ミネラルの話


生物が主に使っている元素の種類はそれほど多くない
 しかし、生まれ育った環境中にあった元素はおよそ使われた

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18
H                                 He
Li Be                     B C N O F Ne
Na Mg                     Al Si P S Cl Ar
K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr
Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe
Cs Ba * Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi Po At Rn
Fr Ra ** Rf Db Sg Bh Hs Mt Ds Rg Cn Uut Uuq Uup Uuh   Uuo
                                   
* : La Ce Pr Nd Pm Sm Eu Gd Tb Dy Ho Er Tm Yb Lu    
**: Ac Th Pa U Np Pu Am Cm Bk Cf Es Fm Md No Lr    
人体で多量に使われている元素(H:60%、O:26%、C:11%、N:2.4%)
人体で次に多く使われている元素
人体で微量に使われている元素
人体で極微量に使われている元素      人工元素

ミネラルとは?
・ミネラルという語は主に栄養学で用いられる。
ナトリウム、カリウム、マグネシウムカルシウム、リン、硫黄、塩素、ヨウ素、クロム、マンガン、
 鉄、コバルト、銅、亜鉛、モリブデン、ヒ素、セレンなど
があり、それぞれが大変重要な役割を担って
 いる。(ただし、必要以上の濃度では毒性を示すものが多い。)
・無機質とも呼ばれ、五大栄養素(糖質脂質タンパク質ビタミン、ミネラル)の一つとされる。
・体の器官、組織、細胞の種類によって細胞が必要とする量は異なり、食事から摂取すべき量は、例えば
 人種、年齢、性別、消化管や腎臓の具合、一緒に食べる食材の種類によっても異なってくる。少なくて
 も多すぎても良くない。
・ここでは、それぞれのミネラルの各論ではなくて、代表的なミネラルであるナトリウム、カリウム、
 カルシウムあるいはマグネシウムを例にあげて、ミネラル全体を概観してみる。


細胞内液は原始海水
 カリウムやマグネシウムが多く、これらは細胞にとってたいへん重要

・地球上の生物は原始の海で生まれ、育った。
・当時の海水を細胞膜で包んだため、細胞の内液は当時
 の海水の塩分組成であった。
・当時の海水は陽イオンになるものとしてはカリウムや
 マグネシウムが多く、ナトリウムは少なかった。
  K > Mg2+ > Na

生きるために、どうしてミネラルが必要なのか?
 それは、これらの元素があるという環境の中で、これ
 らを利用して生命活動を行う仕組みが出来上がった
 からである。(ある代謝を行うためにはこの元素が
 必要だから・・と言う理屈では無い。生命の誕生以来、
 際限なく繰り返されてきた遺伝的変異によって、偶然
 にそこにあった元素が使われ、いつのまにか、それ無し
 では生きられなくなってしまったということである。)

今を生きるヒトの細胞内液も原始海水

 Plasma(血漿)、Interstitial fluid(間質液;組織液)、Intracellular fluid(細胞内液)
・陽イオンだけに注目すると、上図に示されているように、細胞内液における比率は次のようであり、
 カリウムイオンが最も多く、次にマグネシウムイオンが多く、ナトリウムイオンはかなり少ない。
  K > Mg2+ > Na
Ca2+(カルシウムイオン)はほとんど含まれていないことにも注目する必要がある。
・現在に生きる生物も、当時のままの、カリウムやマグネシウムが多い細胞質にて生命現象を営んでいる。
・ちなみに細胞内液における陰イオンの組成は次のようである。
  HPO2-(リン酸イオン) > HCO(重炭酸イオン) > Cl
 血漿や組織液中の塩素イオンに較べて、細胞内の塩素イオンはかなり少ない。


原始の海ではやがてナトリウムが増えたが、汲み出すポンプを用意
細胞外にナトリウムを追い出し、カリウムとマグネシウムを取り込んだ

・海水の成分や濃度は、生命誕生以来、
 大きく変動してきた。
・大規模な地殻の変動などにより、海水
 中にはナトリウム(塩化ナトリウム;
 Na+およびCl-)が大幅に増えてきた。
・細胞が栄養分などを取り込む(エンド
 サイトーシスの)ときに、ついついナト
 リウムも取り込んでしまうことになった
 が、これをポンプで汲み出すシステム
 が出来上がった。

この仕組みはヒトの細胞も使っている
・ちなみに、ヒトに存在するナトリウムポ
 ンプは正式名称を、Na+/K+-ATPアーゼ
 (英: Na+/K+-ATPase, NAKA)、或い
 はナトリウム・カリウムポンプと呼ばれ
 ている。
・このナトリウムポンプは、細胞内でのATPの加水分解と共役して、1回の動作で細胞内からナトリウム
 イオンを3個汲み出し、その代わりにカリウムイオンを2個取り込む。
・したがって、1回の動作で細胞内の陽イオンが1個減ることになり、細胞内は負(マイナス)に帯電する
 ことになる。
・また、細胞膜はイオンは通さないため、特定のイオンのみを通すチャネルを設けることによって、マグネ
 シウムなどの陽イオンは容易に細胞内に流入することが可能となった。
 (細胞の内外はリン脂質の二重膜でできており、極性のある大分子(グルコースなど)や、イオンのよう
 な電荷を持つ原子や分子(アミノ酸など)は特別な仕掛けを利用しない限り移動はできないようになって
 いるため、細胞内の恒常性を維持することが可能になっている。)


電位差があれば色々と利用できる
 原始的な単細胞生物も、ヒトの細胞も、植物の細胞も利用している

・やがて様々な種類のイオンチャネルが
 登場し、それを開くと外部の陽イオンが
 一気に流れ込み、細胞内外の電気的環境
 が一転する。
・この仕組みを利用して、細胞は色々な
 活動をする。ヒトを含めた進化した動物
 や植物もこのシステムを利用している。
・最も顕著な活動は、動物の神経系にお
 いて、神経細胞同士や、神経細胞から
 筋肉や腺などの他の体組織に情報を伝達
 する場合などである。
・ナトリウムイオンの流入によって正(プラ
 ス)に傾いた細胞内は、次の段階でカリ
 ウムイオンが細胞外に排出されることに
 よって電位の逆転を挽回するとともに、
 引き続きナトリウムポンプが稼動して元
 の電位差にまで復元することになる。
・このような電気的変化は活動電位と呼ば
 れる。
・活動電位の定義としては「なんらかの 刺激に応じて細胞膜に沿って流れる 微弱な電位変化のことで
 あり、主としてNa、Kのイオンチャネルを通した受動的拡散で、それらイオンの細胞内外の濃度差
 を変えることにより起こるものである。」

多細胞生物の細胞外液(組織液や血清)はNaの少し多い中期海水
海水の塩分濃度は更に濃くなったが、細胞内外の環境は変えなかった
・単細胞生物は海の中で、やがて多細胞生物に
 進化する。
・多細胞生物となった後も海水中のナトリウムは
 さらに増加したが、外皮の内側、すなわち細胞
 と細胞の隙間にある組織液の組成は中期海水
 の塩分組成を保つこととなった。(濃くなった海
 水に適応するよりは、濃い塩分を受け入れない
 あるいは排泄するしくみを持った生物が生き残
 った。)
・海から陸に上がった生物も、組織液としてナトリ
 ウムの多い中期海水を携えて上陸した。
 (生物が陸に上がった頃の海水の塩分濃度は
 0.9%程度で、今の生物の体液にほぼ等しいだ
 ろうと言われている。現代の海水はかなり濃く、
 塩分濃度は3.5%程度である。)
・現代の海水に棲む魚の組織液や細胞内液のミネラル組成も哺乳動物のそれとほとんど同じである。
 海水中の魚がエサと一緒に海水を胃袋に飲み込んでも、吸収される塩分は半分ほど。それでも濃くなる
 ためにエラにある高性能なナトリウムポンプで強制的に排泄している。

ヒトの組織液のイオン組成も中期海水
・実際に、組織液や血清中の陽イオンの組成は次のようであり、ナトリウムが圧倒的に多い。
  Na >> ・ Ca2+ ・ Mg2+
・ちなみに陰イオンの組成は次のようである。
  Cl >> HCO > その他
・ナトリウム・カリウムポンプの稼動によって、細胞内は原始海水、細胞外は中期海水の環境を維持しな
 がら生き永らえることになった。

<参考>現代の海水の主要成分濃度 [g/kg]
 陽イオン     濃度  陰イオン      濃度
 Na     10.65
 K       0.38
 Mg2+     1.27
 Ca2+      0.40
 Cl      18.98
 Br       0.065
 SO2-     2.65
 HCO    0.14
・現代の海水の塩分濃度は中期海水のそれよりも大幅に濃くなっているため(3.5~4倍)、そのままでは
 飲めなくなった。


海水中にカルシウムも増えてきたが、徹底的に汲み出すことになった
 細胞はカルシウムが嫌い!?

・カルシウムの細胞内における濃度は元々極めて小さく、海水中のカルシウム濃度が増大しても、細胞内の
 カルシウム濃度は極低濃度に保たれた。
・カルシウムを細胞外に汲み出すために、カルシウムポンプ、あるいはカルシウム・ナトリウム交換体
 用意された。(ヒトの細胞でも稼動している。)
・カルシウムポンプの稼動により、細胞内のカルシウムイオン濃度は外部の数千分の1~1万分の1(細胞
 外は約10-3M、 細胞内は10-7M、小胞体中の濃度も高い)に保たれている。

カルシウムは極微量しかないがゆえに、少しでも入ると影響が大きい
それならば、決定的な反応の引き金として使える

・カルシウムイオンの極めて高い内外濃度差ゆえに、わずかなカルシウムイオンが細胞に流入するだけで、
 細胞質中の遊離のカルシウムイオン濃度は大きく増加することになる。
・カルシウムイオンだけが通過できるチャネルを開くとカルシウムイオンが一気に流入し、細胞内環境が
 一気に変化するため、カルシウムは生命活動における決定的な反応の引き金として使われる
 ようになった。

・ヒトの細胞においては、カルシウムチャネル(カルシウムイオンチャネル)は、神経、筋、分泌細胞など
 の興奮性細胞に広く分布している。 <↓参考>
チャネルタイプ 活性化閾値電位 発現部位 機能
L型
 
高電位
 
骨格筋、骨芽細胞、心筋、
皮質ニューロンなどの樹状突起
平滑筋や心筋の収縮。心筋細胞
における長い活動電位の形成。
P型/Q型
 
高電位
 
小脳のプルキンエ細胞 /小脳顆
粒細胞
神経伝達物質の放出
 
N型 高電位 脳全体 神経伝達物質の放出
R型 中間電位 小脳顆粒細胞、他のニューロン  ?
T型 低電位 神経、洞房結節、骨芽細胞 規則的な洞調律

カルシウムが関わる生体反応
・受精のとき、精子の侵入点から卵の表面を伝
 わるカルシウム波
・筋肉(骨格筋、心筋、平滑筋)の収縮
・ニューロン終末からの伝達物質の放出
・ニューロンの軸索流(インパルスの伝導)
・血液凝固におけるⅣ因子
・血小板の活性化(変形、分泌)
リンパ球の活性化(幼弱化)
・白血球の活性化(運動、食作用)
・マスト細胞の活性化(ヒスタミンなどの分泌)
細胞からのホルモンなどの分泌現象(エキソ
 サイトーシス)
カテコールアミンのα受容体、アセチルコリン
 受容体を介する細胞の応答
・各種のカルシウム受容タンパク質の活性化
・細胞の分裂過程における染色体の移動
・微小管の重合阻害
・アポトーシスの促進  など

カルシウム波:卵細胞の右下方から精子が侵入

筋肉が収縮する前

筋肉の収縮している時

http://www.ibguides.com/biology/notes/nerves-and-hormonesの
「Nerves, hormones and homeostasis」より引用
 ↑筋肉が収縮する前は、ミオ
  シンがアクチンに結合する
  ことを、トロポニンが防い
  でいる。
  筋肉の収縮時には、カル
  シウムイオンがトロポニン
  に結合することによって
  ミオシンがアクチンに結合
  できるようになる。
  ミオシンはモータータンパ
  ク質であり、アクチンの分
  子鎖の上を滑って移動する。
  ミオシンはATPをADPとリン
  酸とマグネシウムイオンを
  遊離することによってエネ
  ルギーを獲得する。

←ニューロン終末部分におい
 て、カルシウムイオンが流入
 することによって、神経伝達
 物質が放出される。
・なお、カルシウムの詳細については別ページに記載する。


多細胞生物の組織液中や血漿中のマグネシウム濃度は既に微量
 マグネシウムを積極的に細胞内に取り込むメカニズムが生まれた

・マグネシウムイオンの血漿中濃度や組織液中の濃度は低いが細胞内液中の濃度は高い。したがって、細胞
 内にマグネシウムを取り込もうとすると、基本的にはエネルギーを使った能動輸送になる。
・マグネシウムイオン輸送体(マグネシウムイオントランスポーター)や、マグネシウム・ナトリウム交換体
 の存在が確認されており、その詳細はまだ研究途上である。


人体各所におけるマグネシウムの多くの役割
 バクテリア、動物、植物のいずれにとっても必須元素である
 カルシウムポンプもマグネシウムが存在してはじめて稼動できる

①各種のリン酸化酵素(キナーゼ、あるいはカイネース)の補因子として働く。
 (リン酸化酵素(リン酸転移酵素)が働く場合に2価の金属イオンを必要とし、
 Mg2+あるいはMn2+などが存在することによって酵素反応が進む。この場合、
 Mg2+あるいはMn2+などが補因子と呼ばれる。)

②各種の脱リン酸化酵素(ホスファターゼ)の補因子として働く。

リン酸基
【補足:上記の2つの酵素は生命現象の根幹とも言える重要な反応を進める酵素群である。例えば、ADP
 ←→ATPの変換、クレアチンやピルビン酸やグルコースなどにリン酸を付加したり脱リン酸したりなどの
 ように低分子を基質とする反応もあれば、タンパク質の特定のアミノ酸残基にリン酸を付加したり脱リン
 酸化することでタンパク質の部分的な疎水性/親水性を変化(リン酸の付加により親水性に変化)させ、
 結果としてタンパク質(各種のイオンポンプやチャネルなども含む)の構造変化を起こすことによって
 活性を調節する反応が数多くある。】

③カルシウムの作用に拮抗するような働きが確かめられている(例:血管内にカルシウムイオンを投与する
 と血管は収縮するが、マグネシウムイオンを投与すると血管は拡張する。細胞レベルでは、カルシウム
 流入によって起こる種々反応を抑制する方向に働く)。

④その他、次のような働きが言われているが、その詳細なメカニズムは明かでないことが多い。
 細胞あるいはリボソームの構造維持、刺激による神経の興奮抑制、刺激による筋の興奮促進、カルシウム
 やカリウム代謝への関与、骨や歯の形成、T細胞活性化のセカンドメッセンジャーなど。
 なお植物では葉緑素(クロロフィル)の中心金属として極めて重要である。
マグネシウムの詳細については別ページに記載する。


生物はこれらのミネラルがないと活動できない
 ミネラルバランスを保つために多くのエネルギーを費やしている

・細胞の生命活動の多くはこれらの複数のイオンの移動によってにもたらされている。
・イオン勾配を作り出すイオンポンプが消費するエネルギーは、食物より得ているエネルギーの多くが使わ
 れている。
・どのイオンもそれぞれ重要な働きをしているが、例えばカルシウムは、陸上に上がった生物でも常に一定
 の細胞内外濃度を保てるよう副甲状腺からのパラソルモン、甲状腺からのカルシトニン、食事や皮膚から
 腎臓を経て活性化されるビタミンDなどの働きにより、厳密にコントロールされている。また、急に不足
 することのないように、骨に貯蔵されている。
・1価の陽イオンであるNa+とK+、2価の陽イオンであるMg2+とCa2+は互いに密接な関係を持つと
 言われており、どちらかの濃度の上昇が他方の濃度の低下を招きやすいため、注意が必要である。


食事中のミネラル含有量や摂取量も大切であるが、一番大切なのは
 細胞内外のミネラル類の量やその流通である
特に2価の陽イオンは食べても、まともに吸収されない

《吸収について・・・・本当に吸収されているのか?》
・消化管に入ったミネラルは小腸(場合によっては十二指
 腸や大腸)などの消化管から吸収されるが、食べた量
 の全部が吸収されることはけっして無い。
・吸収されないミネラルの代表例としては、植物の種子
 などがリンを貯蔵するために使っているフィチン酸を
 構成しているリンを挙げることができる。
・フィチン酸は、カルシウムやマグネシウム、そのほか鉄
 や亜鉛等のミネラル類のイオンをを配位結合(キレート)
 によって捕捉し、フィチンと呼ばれる分子になる。
・フィチンに配位結合しているミネラル類は胃酸によって
 外れるが、十二指腸で中和されると再び陽イオンの状態
 のミネラルを配位結合してフィチンに戻る。
・一時的にフィチンから遊離したミネラルの陽イオンは、
 濃度が高ければ上部小腸から受動輸送によって吸収され
 ることになるが、再びフィチン酸に捕捉された陽イオンは
 吸収されない。
・基本骨格であるフィチン酸は、フィターゼと呼ばれる酵素
 によって分解できるが、ヒト自身はフィターゼを持ってい
 ない。
・フィターゼを持っている腸内細菌の力を借りればフィチン
 酸を分解可能であるが、分解されなかった分は、この状態
 で排泄されてしまう。

 フィチン
(フィチン酸に、カルシウムやマグネ
シウム、鉄などのミネラル類のイオンが
配位結合した物質。胃酸によってミネラル
類が遊離するが、十二指腸で中和されれ
ば、再びミネラル類を捕捉してフィチン
に戻る。)
・本来生物の消化管は、体内で足りているミネラルは能動輸送しない仕組みになっている。(ほぼミネラルに
 限っての話であり、糖や脂質などはどんどん吸収されてしまう。人類も貧栄養素環境で進化してきたから。)
・基本的に、ミネラルが吸収されるためには、食物中で何らかの有機物に結合していたミネラルが遊離して
 イオンにならなければならない。
・多くのミネラル類は胃の中で胃酸によって溶け
 出され、Na+、K+、Cl-などの1価のイオンはその
 ままイオン状態を保ちやすいが、Mg2+やCa2+
 などの2価のイオンは膵液で中和されると再び
 他の分子(例:パルミチン酸やステアリン酸の
 ような脂肪酸やリン酸など)に結合しやすく、
 腸管における吸収は不可能になる。
・動物の肉や乳製品、あるいは一般的な油もの
 に含まれる中性脂肪は腸管内で分解されると
 多くのステアリン酸やパルミチン酸を遊離する
 ため、これにカルシウムやマグネシウムが結合
 する。
・すなわち、塩化ナトリウムは吸収されやすいが、
 カルシウムやマグネシウムは吸収されにくい。

パルミチン酸カルシウム
(このような脂肪酸とカルシウム、あるいは
マグネシウムの化合物は水には難溶であり、
腸管からは吸収されない。)
・ただし、乳酸菌などの腸内細菌が排出した酸によって結合状態のカルシウムやマグネシウムが再びイオン化
 すれば吸収されるようになる。しかし、肉や乳製品の過剰摂取によって腸内細菌がバクテロイデス属など
 のいわゆる悪玉菌が占めてしまうと吸収が阻害されることになる。
・食事中のミネラル含有量や食べる量に気を配っていても、吸収には上述のような様々な条件があり、総合的
 に食べ物の種類や腸内環境を適正化していく必要がある。

《排泄について・・・・余分に排泄されているのではないのか?》
・体内で特定のミネラルが不足してきた場合、摂取量が少ないのではなく排泄量が多すぎる場合もある。
 ただし、上述の吸収と違っていわば自動でコントロールされているので、異常があった場合にはそれは腎臓
 の機能異常である可能性が高い。(例:高カルシウム尿症、高マグネシウム尿症など)。
・腎臓は不用なものを捨てるのではなく、少なくとも水に溶けている低分子は一度全部を捨てておいてから
 (原尿)、欲しいものだけを拾い上げる(再吸収する)方法をとっている。再吸収は上述のイオンポンプ、
 イオン輸送体、イオン交換体、イオンチャネルなどによって行われる。腎臓に機能異常があれば適正なミネ
 ラルバランスは保てない。
・イオンにならずに血液中のタンパク質(アルブミンなど)に結合しているミネラルは保持される。このよう
 な働きをするタンパク質の減少や機能異常によっても尿中排泄量は増加することになる。
・カルシウムやマグネシウムの貯蔵場所になっている骨は物理的な刺激が無いとこれらのミネラルの貯蔵量
 を減らして軽量化する(骨芽細胞に対して破骨細胞の活動が優位になる)。

《ミネラル類の細胞内濃度について》
・細胞内液のミネラルのイオン組成は数々の機構によって厳密に管理されており、生命活動における細胞の
 中心的な仕事である。
・細胞内にもミネラルの貯蔵器官(小胞体、ミトコンドリアなど)があり、ミネラルの細胞内濃度変化を防い
 でいる。
・血中濃度が適正値であっても、細胞内濃度が適正とは限らない。(各種のイオンポンプに異常があれば、各
 種イオンの適正な出し入れができない。)
・それぞれの細胞の健康が全身の健康の元になる。


<関連リンク>
カルシウム マグネシウム 糖質(炭水化物) タンパク質 アミノ酸
必須脂肪酸 脂溶性ビタミン 水溶性ビタミン

2013年1月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文