性ホルモン


性ホルモンとは
・性ホルモンは、性徴の発現、生殖器の発育、第二次性徴の発現、発情、精子や卵胞の成熟、妊娠の
 成立や維持などに影響を与えるホルモンの総称
である。
・雄性ホルモンと雌性ホルモンに分類でき、ヒトの場合では男性ホルモン女性ホルモンとに分類され
 る。
精巣や卵巣などの生殖腺が主であるが、副腎皮質においても少量が産生・分泌される。
 (これらの臓器は互いに発生的に近く、中胚葉由来である。)
・化学的にはステロイドであり、ステロイドホルモンに属する。
・生殖腺からの分泌は、下垂体の性腺刺激ホルモン(FSHおよびLH)により刺激され、副腎皮質からの
 分泌は下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって刺激される。
・男性ホルモンは総称してアンドロジェン(androgen)と呼ばれる。(詳細は後述する。)
・女性ホルモンは卵胞ホルモン(エストロジェン)と黄体ホルモン(プロジェスチン)の2種類が主な
 ものであるが、これらも同類の物質の総称である。(詳細は後述する。)


アンドロジェン androgen 「雄性ホルモン」、「男性ホルモン」
・andr-、andro-:「男性」、「雄器」の意の連結形
  -gen、-gene:「・・・・を生ずるもの」、「・・・・から生じたもの」の意の名詞語尾
・「アンドロジェン」は総称であり、物質としては、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)テスト
 ステロン
、アンドロステンジオン、アンドロステロン、あるいはテストステロンの代謝物であるジヒ
 ドロテストステロン(DHT)、その他多くの種類がある。
・雄では主に精巣にて産生・分泌される。雌では主に卵巣にて産生されるが、その大半はエストロジェン
 (女性ホルモンに)に変換されてから分泌される(後述)。
・女性の場合のアンドロジェンとしての分泌量は、男性のおよそ20分の1といわれる。
副腎皮質においては雌雄ともにDHEAの形で分泌される。これはアンドロジェンやエストロジェンの
 前駆物質となる。
・アンドロジェンの合成経路の概略は次のようである。
  DHEA → アンドロスタンジオール → テストステロン ←→ アンドロステンジオン →
    アンドロスタンジオン →  アンドロステロン
・胎児期における男性への性分化、男性生殖器の形成と発達、声変わり、体毛の増加、タンパク質同化
 作用の亢進、筋肉の発達、性欲の亢進、男性型脱毛症などをもたらす。
・男性の場合、一般的には30歳頃から血中濃度は徐々に低下することが多いが、女性の場合のエストロ
 ジェン濃度のように急激に低下することはない。
・筋力トレーニング、闘争、あるいは性的な興奮によって、その分泌が高まるとされる。
・分泌量が多いと、男性的な心理(闘争や孤独を求める)を高めるとされる。また、男性の場合、中年期
 以降において、男性型脱毛症、前立腺肥大や前立腺癌のリスクを高めるとされる。

◆テストステロン testosterone
・testo-:testis(精巣、睾丸)の連結形
・sterone
  stereos :「[ギ]固体」
  -one:「ケトン(カルボニル基、>C=O)」の意の化合物名を作る。
・アンドロジェンのうちの一種であり、炭素数19個のステロイドホルモンである。
・主に精巣のライディッヒ細胞(間質細胞)にて産生・分泌
 され、血中濃度はアンドロジェン全体の9割以上を占め
 る。副腎皮質や雌の卵巣からもわずかに分泌される。
・男児の場合、母体の妊娠6週目から24週目にかけて、
 胎児の精巣から大量のテストステロンが分泌される時期
 があり、これによって男性脳に変化するとされる。
 (この分泌はアンドロジェン・シャワーと呼ばれる。)
・男性の外生殖器の形成はテストステロンが5αリダクター
 ゼによって代謝されたジヒドロテストステロン (DHT) に
 よるものとされる。DHTはその他、中年期以降の男性型
 脱毛症や性欲減退をもたらすとされる。
  
テストステロン C19H28O2
・思春期以降の男性では、精巣からの分泌が顕著に増加し、男性的な身体の特徴が形作られる(二次
 性徴)。
・その他の作用は上述の「アンドロジェン」に記した通りである。


エストロジェン estrogen  「卵胞ホルモン」、「女性ホルモン」
・estrus:「発情」  estrous:「発情(期)の」
 estrogenic:「性欲を刺激する」
 -gen:(上記参照)
・「エストロジェン」は総称であり、物質としては、エストロン (E1)、エストラジオール (E2)、エス
 トリオール (E3) の3種類がある。
・上記の中ではエストラジオールが最も強い生理活性を持ち、その活性はエストロンの2倍、エストリ
 オールの10倍だと言われる。
・エストロジェンの合成経路の概略は次のようである。
  ◇ テストステロン → → → エストラジオール ←→ エストロン → エストリオール
  ◇ あるいは アンドロステンジオン → → → エストロン ←→ エストラジオール
・女性では卵巣、妊娠後の胎盤、男女ともに副腎皮質、男性では精巣間質細胞で作られる(男性にも
 重要なホルモンである)。
・女性では思春期以降に分泌が増加し、女性としての二次性徴を促進し、更年期以降は分泌が減少する。
・プロジェステロン(後述)とともに月経周期に応じて濃度が変化し、女性の性周期を形成する。
・具体的には、女性生殖器の発育促進、中枢神経(意識など)の女性化、成長期における骨端腺の閉鎖と
 身長の伸び抑制、乳腺や乳房全体の発育、排卵の制御、子宮内膜の肥厚、オキシトシンに対する
 感受性向上、脂質代謝の制御、皮膚薄化や皮脂分泌抑制、LDLの減少とVLDLやHDLの増加による
 動脈硬化の抑制、腎臓でのビタミンD活性化促進による腸からのカルシウム吸収促進、腎臓からの
 カルシウム排出抑制、骨芽細胞の活動促進による骨密度の向上などがあげられる。
・エストロゲンは肝臓においてプレグナンジオールに変換され、グルクロン酸抱合を受け、胆汁あるいは
 尿中に排泄される。

◆エストラジオール estradiol : E2
・エストロジェンのうちの一種であり、炭素数18個のステロ
 イドホルモンである。
・上記のように、エストロジェンのうちで最も強い生理活性
 を持つ。
・テストステロンから生合成され、エストロンとは互いに可
 逆的に転換されうる。
・また、副腎皮質にて産生されたアンドロステンジオンから
 も生合成される(後述)。
・作用は上述の「エストロジェン」に記した通りである。
 
エストラジオール C18H24O2


プロジェスチン progestin 「黄体ホルモン」
・progest-:progestational(妊娠前の)から派生
 -in:化合物、薬品などの名詞を作る(上記参照)
・ジェスタージェン(gestagen)、あるいはプロジェスタージェン(progestagen)とも呼ばれる。
・「プロジェスチン」は総称であり、主な物質としては、プロジェステロン(progesterone)や20α-
 ヒドロキシプロジェステロンがある。

◆プロジェステロン progesterone
・炭素数21個のステロイドホルモンである。
・成人女性では卵巣の黄体から分泌されるが、妊娠中期以降
 になると胎盤からも分泌される。
・ステロイド生合成の中間代謝産物であるため、精巣や副腎
 皮質からも少量血中へ分泌される。
・子宮内膜を分泌期(粘液が分泌され受精卵が着床しやすい
 時期(=卵巣の黄体期))のものに変える、基礎体温を上昇
 させる、基礎代謝を亢進させる、受精卵の発育と妊娠を維持
 させる、乳腺組織を発育させる、など。
 
プロジェステロン C21H30O2


副腎皮質で作られる性ホルモン
 基本的には男性ホルモンとして働くため、「アンドロ」である

デヒドロエピアンドロステロンDehydroepiandrosterone、
 略称 DHEA)
・副腎皮質の主に網状層にて産生・分泌される炭素数19のステ
 ロイドホルモンであり、各種性ホルモンの前駆物質となる。
・各種の性ホルモンの前駆物質であるため、副腎以外では性腺
 (精巣や卵巣)において作られるが、その多くはテストステロン
 あるいはエストラジオールにまで転換される。
・副腎からのDHEAは下垂体からのACTHにより分泌が促進される。
・分泌過剰は、女性では男性化を生じ、ひげや体毛の増加、声の
 低音化が起こる。
 

DHEA C19H28O2
・アンドロジェン活性としてはテストステロンの約5%程度だと言われるが、成人女性においてはアン
 ドロステンジオンとともに重要なアンドロジェンである。
・DHEAを経口投与などで摂取すると、抗老化作用があるとの話があり、サプリメントが存在する。

アンドロステンジオン androstenedione
・上述のDHEAや17-ヒドロキシプロジェステロンから生合成され
 るもので、DHEAと同じく、男性ホルモンであるテストステロン、
 あるいは女性ホルモンであるエストロンやエストラジオールの
 それぞれの生合成経路の中間生成物である。
・末梢組織に流れ着いてからテストステロンやエストロンに変換
 される。
・閉経前の女性のアンドロステンジオンの全生産量は約3mg/
 dayであり、副腎と卵巣からそれぞれ半量ずつ生産される。
・副腎で生産されるアンドロステンジオンは副腎皮質ホルモン
 によって制御され、性腺で生産されるアンドロステンジオンは
 視床下部ホルモンであるゴナドトロピンによって制御される。

アンドロステンジオン
C19H26O2
・サプリメントとして余分に摂取した場合、アンドロジェンとして機能する以外に、エストロジェンにも
 変換されるため、すなわ女性ホルモンとして機能することにもなる。


<関連リンク>
副腎皮質ホルモン  視床下部ホルモン  下垂体ホルモン 

2012年1月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文