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生物が主に使っている元素の種類はそれほど多くない しかし、生まれ育った環境中にあった元素はおよそ使われた
ミネラルとは? ・ミネラルという語は主に栄養学で用いられる。 ・ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、硫黄、塩素、ヨウ素、クロム、マンガン、 鉄、コバルト、銅、亜鉛、モリブデン、ヒ素、セレンなどがあり、それぞれが大変重要な役割を担って いる。(ただし、必要以上の濃度では毒性を示すものが多い。) ・無機質とも呼ばれ、五大栄養素(糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル)の一つとされる。 ・体の器官、組織、細胞の種類によって細胞が必要とする量は異なり、食事から摂取すべき量は、例えば 人種、年齢、性別、消化管や腎臓の具合、一緒に食べる食材の種類によっても異なってくる。少なくて も多すぎても良くない。 ・ここでは、それぞれのミネラルの各論ではなくて、代表的なミネラルであるナトリウム、カリウム、 カルシウムあるいはマグネシウムを例にあげて、ミネラル全体を概観してみる。 細胞内液は原始海水 カリウムやマグネシウムが多く、これらは細胞にとってたいへん重要
今を生きるヒトの細胞内液も原始海水
カリウムイオンが最も多く、次にマグネシウムイオンが多く、ナトリウムイオンはかなり少ない。 K+ > Mg2+ > Na+ ・Ca2+(カルシウムイオン)はほとんど含まれていないことにも注目する必要がある。 ・現在に生きる生物も、当時のままの、カリウムやマグネシウムが多い細胞質にて生命現象を営んでいる。 ・ちなみに細胞内液における陰イオンの組成は次のようである。 HPO42-(リン酸イオン) > HCO3-(重炭酸イオン) > Cl- 血漿や組織液中の塩素イオンに較べて、細胞内の塩素イオンはかなり少ない。 原始の海ではやがてナトリウムが増えたが、汲み出すポンプを用意 細胞外にナトリウムを追い出し、カリウムとマグネシウムを取り込んだ
イオンを3個汲み出し、その代わりにカリウムイオンを2個取り込む。 ・したがって、1回の動作で細胞内の陽イオンが1個減ることになり、細胞内は負(マイナス)に帯電する ことになる。 ・また、細胞膜はイオンは通さないため、特定のイオンのみを通すチャネルを設けることによって、マグネ シウムなどの陽イオンは容易に細胞内に流入することが可能となった。 (細胞の内外はリン脂質の二重膜でできており、極性のある大分子(グルコースなど)や、イオンのよう な電荷を持つ原子や分子(アミノ酸など)は特別な仕掛けを利用しない限り移動はできないようになって いるため、細胞内の恒常性を維持することが可能になっている。) 電位差があれば色々と利用できる 原始的な単細胞生物も、ヒトの細胞も、植物の細胞も利用している
あり、主としてNa+、K+のイオンチャネルを通した受動的拡散で、それらイオンの細胞内外の濃度差 を変えることにより起こるものである。」 多細胞生物の細胞外液(組織液や血清)はNa+の少し多い中期海水 海水の塩分濃度は更に濃くなったが、細胞内外の環境は変えなかった
海水中の魚がエサと一緒に海水を胃袋に飲み込んでも、吸収される塩分は半分ほど。それでも濃くなる ためにエラにある高性能なナトリウムポンプで強制的に排泄している。 ヒトの組織液のイオン組成も中期海水 ・実際に、組織液や血清中の陽イオンの組成は次のようであり、ナトリウムが圧倒的に多い。 Na+ >> K+ ・ Ca2+ ・ Mg2+ ・ちなみに陰イオンの組成は次のようである。 Cl- >> HCO3- > その他 ・ナトリウム・カリウムポンプの稼動によって、細胞内は原始海水、細胞外は中期海水の環境を維持しな がら生き永らえることになった。 <参考>現代の海水の主要成分濃度 [g/kg]
飲めなくなった。 海水中にカルシウムも増えてきたが、徹底的に汲み出すことになった 細胞はカルシウムが嫌い!? ・カルシウムの細胞内における濃度は元々極めて小さく、海水中のカルシウム濃度が増大しても、細胞内の カルシウム濃度は極低濃度に保たれた。 ・カルシウムを細胞外に汲み出すために、カルシウムポンプ、あるいはカルシウム・ナトリウム交換体が 用意された。(ヒトの細胞でも稼動している。) ・カルシウムポンプの稼動により、細胞内のカルシウムイオン濃度は外部の数千分の1~1万分の1(細胞 外は約10-3M、 細胞内は10-7M、小胞体中の濃度も高い)に保たれている。
カルシウムは極微量しかないがゆえに、少しでも入ると影響が大きい それならば、決定的な反応の引き金として使える ・カルシウムイオンの極めて高い内外濃度差ゆえに、わずかなカルシウムイオンが細胞に流入するだけで、 細胞質中の遊離のカルシウムイオン濃度は大きく増加することになる。 ・カルシウムイオンだけが通過できるチャネルを開くとカルシウムイオンが一気に流入し、細胞内環境が 一気に変化するため、カルシウムは生命活動における決定的な反応の引き金として使われる ようになった。 ・ヒトの細胞においては、カルシウムチャネル(カルシウムイオンチャネル)は、神経、筋、分泌細胞など の興奮性細胞に広く分布している。 <↓参考>
多細胞生物の組織液中や血漿中のマグネシウム濃度は既に微量 マグネシウムを積極的に細胞内に取り込むメカニズムが生まれた
内にマグネシウムを取り込もうとすると、基本的にはエネルギーを使った能動輸送になる。 ・マグネシウムイオン輸送体(マグネシウムイオントランスポーター)や、マグネシウム・ナトリウム交換体 の存在が確認されており、その詳細はまだ研究途上である。 人体各所におけるマグネシウムの多くの役割 バクテリア、動物、植物のいずれにとっても必須元素である カルシウムポンプもマグネシウムが存在してはじめて稼動できる
←→ATPの変換、クレアチンやピルビン酸やグルコースなどにリン酸を付加したり脱リン酸したりなどの ように低分子を基質とする反応もあれば、タンパク質の特定のアミノ酸残基にリン酸を付加したり脱リン 酸化することでタンパク質の部分的な疎水性/親水性を変化(リン酸の付加により親水性に変化)させ、 結果としてタンパク質(各種のイオンポンプやチャネルなども含む)の構造変化を起こすことによって 活性を調節する反応が数多くある。】 ③カルシウムの作用に拮抗するような働きが確かめられている(例:血管内にカルシウムイオンを投与する と血管は収縮するが、マグネシウムイオンを投与すると血管は拡張する。細胞レベルでは、カルシウム 流入によって起こる種々反応を抑制する方向に働く)。 ④その他、次のような働きが言われているが、その詳細なメカニズムは明かでないことが多い。 細胞あるいはリボソームの構造維持、刺激による神経の興奮抑制、刺激による筋の興奮促進、カルシウム やカリウム代謝への関与、骨や歯の形成、T細胞活性化のセカンドメッセンジャーなど。 なお植物では葉緑素(クロロフィル)の中心金属として極めて重要である。 ・マグネシウムの詳細については別ページに記載する。 生物はこれらのミネラルがないと活動できない ミネラルバランスを保つために多くのエネルギーを費やしている ・細胞の生命活動の多くはこれらの複数のイオンの移動によってにもたらされている。 ・イオン勾配を作り出すイオンポンプが消費するエネルギーは、食物より得ているエネルギーの多くが使わ れている。 ・どのイオンもそれぞれ重要な働きをしているが、例えばカルシウムは、陸上に上がった生物でも常に一定 の細胞内外濃度を保てるよう副甲状腺からのパラソルモン、甲状腺からのカルシトニン、食事や皮膚から 腎臓を経て活性化されるビタミンDなどの働きにより、厳密にコントロールされている。また、急に不足 することのないように、骨に貯蔵されている。 ・1価の陽イオンであるNa+とK+、2価の陽イオンであるMg2+とCa2+は互いに密接な関係を持つと 言われており、どちらかの濃度の上昇が他方の濃度の低下を招きやすいため、注意が必要である。 食事中のミネラル含有量や摂取量も大切であるが、一番大切なのは 細胞内外のミネラル類の量やその流通である 特に2価の陽イオンは食べても、まともに吸収されない
限っての話であり、糖や脂質などはどんどん吸収されてしまう。人類も貧栄養素環境で進化してきたから。) ・基本的に、ミネラルが吸収されるためには、食物中で何らかの有機物に結合していたミネラルが遊離して イオンにならなければならない。
すれば吸収されるようになる。しかし、肉や乳製品の過剰摂取によって腸内細菌がバクテロイデス属など のいわゆる悪玉菌が占めてしまうと吸収が阻害されることになる。 ・食事中のミネラル含有量や食べる量に気を配っていても、吸収には上述のような様々な条件があり、総合的 に食べ物の種類や腸内環境を適正化していく必要がある。 《排泄について・・・・余分に排泄されているのではないのか?》 ・体内で特定のミネラルが不足してきた場合、摂取量が少ないのではなく排泄量が多すぎる場合もある。 ただし、上述の吸収と違っていわば自動でコントロールされているので、異常があった場合にはそれは腎臓 の機能異常である可能性が高い。(例:高カルシウム尿症、高マグネシウム尿症など)。 ・腎臓は不用なものを捨てるのではなく、少なくとも水に溶けている低分子は一度全部を捨てておいてから (原尿)、欲しいものだけを拾い上げる(再吸収する)方法をとっている。再吸収は上述のイオンポンプ、 イオン輸送体、イオン交換体、イオンチャネルなどによって行われる。腎臓に機能異常があれば適正なミネ ラルバランスは保てない。 ・イオンにならずに血液中のタンパク質(アルブミンなど)に結合しているミネラルは保持される。このよう な働きをするタンパク質の減少や機能異常によっても尿中排泄量は増加することになる。 ・カルシウムやマグネシウムの貯蔵場所になっている骨は物理的な刺激が無いとこれらのミネラルの貯蔵量 を減らして軽量化する(骨芽細胞に対して破骨細胞の活動が優位になる)。 《ミネラル類の細胞内濃度について》 ・細胞内液のミネラルのイオン組成は数々の機構によって厳密に管理されており、生命活動における細胞の 中心的な仕事である。 ・細胞内にもミネラルの貯蔵器官(小胞体、ミトコンドリアなど)があり、ミネラルの細胞内濃度変化を防い でいる。 ・血中濃度が適正値であっても、細胞内濃度が適正とは限らない。(各種のイオンポンプに異常があれば、各 種イオンの適正な出し入れができない。) ・それぞれの細胞の健康が全身の健康の元になる。 <関連リンク> ◆カルシウム ◆マグネシウム ◆糖質(炭水化物) ◆タンパク質 ◆アミノ酸 ◆必須脂肪酸 ◆脂溶性ビタミン ◆水溶性ビタミン |