赤血球

赤血球の特徴
・血液1mm3の中に男性で500万個(430~
 570万個)、女性で450万個(380~520万
 個)の赤血球が存在する。
・血液の体積のおよそ40~45%が赤血球の
 体積である。(男女別の詳細は後述。)
・大きさは直径7~8μm、厚さは約2.1μm。
・中央がくぼんだ円盤状の細胞であり、核を
 もたず(無核)、細胞小器官もほとんど無
 い。(ただし、胎生期における一次造血
 よる赤血球は有核である。)
 (赤血球は成熟する最終段階で細胞核や
 ミトコンドリア・リボゾームなどの細胞内
 器官を捨てる。酸素の運搬には不要な核や
 酸素を消費するミトコンドリアを捨て去る。
 従って、エネルギーは解糖系のみによって
 得ている。)
 ・色は赤い(詳細は後述する)。
・やわらかくて変形しやすく、自分の直径の半分以下の細い毛細血管にも入り込んで通過する
 ことができる。

多くのヘモグロビンを含む
・赤血球の内部にはヘモグロビンという赤色を呈す
 るタンパク質が多量に含まれる。(赤血球の乾燥
 重量の90%はヘモグロビン。)
・ヘモグロビンは血色素とも呼ばれる。
・ヘモグロビンにはいくつかの種類があるが(後述)
 全種類の9割を占めるヘモグロビンA の分子は、
 α鎖と呼ばれるサブユニット2個とβ鎖と呼ばれる
 サブユニット2個が結合して4量体になっている。
・右図はヘモグロビンの立体構造がリボンで表され
 たものである。黄色または赤色で示されているの
 がサブユニットであり、それぞれの内部には緑色
 で示されているヘムという分子が存在する。
・ヘム分子が赤色の本体である。


ヘモグロビンのリボンモデル
ヘムの鉄原子に酸素が結合する
・ヘムは、ポルフィリンと呼ばれる環状構造の分子に2価
 の鉄原子が結合した化合物である。
・ヘムにも多くの種類が存在するが、細菌から真核生物に
 存在するヘムは、ヘムa、ヘムb、ヘムcである。
・このうち最も代表的なものはヘムbであり、その構造は
 右図に示したものである。
・ヘムの中心には鉄原子が一つあり、そこに酸素が結合
 する。

ヘモグロビン分子の構造変化により
 酸素との親和性が変化する

・1つのヘムに酸素が結合すると、ヘモグロビン分子の立体
 構造が変化し、他のサブユニットにあるヘムの酸素親和性
 が増強する。これはヘム間相互作用と呼ばれる。

ヘムb
・一方、pHが低く二酸化炭素が多い環境下では、ヘモグロビンサブユニットのN末端にあるバリン
 基に水素イオンまたは二酸化炭素が結合することにより、ヘモグロビン分子の立体構造が変化
 し、ヘムの酸素親和性が低下する。これはボーア効果と呼ばれる。
・また、解糖系の中間代謝産物であるグリセリン2,3-リン酸がβサブユニット間に結合することに
 よってもヘムの酸素親和性が低下する。このことは、酸素が少ない環境下ではヘムが酸素を離し
 やすいことになる。
・このような複数のメカニズムによって、ヘモグロビンは酸素濃度の高い肺で酸素を効率よく結合
 し、酸素濃度の低い組織に入ったときには効率よく酸素を離すことができるのである。

一酸化炭素は危険
・一酸化炭素(CO)は、血液中ではヘモグロビンに対する親和性が酸素の250倍ほど高いと言われ
 ている。
・通常の21%酸素の空気に0.1%の一酸化炭素が混入すると、平衡状態では約半分のヘモグロビン
 が一酸化炭素結合型となる。
・一酸化炭素が一つのサブユニットに結合すると、他のサブユニットに結合している酸素とヘムの
 親和性が高まり、組織において酸素を離さなくなるため、酸欠症状が一気に起こるとされている。


赤血球の寿命は約120日
 ヘムは ビリベルジン → ビリルビン → ウロビリノーゲン(尿中)
 ウロビリノーゲン → ステルコビリン(大便)

 として排泄される
・赤血球の寿命は約120日であり、古く
 なったものは変形能を失うことによっ
 て主に脾臓(何割かは肝臓や骨髄)に
 ある細網組織において捕捉され、そこ
 に待機しているマクロファージに捕食
 されて分解される。
・赤血球中のヘモグロビンは、グロビン
 とヘムに分解され、グロビンはアミノ
 酸にまで分解され、ヘムは緑色のビリ
 ベルジンと鉄イオンに分解される。
 (この反応は、ヘム酸素添加酵素の関
 与によって進み、ヘム酸素添加酵素は
 ほとんどの細胞が持っているとされて
 いる。)
・ビリベルジンは、さらにマクロファー
 ジ内で還元され、黄色で脂溶性のビリ
 ルビン(非抱合型ビリルビン=間接型
 ビリルビン)に変化する。
 (間接型とは、直接に測定できなかっ
 たことに由来する。)
 (空腹時の嘔吐の時に緑色のものを吐
 いた場合、ビリルビンが酸化されてビ
 リベルジンに戻っているわけである。)
・非抱合型ビリルビンは水に溶けないた
 めに血液中のアルブミンと結合して血
 流に乗り、肝臓に流れ着く。(基本的
 には腎臓では濾過されない。)


マクロファージ中:ヘム→ビリベルジン→ビリルビン
腸管内:
  ビリルビン→ウロビリノーゲン→ステルコビリン

ビリベルジン (Biliverdin)(緑色)


ビリルビン(Bilirubin)
(非抱合型ビリルビン=間接型ビリルビン)
(黄色)
・肝臓において、糖の一種であって極めて
 水に溶けやすいグルクロン酸の1~2分子
 と結合し(これはグルクロン酸抱合と言
 われる)、水に溶ける抱合型ビリルビン
 (直接型ビリルビン)になり、これが胆汁
 に混じって排出される。
 (直接型ビリルビンとはグルクロン酸抱
 合で出来るジアゾ基によって直接測定で
 きることに由来。)
・腸内に排出された抱合型ビリルビンは、
 腸内細菌の働きによって無色のウロビリ
 ノーゲンに変化する。

ジグルクロン酸ビリルビン
(Bilirubin diglucuronide)
(抱合型ビリルビン=直接型ビリルビン;黄色)
・ウロビリノーゲン
 の大部分は大腸
 において還元さ
 れてステルコビリ
 ノーゲンに変化し
 さらに茶色のステ
 ルコビリンに変化
 し、大便として排
 泄される。
・ウロビリノーゲン
 の一部は腸で吸
 収されて、そのう
 ちの少量は腎臓
 を経て尿中に排
 泄される。

 ウロビリノーゲン(Urobilinogen)
 (無色)

 ステルコビリン(stercobilin)
 (茶色)
 (ウロビリノーゲンは無色であるが、酸化されてウロビリンになると黄色を呈する。この反応は
 尿として排泄された後の環境中においても進行する。)
・排泄されなかったウロビリノーゲン(全体の95~99%)は肝臓にて再び抱合型ビリルビンに変換
 され、胆汁として再利用される(腸肝循環)。

ヘム → ビリベルジン → ビリルビンの変化は随所で起こりうる
・内出血による痣(あざ)は癒えるにしたがって、その痣の局所において赤色のヘム、緑色のビリ
 ベルジン、黄色のビリルビンへと変化していく。


HbA1c(ヘモグロビンA1c)とは?
・ヘモグロビンには、上述したようなα鎖とβ鎖の組合せ以外にも、α鎖とγ鎖、α鎖とδ鎖の組合せが
 ある。
・まとめるならば次のようになる。(病的なヘモグロビンは除く)
 ◇ α2β2・・・・ヘモグロビンA ・・・・ 正常成人ヘモグロビンの約90を占める。
 ◇ α2γ2・・・・ヘモグロビンF ・・・・ 胎児血液中の主成分である。正常成人では約0.5%。
 ◇ α2δ2・・・・ヘモグロビンA2 ・・・・ 正常成人ヘモグロビンの約2~3%を占める。
・さらに、ヘモグロビンAのβ鎖のN末端にが結合したものはヘモグロビンA1と呼ばれ、正常成人
 ヘモグロビンの7~8%を占める。
・糖の中でグルコース(ブドウ糖)と結合したものはヘモグロビンA1と呼ばれ、正常成人では
 4~5%を占め、糖尿病患者では増加する。


エリスロポエチンにより産生が誘起される
・エリスロポエチンはアミノ酸165残基からなるペプチドホルモンである。
・主に腎臓の尿細管間質細胞において産生されるが、肝臓においても少量産生されるようである。
・失血、気圧低下、肺・心疾患などで酸素分圧が低下すると腎臓からエリスロポエチンが分泌され、
 それが造血幹細胞を刺激して赤血球の増殖・分化を起こさせる。
副腎皮質ホルモン甲状腺ホルモンは組織の酸素代謝を亢進させることによって酸素分圧を低下
 させるので、エリスロポエチンの分泌を促進することになる。
・その他、造血に対し、アンドロジェンは促進的に、エストロジェンは抑制的に働くために、赤血
 球数に性差があると言われる。


ヘマトクリット値(Ht、Hct)、MCV、MCH、MCHCは貧血検査の指標
◆ヘマトクリット値とは
・ヘマトクリット値(hematocrit)は、血液中に占める血球の体積の割合(%)を表す。
・成人男性で40~52%、成人女性で35~47%が正常な範囲であるとされている。
・ヘマトクリット値が低ければ、血液が薄いことを意味している。ヘマトクリット値が高ければ、
 血液が濃いことを意味している。

◆MCV(平均赤血球容積)とは
Mean Corpuscular Volume の略であり、赤血球1個の容積(体積)の平均値である。
・計測器においては次の式で算出される。
 MCV = ヘマトクリット値(%) ÷ 赤血球数(×1000000/μL) × 10
  すなわち、ヘマトクリット値が45(%)、赤血球数が500万個/μL であれば
  MCV = 45 ÷ 5 × 10 = 90 となる。
・基準値はおよそ80~100とされている。
 (単位はfL(フェムトリットル、=μm3、=10-15L、=10-9μL)である。)

◆MCH(平均赤血球血色素量)とは
Mean Corpuscular Hemoglobin の略であり、赤血球1個あたりのヘモグロビン量の平均値で
 ある。
・計測器においては次の式で算出される。
 MCH = 血色素量(g/dL) / 赤血球数(×1000000/μL) × 10
・基準値はおよそ28~32(pg)とされている。

◆MCHC(平均赤血球血色素濃度)とは
Mean Corpuscular Hemoglobin Concentration の略であり、赤血球1個あたりのヘモグロ
 ビン濃度の平均値である。
・計測器においては次の式で算出される。
 MCHC = 血色素量(g/dL) / ヘマトクリット値(%) × 100
・基準値はおよそ31~36(%)とされている。


<関連リンク>
血球の起源  リンパ球  顆粒球(好酸球、好中球、好塩基球)  単球・マクロファージ

2013年1月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文