必須脂肪酸とは ・狭義ではリノール酸とα-リノレン酸のみを指す。 ・これらはヒトの体内では合成できないため、必ず食事から摂取しなければならない。 ・体内での代謝は下記のようであるが、オレイン酸からリノール酸の合成、およびリノール酸からα-リノレン酸の 合成は植物でのみ可能となっている。 ・天然においては、これらの脂肪酸の多くはグリセロール(グリセリン)と結合してトリグリセリドの形で存在する と考えられており(後述)、少なくともヒトの小腸で吸収された直後にはジグリセリドやトリグリセリドに再合成 され、さらにリポタンパク質の膜に覆われたカイロミクロンとなり、リンパ管に入る。 <生合成・代謝経路>
動物においては、オレイン酸からリノール酸、およびリノール酸からα-リノレン酸の合成ができない(二つ以上存在 する二重結合のω端側には二重結合を増やすことができない)。 ・従って、リノール酸やα-リノレン酸は食物から摂取する必要がある。 ・リノール酸やα-リノレン酸を元にして、体内でプロスタグランディンなどの重要な生理活性物質が作られるため、 不足すると健康を保つことはできなくなる。 ・体内での炎症反応を進めるプロスタグランディン(E2やI2などの2グループ)は、リノール酸からアラキドン酸を 経由して合成される。ステロイド薬はアラキドン酸が生成されないように働くことで炎症を抑え、非ステロイド性 消炎鎮痛薬はアラキドン酸からのプロスタグランディン類生成を抑えることで解熱鎮痛作用をもたらす。 ・ω-3系から生成されるプロスタグランディン類については、健康食品や美容関係者からのコマーシャルベースでの 誤情報がWeb上に散乱しているが、正式な科学的なデータが揃うまでは言及を避けた方が良さそうである。 後述するように、ω-6系とω-3系の摂取量とそのバランスに気をつけて摂取するようにすれば良い。 各必須脂肪酸の特徴 ◆リノール酸(linoleic acid、9,12-octadecadienoic acid)の特徴
特に、α-リノレン酸は不足しがちである ・リノール酸とα-リノレン酸の理想的な摂取割合は、4:1から2:1の比率であると言われている。 ・現代においてはリノール酸の摂取不足はあまり考えられないが、α-リノレン酸の不足は大いに考えられる。 (一般的な食用油におけるα-リノレン酸の含有量は少ない、あるいは極めて少ないため、亜麻仁油またはエゴ マ油を1日にスプーン1杯ほど飲めば摂取できる。) ・必要量は「日本人の食事摂取基準(2005年版)」で成人では、ω-6系脂肪酸は1日に7~12グラム以上、ω-3 系脂肪酸は、1日に2.0~2.9グラム以上と示されている。なお、ω-3系脂肪酸の多量摂取はNK細胞の活性を 低下させるという報告もあるため、あくまで適正量を摂取すべきである。 ・国際的に脂質を評価しているISSFAL(International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids)は、 必須脂肪酸の1日あたりの適正な摂取量は、リノール酸は全カロリーの2%、α-リノレン酸0.7%、冠動脈の 健康のためにEPAとDHAを合計で最低500mgとしている。 (なお、油であるため、過剰摂取(合計で2g以上)は避けるべきである。) ・必須脂肪酸は、広義ではこれに、ω-6脂肪酸ではγ-リノレン酸とアラキドン酸、ω-3脂肪酸ではエイコサペン タエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸 (DHA)を含める。理由は、これらは体内で合成できるが、多くは合成 できないとされるため。 ◆EPAについて ・3グループのプロスタグランジン、トロンボキサン-3、ロイコトリエン-5、およびDHAの前駆体であるとされ ており、α-リノレン酸から生合成される。 ・中性脂肪低下作用、抗血小板作用があるとされており、健康目的でDHAとともにサプリメントとして用いられ ている。 ◆DHAについて ・脳や神経組織、精子、網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。 ・ DHAの摂取は血中の中性脂肪量を減少させることによる心臓病の危険低減、アルツハイマー型痴呆やうつ病 などの疾病に対しても有効であるとされる。 ・不足すると脳内セロトニンの量が減少し、幼少時であれば多動性障害(多動性、不注意、衝動性などの症状を 特徴とする発達障害あるいは行動障害)、全年齢的にはうつ病の発症リスクを増やすとの報告がある。 ・魚油に多く含まれる(海産の微生物によって生産されたものが、食物連鎖の過程で濃縮されたものである)。 必須脂肪酸はどんな形で含まれているのか ・普通の状態の植物油に含まれる脂肪酸は、その96~98%がトリアシルグリセロール(triacylglycerol)の形で存在 すると言われる。 ・アシル基とはカルボン酸からヒドロキシ基(-OH)をのぞいた形((R-CO-)の原子団のことをいう。 ・トリアシルグリセロールはトリグリセライド、トリグリセリド(triglyceride)とも呼ばれる。略してTAGまたは TGと表される。 ・TGは、1分子のグリセロール(グリセリン)に3分子の脂肪酸が結合(エステル結合)したものである。 ・脂肪酸に対し、TGは一般に中性脂肪とも呼ばれるが、植物性のものの多くは液体であり、「中性脂質」と呼ぶ のであれば許されるであろう。 ・ちなみに、ヒトの血漿中では、脂肪酸類の何割かはコレステロールと結合したコレステロールエステル(アシル コレステロール)であるとされる。 脂肪酸の分類 ・脂肪酸とは、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸であるが、炭素数が多いもの、特に12(ラウリン酸)以上の脂肪酸 を一般に高級脂肪酸と呼ぶ。 ・脂肪酸 は炭素数および不飽和結合の有無によって主に分類される。 ・不飽和度による分類はさまざまであるが、基本的には以下の分類に従う。 ①飽和脂肪酸(saturated fatty acid, SFA)・・・炭素鎖に二重結合あるいは三重結合を有しない(飽和である)。 ②不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid, UFA)・・・炭素鎖に二重結合、三重結合を有する。 また不飽和脂肪酸は二重結合の数が1つであるか、複数であるかによって以下の分類がなされる。 ①-a.一価不飽和脂肪酸(モノエン脂肪酸)・・・二重結合の数が1つである。 ②-b.多価不飽和脂肪酸(ポリエン脂肪酸)・・・二重結合の数が2つ以上である。二重結合の数が4つ以上の ものを高度不飽和脂肪酸と呼ぶ場合もある。 ・鎖状のみならず分枝鎖を含む脂肪酸も見つかっている。また環状構造を持つ脂肪酸も見つかってきている。
特に腸内細菌の影響が大きい反芻動物(ウシ、ヤギなど)の肉や乳にも含まれている。(その含有量は、肉や 乳中の脂質のうち2~5%ほどであるとされる。) ・トランス脂肪酸は人工的にも生成され、特に不飽和脂肪酸に水素添加して固形化する行程で生成しやすく、 その他、天然の植物油を精製・脱臭する行程でも生成すると言われる。また、調理のときの加熱や酸化時にも わずかながら生成するようである。 ・トランス脂肪酸が多く含まれる可能性が高い食品としては(製造者、製品、商品によってその含有量は様々で あるが)、一般的に、マーガリン、ショートニングおよびこれを用いた製品(菓子パン、クッキー、ドーナツ、 コーヒーフレッシュ、カレールーなど)、フライドポテト、揚げ物などがあげられる。高含有の商品では、一食 あたり3gほども含まれているようである。 トランス脂肪酸もβ酸化で代謝されるが・・・ ・トランス脂肪酸は、シス型(シス体)の脂肪酸の代謝と同じようにβ酸化によって代謝され、エネルギー源と して消費されるため、体内に蓄積されることはないとされている。 ・しかし、疫学的な調査結果として、トランス脂肪酸はLDLを増やし、HDLを減らし、心臓病のリスクを高めると の報告がなされており、これを受けて一方的に警告を促している団体や管理栄養士などが存在する。一方で、 これらを本格的に研究している研究者の中には、まだまだデータ不足であるとする意見もある。(本来、人体 にて比較実験をすることは不可能なことであり、疫学的調査に頼るしかないが、多量のトランス脂肪を摂った 証拠が無い限り、たとえば冠動脈疾患の原因がトランス脂肪であったとも結論づけられないということである) ・唯一言えることは、人体はトランス脂肪酸が無くても、天然のシス体のリノール酸とαリノレン酸をがあれば 生きてゆけるわけであり、人為的な行程で増えた物質の摂取は控えた方が無難であるということである。 <関連リンク> ◆中性脂肪 ◆コレステロール ◆糖質(炭水化物) ◆タンパク質 ◆アミノ酸 ◆脂溶性ビタミン ◆水溶性ビタミン ◆ミネラルの話 ◆栄養 ◆消化と吸収 ◆栄養素の代謝 ◆うつ病と対策 |