コレステロール


コレステロールとは
・コレステロール(cholesterol)は脂質の一種
 であり、常温では白色の固体、融点は148~
 150℃とされる。
・chole-は、「胆汁」の意の連結形であり、胆石
 から分離・同定されたことによる。
・sterolは、「stereos :固体[ギリシャ語]」の
 意味と「-ol(「アルコール」を示す接尾辞)」
 からなり、化学的には下の図のような構造を
 持つことを意味する。

ステロールの基本構造

コレステロール C27H46O
・一般的にステロール類と言われる場合には、その化合物が「ステロールの基本構造」をもっていることを
 意味する。
・また、ステロールの基本構造からヒドロキシ基(-OH)を除いた、環のみの構造は「ステロイド核」と
 呼ばれ、正式にはシクロペンタノヒドロフェナントレン環と呼ばれる。
・ステロイド核をもつ化合物は、総称してステロイドと呼ばれる。
・すなわち、コレステロールはステロールの一種であり、すなわちステロイドである。(俗には「ステロイド
 =副腎皮質ホルモンやその類縁体の薬物」の意味で使われることもある。)


動物、植物、菌類が主に使うステロールはそれぞれ異なる
・動物は炭素数が27で
 あるコレステロールを
 主に産生・利用するが、
 植物は炭素数29のβ-
 シトステロール、スチグ
 マステロール、カンペス
 テロールなど、菌類は
 炭素数28のエルゴステ
 ロールなどを主に産生・
 利用する。

β-シトステロール


エルゴステロール
・植物に主に含まれるステロールは、フィト(phyto-:植物)ステロールと総称されることがある。なお、植物
 にもコレステロールが微量に含まれるようである。
・どの生物においても、
 ステロールは細胞膜の
 重要な構成成分として、
 膜の硬さ、流動性、ある
 いは他の脂質などの透過
 性の調節
をつかさどって
 いるとされる。(右の図では
 ⑦がコレステロールである。)


コレステロールはステロイドホルモンの前駆体でもある
・コレステロールは上述したように細胞膜の構成成分になるとともに、ステロイドホルモン、ビタミンD
 胆汁酸の前駆体(出発物質)になっている。
 (ステロイドホルモンの例 : 副腎皮質ホルモン性ホルモン
・菌類におけるエルゴステロールは紫外線を受けてビオステロールとなり、さらにエルゴカルシフェロール
 (ビタミンD2)となる。これをヒトが食することは、ビタミンD補給の一手段になる。
・ヒトが植物のフィトステロールを摂食した場合、腸管でのコレステロールの吸収を抑制してくれるようで
 あり、医療用やサプリメントとしての利用がある。


コレステロールは、本来は体内で合成されるものである
・生体内の肝臓におけるにおけるコレステロールの生合成の概略は次のようである。

   ↓
 アセチルCoA
   ↓
 〔メバロン酸経路〕
   ↓
 スクアレン
   ↓
 ラノステロール
   ↓
 コレステロール
   ↓

・スクアレンは肝臓や皮膚
 で多く合成される油脂で
 ある。
・ちなみにスクアレンはサ
 メの肝油などに多く含ま
 れる油脂として有名であ
 るが、ヒトでは速やかに
 コレステロールにまで変
 換される。

・食事からコレステロール
 が摂られた場合、過剰に
 ならないように、一般的
 には生合成のほうが抑制
 される。
・食事、生合成の他に胆汁
 として腸管に排泄された
 ものが再吸収される
とい
 う3通りの方法でコレス
 テロールが供給されてい
 る。
 ・日本人の平均的な食事の場合、肝臓での生合成量は全体の3割程度だと言われている。


コレステロールは脂肪酸と結合し、リポタンパク質によって運ばれる
・血漿中に存在する
 コレステロールの
 7~8割は脂肪酸
 と結合した形、即ち
 コレステロールエス
 テル(アシルコレス
 テロール)であると
 される。
・脂の仲間であるコレステロールは、
 水にはほとんど溶けないと言っても
 よく、そのままでは血液中をスムーズ
 に移動できない。従って、次のような
 特殊な方法によって輸送される。
・肝臓で合成されたコレステロールは、
 そのまま、あるいは脂肪酸とのエス
 テル体に変換され、血漿中に存在する
 リポタンパク質によって全身に輸送
 される。(右図では黄色で示された
 分子がコレステロールエステル、ある
 いはフリーのコレステロールである)
・リポタンパク質とは、脂質とタンパク
 質の複合体であり、ほぼ球形をして
 おり、次のような種類に分けられて
 いる。
 <遠心分離器(超遠心)による>
 ①カイロミクロン
 ②超低比重リポタンパク質 (VLDL)
 ③低比重リポタンパク質 (LDL)
 ④高比重リポタンパク質 (HDL)
 

低比重リポタンパク質 (LDL)
・種々のリポタンパク質が混じった液を遠心分離器にかけ、いちばん上澄みにくるのがカイロミクロンで
 あり、いちばん底にくるのがHDLである。


LDLは肝臓から末梢へ、HDLは末梢から肝臓へ運ぶリポタンパク質
・リポタンパク質のうち、LDLはコレステロールを多く含有し、末梢組織に流れ着いたときに、末梢組織の
 細胞にあるにLDL受容体に付き、まるごと細胞内に取り込まれる。
・リポタンパク質のうち、HDLは末梢組織にあるコレステロールをその内部に取り込んで丸くなり、肝臓に
 流れ着いたときに肝臓のHDL受容体に付き、まるごと肝細胞に取り込まれる。
・結局、LDLはコレステロールを肝臓から末梢組織へ運び、HDLはコレステロールを末梢組織から肝臓へと
 運ぶことになる。
・このような選択的な働きは、リポタンパク質のタンパク質部分と、組織の細胞にあるその受容体の働きに
 よるものである。
LDLやHDLは、肝臓→血漿→末梢→血漿→肝臓の血漿循環を担当し、カイロミクロンは肝臓→胆汁→
 小腸→肝臓を経る腸肝循環を作る。

・ちなみに、VLDLはトリアシルグリセロール(トリグリセリド、≒中性脂肪)の含有量が高いものを指す。


「コレステロール」、「コレステロール値」には誤情報が氾濫
 「悪玉」だの「善玉」だの、非科学的な用語にも注意

・インターネットで「コレステロール」を検索すると、呆れるほどの誤情報を発信している非研究者のサイト
 やページが存在することに幻滅させられる。その多くはダイエット関連業者、健康食品業者であり、中には
 栄養の専門家らしき場合もある。まず、コレステロールというのは、そのように認識されている物質である
 ということを知っておくことも重要である。
・コレステロールに誤情報が多い原因は複数あると思われる。まず、水溶性の成分とは違って、コレステロール
 はたいへん分析しにくい。生体内でコレステロールが純粋な形で単独で存在する割合は少なく、上述のような
 エステル体であったり、コレステロールの誘導体や他の脂質と共存していたり、移動中はカイロミクロンや
 多くの種類のリポタンパク質に入り込んでいる。
・コレステロールが血管内壁に沈着するとか、胆管の中で結晶化するなどの現象が見られるが、コレステロール
 の移動は、例えばそれを運んでいるLDLなどのリポタンパク質のタンパク質部分と、受け取る細胞側の受容体
 タンパク質とのマッチングによって開始される。これらのタンパク質の不具合や異常によってコレステロール
 の正常な移動は不可能となるため、単にLDLやHDLの数の問題ではない。タンパク質の不具合の身近な例とし
 ては、糖による修飾があげられるであろう。
・リポタンパク質と受容体タンパク質が正常にマッチングし、リポタンパク質全体がエンドサイトーシスに
 よって細胞内に取り込まれるが、エンドサイトーシスは細胞自体が健全である必要があり、取り込まれた後
 でのコレステロール代謝の速度なども、次の取り込みを制御する要因にもなるであろう。
・血中の総コレステロール値については、最近ようやく、「それよりもLDLとHDLの比が重要なんだ」との
 認識に移行してきたが、そのLDLやHDLについては上述のような問題が未解決のままである。
・健康診断で皆に「卵は1日に2個以上は食べてはいけません」などと悟りきったように言い張る医療従事者
 や栄養関連従事者がいらっしゃることと思われるが、高コレステロール血症などの場合において、少しでも
 入ってくる量を抑えたい場合は、食事によるコントロールが生きてくるケースもあるであろうが、それでも
 多くの場合は、そんなに単純な問題ではない。
・体内でのコレステロールの吸収・循環・代謝・排泄は非常に複雑な系で成り立っており、現在でもわから
 ないことが多い。ただ言えることは、コレステロールは脂質であるために、大量を外部から入れた場合、その
 処理は容易ではないということである。外部から入れなくても、ヒトの体は必要とするコレステロールを
 糖質や中性脂肪、場合によってはアミノ酸から、アセチルCoAを経て生合成してくれる。


<関連リンク>
副腎皮質ホルモン  性ホルモン  消化と吸収  栄養素の代謝  中性脂肪

2012年1月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文