副腎皮質ホルモン


まず、副腎とは
・副腎(adrenal gland)は左右1対あり、腎臓の上端に接して
 おり、腎臓と共に脂肪皮膜と呼ばれる脂肪組織、およびその
 中にある線維性の膜である腎筋膜(ゲロータ筋膜)に包まれ
 て固定されている。
・重さは左右それぞれ約5~7グラムである。


副腎皮質は精巣や卵巣に似ていて、
 ステロイドホルモンを作る
副腎髄質は神経に似ていて、
 カテコールアミンを作る

・副腎は、表層の皮質(cortex)と中心部の髄質(medulla)から
 なり、両者は発生の起源や、その機能が異なる。
・皮質は中胚葉性であってステロイド
 ホルモンを分泌し、副腎重量の8割を
 占める。
・髄質は外胚葉性であってカテコ-ル
 アミンを分泌する。
 (ちなみに、外胚葉由来の器官は皮膚、
 神経系、感覚器など。内胚葉由来の
 器官は消化器、呼吸器、尿路など。
 中胚葉由来の器官は骨格系、筋系、
 脈管系、泌尿・生殖器系などである)
・以下、皮質について述べる。


副腎皮質は外側から 球状層、束状層、網状層
・副腎皮質はさらに3層に分けることができ、
 表層から順に球状層(あるいは球状帯:
 Zona glomerulosa)、束状層(あるいは
 束状帯:Zona fasciculata)、網状層(ある
 いは網状帯:Zona reticularis)と呼ばれる。
・それぞれの層を構成する細胞は、主として
 含有する合成酵素の種類が異なっており、
 それぞれ異なったステロイドホルモンを
 産生・分泌する。
・球状層では電解質コルチコイド(アルド
 ステロン
や11-デオキシコルチコステロン)、
 束状層では糖質コルチコイド(コルチゾル)、
 網状層では性ホルモン(デヒドロエピアン
 ドロステロン、アンドロステンジオンおよび
 少量の黄体ホルモンと卵胞ホルモン)が主
 として産生される。
・電解質コルチコイドと糖質コルチコイドは
 炭素数が21個のステロイドであるが、網状
 層から分泌される性ホルモンは炭素数が19
 個のステロイドである。

・副腎皮質が産生する炭素数21個のステロイドはどれもほぼ共通した働きをもつが、特に電解質の
 調節に強い活性をもつものが電解質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)、糖質の調節に強い
 活性をもつものが糖質コルチコイド(グルココルチコイド)と呼ばれる。
・炭素数19個のステロイドはアンドロジェン(男性ホルモン)活性を持つ。(後述)


副腎皮質刺激ホルモンのターゲットは副腎皮質全体ではない
下垂体から出る副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は主に内層の束状層と網状層に刺激を与え
 る(ACTHの受容体が存在する)が、外層の球状層には主にアンジオテンシンⅡが刺激を与
 える(アンジオテンシンⅡの受容体が存在する)。
・すなわち、ACTHは糖質コルチコイドと性ホルモンの分泌を増やすが、電解質コルチコイドの分泌は
 アンジオテンシンⅡに依存しているということである。


------<副腎皮質ホルモンの各論>----------------------

アルドステロンはNaの排泄を抑えることで血圧を上げる
・アルドステロンは主に副腎皮質の球状層にて産生・分泌
 される、炭素数21個のステロイドホルモンである。
・語源は次のようである。
 aldo-:「アルデヒド基(-CH=O)をもつ」の意
 sterone
  stereos :「[ギリシャ語]固体」
  -one:「ケトン(カルボニル基、>C=O)」の意の化合物
      名を作る。
・腎臓の遠位尿細管や集合管の上皮細胞に作用して、Na+
 の再吸収(尿として排泄しないで再度、血中に取り込むこ
 と)を促進し、それと交換にK+やH+の分泌(尿として排泄
 すること)を促進する。

アルドステロン C21H28O5
 (アルドステロンは、集合管の主細胞の尿細管腔側に存在するNa+チャネルやNa+/H+交換輸送体、
 基底膜側に存在するNa+/K+-ATPaseを活性化させ、Na+の再吸収を促進させ、また、K+チャネルを
 活性化させて、K+排泄を促進させる。また、集合管の間在細胞の尿細管腔側に存在するH+-ATPase
 を活性化させ、H+の排泄を促進させる。これは、Na+-HCO3-共輸送系も活性化されるため、体液は
 アルカリ性に傾こうとする。)
・血中のNa+が増えることによって、すぐにその濃度変化を緩和するために水の再吸収も増加し、血液
 量が増加する。すなわち、血圧が上昇することになる。従って、アルドステロンの分泌過剰は高血圧
 症状を引き起こす。
・アルドステロンの分泌が過剰になったものはアルドステロン症と呼ばれ、高血圧と、低カリウム血症
 による筋力低下が認められる。(一般的に、細胞膜ではNa+とK+は出入りが逆になる。
・アルドステロンは血漿中に約6ng/dl 存在しており、血漿タンパク質に結合していない遊離型も多い。
・炎症に対してはどちらかというと促進させる方向に働く。すなわち、コルチゾルとは逆である。
レニン・アンジオテンシン系にて産生されるアンジオテンシンⅡよって分泌が促進される。
・アンジオテンシンⅡは、アルドステロンの生合成経路において、コレステロールからプレグネノロン
 (ステロイドホルモンの前駆物質)への転換、およびコルチコステロンからアルドステロンへの転換
 を促進する。


コルチゾルはタンパク質を分解してまで糖質の生成・備蓄を行い
 身体の活動に備えて準備をする

・コルチゾル(cortisol)は副腎皮質の主に束状層にて産生・
 分泌される、炭素数21個のステロイドホルモンである。
・コルチゾールと表記されることもある。あるいは、ヒドロ
 コルチゾン (hydrocortisone) と呼ばれることもある。
・糖質コルチコイド活性の約95%はコルチゾルによる。
・一方、コルチゾン (cortisone) はコルチゾルの前駆体で
 あり、これ自体は不活性である。
末梢組織においてタンパク質を分解し血中へのアミノ酸
 の放出を促進する、
肝臓においてアミノ酸からの新生
 およびグリコーゲンの合成を促進
する、脳や心臓以外の
 細胞における糖の取り込みを抑制することなどで、結果と
 して血糖値を上昇させる。

コルチゾル C21H30O5
好酸球、好塩基球リンパ球を減少させ、好中球赤血球血小板を増加させる作用がある。これ
 は身体活動による怪我(細菌の侵入や出血など)への対応に注力することになり、逆に体内の異物
 への対応は疎かになる。
・タンパク質合成も抑制するため、抗体産生や肉芽の形成も抑えられ、いわゆる免疫抑制作用や抗炎症
 作用を示すことになる。
・コルチゾルの産生・分泌は下垂体からのACTHによって促進される。
 (コルチゾルの生合成経路において、コレステロールからプレグネノロンへの転換がステロイド合成
 の律速段階になっており、ACTHはこの段階を促進する。)
CRHACTH系 (すなわち視床下部下垂体系)の活動は、目的の物質が出来たかどうかをみる
 フィードバック機構と、生物時計(早朝に高く夕方に低くなる)によるものと、ストレス反応機構
 (ストレスがかかると高まる)によるものとの合算であるが、後2者の影響が多大である。
・コルチゾルの血漿中濃度は約13.5μg/dl であるが、大部分はコルチコステロイド結合グロブリンに
 結合しており、生理活性のある遊離型は少ない。

コルチゾルが過剰に分泌されると・・・
<慢性の糖質コルチコイド過剰症の例>
クッシング症候群(Cushing症候群)
・先天性のものはクッシング症候群(Cushing症候群)と呼ばれる。
・慢性的に糖質コルチコイド過剰が継続する疾患である。
・ACTHの過剰分泌による場合(ACTH依存性)と、ACTHに関係なく副腎において自律的に過剰分泌が
 起こる場合(ACTH非依存性)に分類できる。
・そのうち、ACTH依存性であって、下垂体腺腫が原因で起こるものはクッシング病(Cushing病)と
 呼ばれる。
・クッシング症候群の症状は、中心性肥満、満月様顔貌(ムーンフェイス)、高血圧(糖質コルチコイド
 が持つ鉱質コルチコイド作用によってナトリウムの再吸収が亢進するため)、一般糖尿病症状 、赤紫
 皮膚線条(中心性肥満により、皮膚が病的に裂けるため)、筋力低下(糖質コルチコイドが持つ鉱質
 コルチコイド作用によってカリウム利尿が亢進して低カリウム血症が起こるため)、骨粗鬆症など。
・また、過剰なストレスにより多量に分泌された場合、脳の海馬を萎縮させるとも言われている。
・治療としては、腫瘍があれば外科的な摘出、あるいは放射線による組織破壊、そして薬物療法の併用
 などが行われる。

副腎の機能が低下すると・・・
<原発性副腎皮質機能低下症の例>
◆アジソン(Addison)病
・先天性あるいは後天性に、副腎皮質組織の90%以上が障害されると発症する。(後天性の場合の原因
 は、結核や自己免疫によるものが多く、まれに癌の転移によるものがある。)
・副腎皮質ホルモンの全てにおいて、その分泌が低下する。
・基礎分泌だけは確保されている不全型と、基礎分泌も障害されている完全型とがある。
・主な症状は、色素沈着、倦怠感、脱力感、体重減少、胃腸障害、低血圧、低血糖、体毛脱落、精神症状
 など。
・治療としては、糖質コルチコイドのみの補充療法が行われる。
・その他の理由で副腎皮質の機能が低下したものは「急性副腎不全」あるいは「副腎不全」と言われる。


デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)やアンドロステンジオンは
 女性にとっては貴重な男性ホルモン

デヒドロエピアンドロステロンDehydroepiandrosterone、
 略称 DHEA)は、副腎皮質の主に網状層にて産生・分泌され
 る炭素数19個のステロイドホルモンであり、アンドロジェン
 (男性ホルモン)活性を持つ。
・DHEAは下垂体からのACTHにより分泌が促進される。
・分泌過剰は、女性では男性化を生じ、ひげや体毛の増加、声の
 低音化が起こる。
・副腎以外では性腺(精巣や卵巣)においても作られる。
・アンドロジェン活性としてはテストステロンの約5%程度だと
 言われるが、成人女性においてはアンドロステンジオンととも
 に重要なアンドロジェンである。


DHEA C19H28O2

アンドロステンジオンは、上述のDHEAや17-ヒドロキシプロ
 ゲステロンから生合成されるもので、DHEAと同じく、男性ホ
 ルモンであるテストステロン、あるいは女性ホルモンである
 エストロンやエストラジオールのそれぞれの生合成経路の中間
 生成物である。
・末梢組織に流れ着いてからテストステロンやエストロンに変換
 される。
・閉経前の女性のアンドロステンジオンの全生産量は約3mg/
 dayであり、副腎と卵巣からそれぞれ半量ずつ生産される。)
・副腎で生産されたアンドロステンジオンは副腎皮質ホルモン
 によって制御され、性腺で産生されたアンドロステンジオンは
 視床下部ホルモンであるゴナドトロピンによって制御される。

アンドロステンジオン
C19H26O2


<関連リンク>
アドレナリン(副腎髄質ホルモン)  視床下部ホルモン  下垂体ホルモン  性ホルモン
ストレスとは

2012年11月更新作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文