細胞の基本構造と細胞内小器官 ◆ 細胞膜 リン脂質の二重層と、そこに埋め込まれたタンパク質よりなる。 脂溶性成分はリン脂質二重層を透過し、水溶性成分は必要に応じて タンパク質のチャネルを通される。 ・細胞膜は細胞の内外のしきりであり、厚さ約10nm(1nm=1/1,000,000mm)、選択透過性がある。
外側は親水性の頭部からなり、内側は疎水性の炭化水素鎖からなる。 頭部がグリセリンを骨格とするものはグリセロリン脂質、スフィンゴシンを骨格とするものはスフィ ンゴリン脂質と呼ばれる。 透過できるもの = ①疎水性分子…窒素、酸素などの気体や、炭化水素などの脂溶性分子。 (特に気体は脂質二重層に溶けやすく拡散によって膜を透過する。) ②極性のある小分子…水、二酸化炭素、エタノール、グリセロール、尿素など。 (極性分子は大きさによって透過スピードが異なり、分子量が大きく なると透過しにくくなる。) 透過できないもの = ①極性のある大分子…グルコースなどの単糖類、二糖類以上の糖類。 ②イオンや電荷を持つ分子…H+、Na+、K+、HCO3-、アミノ酸など。 ・膜には多種類のタンパク質が存在する ・リン脂質二重層の中に埋め込まれたり、リン脂質自体に結合したタンパク質が存在し、さらにこの タンパク質には多くの場合、糖鎖が結合している。 ・膜タンパク質は次のような構造物を形成している。 チャネル(各種イオンチャネル、水チャネル) イオンポンプ(ナトリウムポンプ、カルシウムポンプ、プロトンポンプなど) トランスポーター(担体、運搬体、キャリアーとも呼ばれる。グルコースの輸送など) 受容体(レセプター。細胞外からのシグナルを受け取る機能) 情報伝達タンパク質(Gタンパク質共役型受容体+Gタンパク質 など) 酵素 表在性タンパク質(膜に埋め込まれていないタンパク質。食作用に関わったりもする) 細胞接着因子 など 従って、細胞表層は全体として複雑な構造となり、細胞の種類ごとに特徴的なものとなる。 ◆ 核(nucleus) 遺伝子であるDNAを格納し、指令を出す ・核は遺伝子機能発現の場であり、核を取り囲む細胞質はタンパク質合成の場である。 ・内部に遺伝情報(その生命体の活動に関するプログラム)が書かれたDNAをもつ。 ・細胞は1個の球形の核をもつことが多いが、複数の核をもったり(例:骨格筋細胞)、変形した核を もったり(例:白血球)、核を消失してしまう細胞(例:赤血球)もある。 ・核膜によって包まれており、核膜孔という穴が開いている。 (核膜孔は直径100nmほどで、1個の核に3000個くらいある。核膜孔をつくっているのは、約30種類 のタンパク質からなるサブユニットが8個対称に並んだリング状の複合体である。) ・核膜孔を通して、mRNAをはじめ、その他様々な物質が出入りする。 (副腎皮質ホルモンや性ホルモンなどのステロイド、甲状腺ホルモン、ビタミンD、ビタミンAなどは、 脂溶性であるため細胞膜を通過して、直接細胞質内に拡散し、核膜孔を通過して核内(とその一部は 細胞質内)に存在する受容体と結合する。) ・核膜は細胞分裂期直前に崩壊し、DNAが複製されて分裂が終わると再び形成される。 ・DNAは、ヒストンというタンパク質に巻き付いて複合体を作り、さらにらせん状に巻いてクロマチン (染色糸)を形成する。 ・細胞分裂時にはクロマチンがさらに凝集して染色体を形成する。 ・細胞に核をもつ生物は真核生物といわれるが、真正細菌や古細菌は遺伝子であるDNAが核膜で包まれて おらず、原核生物と呼ばれる。
・その容易ではない作業を正確に行うため、大きく複雑な構造体となっている。50種類以上のタンパク 質と、少なくとも3種類のRNA分子から構成されている ・粗面小胞体に付着している付着リボソームは、細胞外に分泌されるタンパク質を合成し、細胞質内に 散在する遊離リボソームは、細胞内で利用されるタンパク質を合成する ◆ 小胞体 折り畳まれた膜の中を物質が移動する ・真核生物の細胞小器官の一つであり、一重の生体膜に囲まれた板状あるいは網状の膜系。 ・核膜の外膜とつながっている。 ・粗面小胞体・・・・表面にリボソームが付着しており、タンパク質の合成に関わる。 ・滑面小胞体・・・・細胞によって機能は異なる。 (例:副腎皮質細胞や精巣のライジッヒ細胞などではステロイドホルモン産生の産生の場、肝細胞で は有害物質の解毒などの場、筋細胞ではカルシウム貯蔵の場である。) ◆ ゴルジ装置 作られたタンパク質の最終処理と配送をする (Golgi apparatus、ゴルジ体 Golgi body、ゴルジ複合体 Golgi complex とも言う。 ・真核生物の細胞にみられる細胞小器官の1つである。 ・発見者のカミッロ・ゴルジ(Camillo Golgi)の名前をとってつけられた。 ・扁平な袋状の膜構造が重なっており、細胞内で合成された分子を集めて包み込み、化学的に修飾 (タンパク質や脂質の糖鎖修飾など)した後に、細胞の別の場所(リソソームあるいは細胞外)に 配送する役目をする。 ・ゴルジ体は細胞分裂時に、全体が一旦数百の小胞に分断され、細胞全域に均等に分布した後、分裂 終了後に改めて集合、再構成されることが知られている。 ◆ ミトコンドリア 酸素を使ってATPを大量に作る ・酸素を利用してエネルギー物質であるATPをつくる。 (ATPは細胞のエネルギー通貨としてはたらき、エネルギーを必要とする全ての反応に働く。) ・酸素は元来、原生生物にとって毒であったが、ミトコンドリアの機能により、酸素から運動エネルギー を獲得できるようになった。 ・嫌気性分解では1分子のグルコースから2分子のATPしか得られないが、ミトコンドリアによる好気性 分解によって、1分子のグルコースから38分子のATPが合成できる。 ・すなわち、細胞質基質で解糖系によって作られたピルビン酸や、酸素、ADP、Pi(リン酸)を周囲の細 胞質から取り込み、二酸化炭素、ATP、水を放出する。(ピルビン酸の代わりに脂肪酸を使うこともで きる。) ・真核細胞の細胞内に、1から多いものでは数千個ほどもある。肝細胞や筋肉等のエネルギーをたくさん 必要とする細胞には多数のミトコンドリアが存在する。 ・独自の環状DNAを持つ。ミトコンドリアを構成する99%の蛋白は核内のゲノムにコードされているが、 重要な酵素やRNAの遺伝子はミトコンドリアのゲノム(遺伝子の1セット)にコードされている。 ・好気性細菌でリケッチアに近いαプロテオ細菌が真核細胞に共生することによって生じたと考えられて いる(リン・マーギュリスの細胞内共生説)。 ・従って、破壊されたりして内容物が細胞外に出ると、異物として免疫系から攻撃を受ける。 ・二重の生体膜からなり、外側にある外膜は細胞膜由来で特別な構造は見られない。その内側にある 内膜は細菌の細胞膜由来であり、クリステと呼ばれる内部に向かって陥入する部分が多数存在する。 ・細胞内のカルシウム貯蔵や濃度調節は主に小胞体が行うが、ミトコンドリアもその機能の一部を担う とされる。 ・細胞のアポトーシス(積極的な細胞の自殺)においても重要な役割を担っていると言われている。 ・母親由来(Maternal)であり、父親のミトコンドリアは子どもには伝わらない。 細胞の形づくりと細胞骨格 細胞の形は、内部にある何種類かの線維が支えている ・細胞骨格(cytoskeleton)とは、細胞内にある繊維性の構造物である。 ・全ての細胞の細胞質内に存在し、細胞の形態を維持したり、細胞の運動や細胞内小器官の固定・ 移動などに必要な物理的力を発生させる。 ・タンパク質で出来ており、電子顕微鏡下観察され、その太さから次の3種類に分類される。 ① マイクロフィラメント(微小線維(微細線維)) ・直径6nm前後。 ・主成分はβアクチンで、筋に含まれるαアクチンとは型が異なる。 ・二重らせん構造をとっており、アクチン分子13.5個、35 nmでちょうど1回転ねじれている。 ・白血球の遊走、骨格筋細胞の収縮、細胞質流動、細胞分裂での収縮などに関与している。 ・動きのない細胞では細胞の周辺部に多く存在し、細胞の形を保つ。 ② 中間径フィラメント ・直径約10nm ・強度が高く弾力があって溶けにくいロープのような線維である。 ・細胞の強度やテンションを保ったり、細胞核などの細胞内小器官を定位置に固定したりする役割を 持っている。 ・それぞれの組織に特有の中間径線維があり、主なものは次の通りである。 上皮細胞 ケラチンフィラメン 神経細胞 ニューロフィラメント グリア細胞 グリアフィラメント 筋肉 デスミンフィラメント 線維芽細胞 ビメンチンフィラメント 核の最内層 核ラミンフィラメント ③ 微小管(microtubule:マイクロチューブル) ・外径約25nm、内径約15nmの管状の構造物。 ・チューブリンと呼ばれるタンパク質で構成されている。 ・染色体移動の際の紡錘体や、線毛や鞭毛の主要な構造は複数の微小管の束からなっている。 (原核生物のべん毛には微小管は存在しない)。 ・モータータンパク質(キネシンやダイニンなど)との共同作業により、細胞内小器官の移動、神経 軸索輸送などの細胞内物質輸送、線毛や鞭毛運動などに関与している。 (キネシンは主にATP を使いながら微小管に沿って運動する性質を持つ) ・コルヒチンやビンクリスチン(抗がん剤の一種)などは微小管の伸長を阻害する。 細胞の運動 細胞は変形したり、運動したりする そして、細胞内にある小器官を移動させたりする ・細胞の変形、アメーバ運動、線毛の運動、細胞小器官の移動、染色体の移動、神経細胞の軸索輸送 などは、細胞骨格とモータータンパク質の相互作用による。 ・モータタンパク質・・・・ATPを利用して3次構造を変化させ、細胞骨格上を動く。 ・マイクロフィラメントとアクチンATPase・・・・筋肉の収縮、収縮環、原形質流動などを行う。 ・マイクロチューブルとダイニンATPase・・・・周辺から中央への移動に関わる。 ・マイクロチューブルとキネシンATPase・・・・ 中央から周辺への移動に関わる。 <関連リンク> ◆生物とは ◆ATPの産生 ◆染色体 ◆がん細胞 |