視床下部ホルモン


視床下部(Hypothalamus)には神経分泌細胞が存在する
・視床下部はその名前のとおり
 視床の下部にあり、正確には
 視床の前下方、第三脳室下
 側壁に位置する。大きな区分
 では間脳に属する。視床下部
 の下方には下垂体がある。
 (右図の赤色表示の部分が
  視床下部である。)
・視床下部には、神経細胞と内
 分泌細胞の両方の形態と機
 能を併せもつ神経分泌細胞
 と呼ばれる細胞群が存在する
 ことが特徴である。


神経分泌細胞は神経系と内分泌系の間を取り持つ
・生体を維持するためには、全身の様々な箇所にそれぞれ適切な指示を送ってコントロールする
 ことが必要であるが、そのために動物は、電気的な信号を用いる神経系と、物質を流して知ら
 せる内分泌系の2つの系統を使って生体を維持している。
・視床下部にある神経分泌細胞群は、神経性のみならず内分泌性の情報も受容し、中枢神経系と
 下垂体などの内分泌系とを機能的にも形態的にも結び付けている。



図:James F. Thompson, Ph.D. MT(ASCP)より引用
 視床下部(Hypothalamus)に存在する、茶色で示された神経分泌細胞群(左上)は、その分泌物(刺激ホルモン)を、その下部にある血管に放出すると、刺激ホルモンは血流に乗って下垂体前葉(図では右下の「Anterior lobe」)に漂着する。その結果、下垂体からは各種の下垂体前葉ホルモンが血中に放出される。
 一方、黄色で示された神経分泌細胞群(真上および右上)の軸索末端は下垂体後葉まで伸びており、分泌物は直接に全身を巡る血管に放出される。こうやって放出されるホルモンは下垂体後葉ホルモンと呼ばれ、オキシトシンとADHがそれに該当する。


視床下部には何種類もの特殊な細胞群が集落を作っている
・視床下部に存在する特殊な
 細胞群としては、①視床下
 部ホルモン分泌細胞、②ド
 ーパミン神経細胞、③性ホ
 ルモン取り込み細胞、④温
 ニューロンと冷ニューロン、
 ⑤グルコース感受性ニュー
 ロンなどが存在する。
・これらの細胞群は、身体各
 部からの情報や大脳辺縁系
 からの情報を受け取り、下垂
 体あるいは全身に向けてホ
 ルモンを分泌したり、脳幹と
 脊髄の自律神経核、心臓血
 管中枢、呼吸中枢などへ
 経線維を送る。
 
図:James F. Thompson, Ph.D. MT(ASCP)より引用
・「視床下部は○○の中枢である」などと記載している書物があるが、視床下部が単独で中枢機能を
 担っているわけではなく、あくまで他の部分、たとえば辺縁系などとの共同作業によってその目的
 を達成している。

視床下部ホルモンについて
・上述した中で、①の視床下部ホルモン分泌細胞(神経分泌細胞)が分泌するホルモンについて下に
 まとめる。
・神経分泌細胞で合成されるホルモンの多くはペプチドであり、神経細胞の軸索末端部から血管内に
 直接に放出される。
・オキシトシンとバゾプレッシンは、下垂体後葉を通じて分泌されるため、下垂体後葉ホルモンとし
 て扱われる。従って、下垂体ホルモンのページに記した。



【視床下部ホルモンのまとめ(5種類)】
 <略して呼ばれることが多いため、その英語の意味の解説も付記しておいた。>

CRH corticotropin-releasing hormone
 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン

 略称はCRF(-factor)とされることもある。
 corticotropin:(=adrenocorticotropic hormone)
 release:「放出する」
 releasing hormone:「放出ホルモン」
 ・視床下部から分泌されるペプチドホルモンの一つ。(アミノ酸41残基)
 ・視床下部の底部にある正中隆起の血管網に放出され、下垂体門脈を通って下垂体前葉に到達し、
  副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を促進させる。
 ・糖質コルチコイドにより分泌が抑制される。

TRH thyrotropin-releasing hormone
 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン

 thyrotropin:(=thyroid stimulating hormone)
 releasing hormone:「放出ホルモン」(上記参照)
 ・視床下部から分泌されるペプチドホルモンの一つ。
 ・ピログルタミン酸・ヒスチジン・プロリンの3残基からなりC末端がアミド化されたペプチド
  (Glp-His-Pro-NH2) である。
 ・下垂体前葉からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)やプロラクチン(PRL)の分泌を促進させる。
 ・甲状腺ホルモンにより分泌が抑制される。

GnRH gonadotropin releasing hormone
 性腺刺激ホルモン放出ホルモン

 gonado-、gonad-:「性腺」の意の連結形
 tropin:=stimulating hormone
 releasing hormone:「放出ホルモン」(上記参照)
 ・視床下部から分泌されるペプチドホルモンの一つ。(アミノ酸10残基)
 ・下垂体前葉からの卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌を促進させる。
 ・GnRHは男性では一定の頻度で分泌されるのに対し、女性では月経周期によってその頻度が異なり、
  排卵前に急激に高まる。

GHRH (GHR) growth hormone-releasing hormone
 成長ホルモン放出ホルモン

 growth hormone:「成長ホルモン」
 releasing hormone:「放出ホルモン」
 ・視床下部から分泌されるペプチドホルモン。(アミノ酸44残基)
 ・成長ホルモン放出因子(GRF, GHRF) やソマトクリニンとも呼ばれる。
   somato-、somat-:「体」、「体の」の意の連結形
   crinin:「クリニン」(腺分泌促進物の古語)
 ・下垂体前葉からの成長ホルモンの分泌を促進させる。
 ・ソマトスタチンによってその作用が阻害される。

ソマトスタチン somatostatin
 (成長ホルモン分泌抑制ホルモン)

 somato-、somat-:(上記参照)
 statins:「スタチン(= releasing factors)」
 ・視床下部、膵臓のランゲルハンス島、消化管の内分泌細胞などから分泌されるホルモン。
 ・下垂体からの成長ホルモンの分泌抑制、ランゲルハンス島からのインスリンおよびグルカゴンの
  産生抑制・分泌抑制、消化管からの栄養の吸収抑制、セクレチン、ガストリン、胃液、胃酸の分泌
  抑制など。
 ・視床下部では、GHRHとソマトスタチンは、成長ホルモンの脈動の分泌によって交互に放出される。


<関連リンク>
下垂体ホルモン  甲状腺ホルモン  副腎皮質ホルモン  性ホルモン
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2012年2月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文