状に取り
  巻き、中枢に向かう。
 ・筋が収縮しているときに、その伸びた長さと伸びる速さを中枢に伝える
 ・脊髄内で同一の筋束を支配するα運動ニューロンとシナプスを形成し、反射弓を構成する。
◆Ⅱ線維
 ・細い方の神経線維はⅡ線維と呼ばれ(第2知覚終末とも呼ばれる)、紡錘内線維の辺縁部から中枢に向かう。
 ・伸ばされた筋が動かずにそのままの状態にあるときに働く

<遠心性神経線維>
◆γ線維
 ・γ運動ニューロンとも呼ばれ、錘内筋線維の収縮を支配するものである。
 ・これが働かないと、筋肉が収縮しても筋紡錘は収縮せず、筋長検出器としての機能を失うことになる。
 ・したがって、一般には種々の運動において、γ運動ニューロンと下記のα運動ニューロンの活動は併行して
  起こる。

筋とつながる神経線維(α)
◆α線維
・α運動ニューロン、α運動線維とも呼ばれ、筋線維を支配し(遠心性)、実際の筋収縮を発生させる

ゴルジ腱器官とつながる神経線維(Ⅰb)
<ゴルジ腱器官(腱紡錘)とは>
・ゴルジ腱器官は筋-腱移行部に存在し、骨格筋の張力を感受し、中枢に伝える装置である。
・線維性の多数の腱束よりなり、一般に1個の運動単位(1個の運動ニューロンとそれによって支配される
 筋線維群)ごとに1個の腱器官が備わっていると考えられている。
Ⅰb線維
 ・ゴルジ腱紡錘から中枢に向かう(求心性)神経線維であり、骨格筋の張力(引っ張られ具合)を中枢に
  伝える。


皮膚感覚や内臓感覚に関わる神経線維(Aβ、Aδ、C)
・末梢の感覚神経の中では20%がAβ線維、10%がAδ線維、70%がC線維、であると言われている。
 この3種類の線維はそれぞれに別々の感覚を伝えている。
Aβ線維
 ・正常な皮膚では触・振動・圧覚などの非侵害刺激を伝える。
 ・通常、痛みや痒み刺激に対しては抑制的に働く。
  (肌を掻いたり、こすったり、患部を爪で押したりすることで痒みがとまるのは、Aβ線維がAδ線維、
  C線維に対して抑制的に働くためである。ただし、感作、アロディニア発生時には促進的に働く。)
Aδ線維
 ・皮膚の温冷覚や痛覚などの侵害刺激(身体損傷の危機)を伝える。
 ・痛覚はC線維でも伝えられるが、Aδ線維で伝えられる痛みは、部位が比較的明瞭で、鋭い痛みを伝える。
 ・少しすると「慣れ」がおこり、感じ方が減衰してくるのが特徴である。
C線維(dorsal rootC (後根C))
 ・内臓痛や皮膚の鈍い痛覚や温冷覚などを伝える。
 ・C線維の多くは侵害受容性で、受容する感覚の種類によっていくつかのタイプに分けることができる。
  ① 機械的刺激、熱刺激、化学的刺激に応じるポリモーダル線維
  ② 機械的刺激に応じず、酸アルカリ、化学物質に応じる受容器
  ③ 弱い機械的刺激にも応じる低閾値機械的受容器
  ④ かゆみの受容器として、化学刺激の中でヒスタミンに応じるヒスタミン感受性C線維

自律神経に使われる神経線維(C)
 ・交感神経および副交感神経線維は、「神経節前」及び「神経節後」というふうに神経節でニューロンを
  変えて接続している
 ・節前線維にはB線維、節後線維にはC線維が用いられ、前者は有髄線維、後者は無髄線維である。
 ・交感神経の神経節は交感神経幹と呼ばれ、脊椎の左右に一本ずつあり、ほぼ頭蓋骨の底部から尾骨まで
  縦走する神経線維の束となっている。この線維束の中に交感神経の神経節がコブのように並ぶ。
 ・一方、副交感神経の神経節は、臓器近傍あるいは臓器内に存在する。
 ・節前線維と節後繊維は神経節で会合し、シナプスの化学伝達物質アセチルコリンにより、神経インパルス
  が神経節で細胞から細胞へ伝達される。
 ・副交感神経系の2番目の伝達物質は同じくアセチルコリンであるが、交感神経系における2番目の伝達物質
  は、汗腺と骨格の筋血管拡張に関わる部分以外はノルアドレナリンやアドレナリンが使われる。

【ポリモーダル受容器について】
 ・C線維(dorsal rootC)の先端に存在するとされる受容器であり、全身に広く分布する。
 ・触圧(機械的)、発痛物質(化学的)、熱のいずれの刺激にも反応し、非侵害刺激から侵害刺激まで広範囲の
  刺激に対応し、その刺激強度に応じて反応性が変化する。
 ・多(poly)様式(mode)の刺激に反応するため、ポリモーダル受容器と呼ばれる。
 ・炎症時に産生されるブラジキニン、プロスタグランディン、ヒスタミンなどによっても反応が増大し、熱
  によって感作され、インパルスの発射は長時間持続する。
 ・進化的には最も分化の遅れた原始的な受容器であるとの説がある。
 ・侵害刺激によって生じた組織の変化を伝える役目であるとも言われている。

痛みについて(Aδ線維とC線維)】
 ・通常、痛みはAδ線維とC線維を介して伝えられる。
 ・速い痛み(例えば肘をテーブルの角にぶつけた時の最初の痛み)は有髄のAδ線維によって運ばれ、持続性の
  遅い痛みはC線維によって伝えられる。
 ・歯痛なども、AδとC線維により伝えられる。
 ・内臓器官にもAδ、C線維は存在しているが、内臓の痛みは局在性に乏しく、しかも侵害刺激に対しては
  痛みを起こさない。
 ・痛みは、次のようなメカニズムで悪循環することがある。
  痛み→筋肉や血管の緊張→血行の悪化→発痛物質の蓄積→痛みの悪化
   ケガなどの傷害を負うと、侵害受容器が刺激されてまず痛むが、それが交感神経を刺激することにより
   筋肉や血管が収縮し、血行が悪化して酸素欠乏状態になり、発痛物質が生成されて蓄積し、断続的に
   侵害受容器を再び刺激し、痛みが循環することになる。
 ・ストレス等によっても交感神経緊張状態が続き、血行が悪くなり、於血になり、鬱血による頭痛などの
  症状が現れる。


<関連リンク>
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2011年10月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文