血球の起源

血液の概略
・ヒトの血液量は、重さ
 としては体重の1/13
 (男性で約8%、女性
 で約7%)、量として
 は成人男性では約5
 リットルとされる。
・血液の40~45%を
 細胞成分である血球
 が占め、残りの55~
 60%を液体成分で
 ある血漿が占める。
・血球は、造血幹細胞
 から下記にあげる種
 類の血球に分化する。
  ①リンパ球
  ②単球
  ③好中球
  ④好酸球
  ⑤好塩基球
  ⑥赤血球
  ⑦血小板

◇成体に存在する各種の血球の元は造血幹細胞である。後述するように、造血幹細胞は主に骨髄の
 中に定着しながら、自己増殖ならびに血球の生産を行っている。ではこの造血幹細胞は発生の段
 階において、どのようにして生まれてきたのであろうか?



血球の起源
 卵黄嚢の周りから
 血球と血管が生じる

・受精の後、胎生2週目頃に胚の体外に卵黄嚢
 (Yolk Sac:直径約5mmほど)が形成され
 るが、それを包み込む組織の一部の細胞が
 増殖し、血島と呼ばれる細胞集団が生じる。
 (胚とは胎芽とも呼ばれ、受精卵が子宮に
 着床した時から胎生7週+6日までを指し、
 8週以降は胎児と呼ばれる。)
・血島は随所に生じ、これら同士が融合する
 ことによって、外周に位置していた細胞群
 は血管の細胞となり、内側の細胞群は血球
 (原始赤芽球)となる。
・血管がつながり、心臓が形成され、胎生3
 週目には拍動が開始されて、原始赤芽球は
 赤血球となって循環する。
・この造血は一次造血、卵黄嚢造血、あるい
 は原始造血とも呼ばれ、作られる赤血球は
 大型で、成熟しても有核のままである。
・この時期の血液には白血球や血小板はまだ
 存在しないが、巨核球マクロファージ
 は産生されるという報告がある。

一次造血は卵黄の栄養素を
 胚に送る名残

・魚類では卵黄嚢の中に卵黄が入っており、
 卵黄の栄養素を胚に送ることによって胚が
 成長していく。
・ヒトの卵黄嚢には卵黄は入っておらず、体
 液のみである。(Web上には卵黄嚢から栄
 養素をもらうという話が氾濫しているが、
 これは再確認を要する。)

ヒトの胎生4週目(図中左:Yolk Sac;卵黄嚢)

ヒトの胎生6週目
 ・一次造血は、ヒトにとっては一時的に起こるものであって、魚類のようなものを経由して進化して
 きた名残である。

二次造血は胚のAGM領域にて始まる
・造血の場所は、卵黄嚢周
 囲の血管から、やがて胚
 にあるAGM (aorta-gonad
 -mesonephros) 領域(胎
 生中期に大動脈・生殖器・
 腎臓を形成する領域)に
 移行する。
 (胎生初期:着床~3ヶ月、
 胎生中期:4~6ヶ月、胎生
 後期:7~10ヶ月)
・AGM領域にある大動脈の
 血管腔において、造血幹
 細胞(hematopoietic
  stem cell ;HSC、あるい
 は血球芽細胞、または血液
 幹細胞)が分裂しながら
 血球を生み出していく。

マウスとヒト胚における造血器官
:AGM領域、赤:胎児肝臓、青:臍帯血管
・この造血幹細胞は、卵黄嚢から移動してきたものであることが近年になって明らかにされた。
・成体が行っている造血型であり、これは二次造血と呼ばれ、生涯続くことになる。

胎生期の造血の場はやがて肝臓に移動する
・やがて造血幹細胞は血流に乗って、胎児肝臓(および脾臓)に運ばれて定着し、そこで造血を継続
 する。
・胎児肝臓はまだ代謝機能はなく、造血を行う臓器として機能する。
・この造血は 胎児肝造血とも呼ばれ、赤血球を主体として造血する。

出生の頃には造血の場は骨髄に移動する
・出生の頃には、肝臓にあった造血幹細胞は血流に乗って骨髄に流れ着き、定着し、造血を行うように
 なる。
・これは骨髄造血といわれ、造血幹細胞は骨髄幹細胞とも呼ばれる。
・なお、肝臓(および脾臓)は造血機能を完全に失うわけではなく、血液疾患時には造血が見られる
 こともある。
・骨髄にける造血幹細胞はストローマ細胞(造血幹細胞の周囲に存在する支持細胞)に支持されながら、
 そこで自己増殖、および血球生産を行う。
・子どもの時期には全身の多くの骨髄で造血されるが、大腿骨や脛骨などの長管骨での造血機能は青年
 期以降はほとんど消失し、成人では胸骨、肋骨、脊椎、骨盤などで造血が行われる。
・特に骨盤を構成する腸骨には造血幹細胞が多く、血球の半分以上は腸骨で作られる。


<関連リンク>
 赤血球  リンパ球  顆粒球(好酸球、好中球、好塩基球)
 単球・マクロファージ  血小板

2012年12月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文