脂溶性ビタミン

<脂溶性ビタミン(ビタミンD,A,K,E)>


脂溶性ビタミンの一般的な話
 ・脂溶性ビタミンは、水溶性ビタミに較べて体内に保持・蓄積されやすいため、毎食事ごとに摂取する
  必要性は少ない。
 ・過剰に摂取された分はすぐには排泄されないために、過剰症には注意が必要である。
 ・現代の日本において、健康体の人がバランスのとれた食生活をしている限り、この4種類のビタミンが
  不足することはあまり無いと考えてよい。
 ・不足する場合は、ビタミンの種類によって様々であり、下に述べる。

ビタミンD
 ・ビタミンDには2種類あり、一つはビタミンD2(エルゴカルシフェロール、Ergocalciferol)、もう一つは
  ビタミンD3(コルカルシフェロール、Cholecalciferol)である。
 ・ビタミンD2は、酵母、キノコ、植物に含まれるエルゴステロールに紫外線が当たると生じる。
 ・ビタミンD3は、魚類、卵、乳製品などに含まれている。
 ・また、体内でコレステロールから生合成されて皮膚に蓄えられているプロビタミンD3(7-デヒドロコレ
  ステロール)が紫外線に当たることによってもビタミンD3が生じる。
 ・ビタミンD3は肝臓、さらに腎臓にて活性型ビタミンD(1,25(OH)23など)に変換される。
 ・ヒトでは、ビタミンD2とビタミンD3で効果に差はないという報告と、D3の方がより効果的とする報告
  がある。
 ・ビタミンDは脂溶性ビタミンに分類されるが、実際にはホルモンとしても扱われる。
 ・ビタミンDの生理作用は次のようなものがある。
   ・骨代謝を促進する(破骨細胞も骨芽細胞も活性化する)。
   ・腎臓でのカルシウムの再吸収を促進する。
   ・腸上皮細胞に作用してカルシウムとリンの吸収を促進する。
   ・上皮小体ホルモン(血中カルシウムの濃度を上昇させる)の働きを抑制する。
   ・骨に対しては上皮小体ホルモンと同様に骨吸収を促進する。
 ・日照不足、日光浴不足、過度な紫外線対策、ビタミンD吸収障害、肝障害や腎障害によってビタミンD
  が欠乏し、くる病、骨軟化症、骨粗鬆症が引き起こされることがある。
 ・ビタミンDの生合成は厳密に調節されており、過剰のビタミンDを摂取した場合は毒性を示す。過剰症
  としては、高カルシウム血症、腎障害(多尿)、石灰沈着、悪心、嘔吐、食欲不振、体重減少などが言
  われている。

ビタミンA
 ・ビタミンAとは、レチノール(Retinol、ビタミンAアルコール)、レチナール(Retinal、ビタミンAアルデ
  ヒド)、レチノイン酸(Retinoic Acid、ビタミンA酸)(これらをビタミンA1と呼ぶ)、およびこれらの3-
  デヒドロ体(ビタミンA2)と、その誘導体の総称であり、レチノイドとも呼ばれる。
 ・血液中のビタミンAはほとんどがレチノールである。
 ・植物に多く存在する赤橙色色素の一つβ-カロテン(β-carotene)などが、小腸の吸収上皮細胞(あるいは
  肝臓、腎臓)において分解されてビタミンA になる。
 ・レチノイドの名前は網膜(retina)に由来する。
 ・眼球の網膜上にある視細胞のうち、薄暗いところでも明暗に反応する杆状体細胞において、レチナール
  (retinal)は、リシン残基を介して杆体オプシン(タンパク質)と結合し、ロドプシンとなる。
 ・ロドプシン(視紅とも呼ばれる)は脊椎動物の光受容器細胞に存在する色素であり、光受容器細胞の形成
  と光の認識の初期段階をつかさどる。
 ・その他、ビタミンAは骨端軟骨増殖層(成長軟骨板)の増殖に関与しており、骨の長軸方向の成長に欠か
  せないものであり、欠乏することによって長軸方向の成長阻害が起こるとされる。
 ・また、レチノイン酸はムコ多糖の生合成を促進して細胞膜の抵抗性を増強するといわれており、欠乏に
  より皮膚の乾燥が起こる。
 ・ビタミンAの欠乏症をまとめると、夜盲症、長管骨の生長阻害、皮膚の角化亢進、角膜の乾燥、気道の
  易感染性、消化管の吸収障害、尿路結石、胎児奇形、骨粗鬆症などとなる。
 ・現在の日本では、通常の食生活を送る限り不足になることはあまりないが、授乳婦においては所要量が
  大幅に増える。
 ・また、通常の食事で過剰になることも少ないが、外洋魚の肝臓などを過剰摂取するとビタミンA過剰症も
  起こり得る。
 ・過剰症としては、軽度であれば下痢などの食中毒様症状、重篤であれば倦怠感、皮膚乾燥、眼球乾燥、
  食欲不振、吐き気、脱毛、肝脾腫大、四肢長管骨の有痛性腫脹、頭痛、悪寒、関節痛、口唇炎などが言わ
  れている。
 ・プロビタミンAであるβ-カロチンには過剰摂取による障害がない。

ビタミンK
 ・ビタミンKは、各種タンパク質(ビタミンK依存性タンパク)生合成においてグルタミン酸をγ-カルボキシ
  グルタミン酸に変換する時の補酵素として働く。
 ・ビタミンK依存の例
   ① 血液凝固に関わる第Ⅱ因子(プロトロンビン)、第Ⅶ因子、第Ⅸ因子(クリスマス因子)、第Ⅹ因子
     (スチ ュアート因子)。→ビタミンK欠乏により、血液が固まらなくなる。
   ② 骨に存在するタンパク質であるオステオカルシン。→ビタミンK欠乏により、骨密度が低下する。
   ③ カルシウムの沈着(石灰化)を抑えるMGP(Matrix Gla Protein)。→ビタミンK欠乏により
    動脈の石灰化が亢進する。
 ・天然のビタミンK
   ビタミンK1(フィロキノン):主に植物に含まれ、緑葉野菜、植物油、豆類、海藻類、魚介類などに
                 多く含まれる。
   ビタミンK2  メナキノン-4:動物性食品に広く含まれる。
           メナキノン-7:納豆に多く含まれる。
           メナキノン-n:腸内細菌が産生する。
 ・人工合成のビタミンK
   ビタミンK3(メナジオン):使用中止
   ビタミンK4(メナジオール二リン酸ナトリウム):医薬品として使用される。
 ・通常の食事をしている人ではビタミンK不足ほとんど無い。しかし、新生児では腸内細菌が発達していな
  かったり、母乳中のビタミンK量が少ないため、欠乏症を起こしやすい。また、高齢者では不足気味に
  なると言われている。
 ・他の脂溶性ビタミンよりは蓄積性は低いと言われるが、過剰症としては、溶血性貧血、過ビリルビン血症
  などが言われている。

ビタミンE
 ・トコフェロール(tocopherol)とも呼ばれる。D体とL体があり、メチル基の位置によってα, β, γ, δ の4種
  があるため、合計で8種類が存在することになるが、天然にはD体のα-トコフェロール、次いでγ-トコフェ
  ロールが多い。
 ・生体内では主に抗酸化物質として働くと考えられている。(代謝によって生じるフリーラジカルから細胞
  を守る。フリーラジカルは脂質を過酸化脂質に変えたり、DNAやタンパク質を攻撃することでがん化
  原因ともなりうる。)
 ・副次的効果として生体膜安定化作用、その他、血行促進作用、ホルモン分泌作用、抗血栓作用があると
  言われている。
 ・疾病の治療、栄養の補給、食品添加物の酸化防止剤として、医薬品、食品、飼料などに広く利用されて
  いる。
 ・植物、藻類、藍藻などの光合成生物により合成され、それを食する魚介類などの動物にも蓄積及び保持
  される。食品に広く存在するが、多く含む食品の例としては、魚類の卵、魚介類、豆類や植物油、茶葉
  や野菜類などがあげられる。
 ・欠乏症としては、未熟児において、溶血性貧血、深部感覚異常及び小脳失調の原因となることが知られて
  いる。成人においては、神経障害がみられたとの報告があるが、明らかな徴候を示さないとの見解。
  通常の食生活で欠乏する事はない。
 ・過剰に摂取した場合の明かな障害は認められていないが、3g以上で、頭痛、疲労、吐き気などという報告
  がある。脂溶性のため体内に蓄積しやすいことから、過剰摂取はすすめられない。
 ・摂取の目安量としては、成人男子で 7 mg/day 、成人女子で 6.5 mg/day 、上限量としては成人男子で
  800 mg/day 、成人女子で 650 mg/day とされている。


<関連リンク>
水溶性ビタミン  糖質(炭水化物)  アミノ酸  必須脂肪酸 
コレステロール  ミネラルの話  カルシウム

2013年3月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文