血小板


血小板は哺乳類にのみ存在する独特のものである
・血小板(Platelet)は哺乳類にのみ存在する独特の血液細胞である。
・鳥類、爬虫類、両生類、魚類などの、哺乳類以外の脊椎動物には血小板は存在しないが、血小板
 のような働きをする細胞は存在し、それは「栓球(thrombocyte)」と呼ばれる。
・ちなみに、鳥類の栓球の外形は(鳥類の)赤血球よりも少し小さく、有核であって核の大きさは
 赤血球のそれよりも大きくて球形である。哺乳類の巨核球(後述する)と同様に、造血幹細胞から
 分化してくる。栓球はたいへん凝集しやすく、鳥類の血液凝固も比較的速やかである。栓球凝集の
 メカニズムは後述する血小板凝集のメカニズムと共通する部分と共通しない部分があるようである
 が、詳細は本稿では割愛する。


血小板(Platelet)は巨核球から作られる
 ~ 巨核球とは ~

・巨核球(megakaryocyte)は、骨髄中に
 存在する最大の細胞(直径35~160μm)
 である。
・造血幹細胞→巨核球系前駆細胞(CFU-
 Meg)→巨核芽球→前巨核球→巨核球
 のように分化する。
・トロンボポエチン(肝臓や骨髄で合成・
 分泌されるホルモン)によって増殖が促
 進される。
・巨核芽球の段階では核は引きDNA複製
 を行って分裂するが、細胞分裂は停止す
 る。
・その結果、核が複数個生じてそれらが互
 いに付着して塊状になった形で観察され
 る。(一つの巨核球中には通常の体細胞
 の16倍~32倍ほどのゲノムを有すること
 になる。)
 
巨核球
・骨髄内では一般に洞様血管付近に存在し、骨髄から出ることはない。
・したがって末梢血中では観察できない。
・細胞質には、ギムザ染色
 における青色の色素であ
 るアズールBに染まるアズ
 ール顆粒が多数存在する。
・1個の巨核球は数千個の
 血小板を作成する。
・巨核球は骨髄の洞様血管
 壁の小孔から突起を伸ば
 す。その突起が血流によっ
 てちぎれ、血小板となる。
・血小板を産出し終わった
 後に残された核はマクロ
 ファージに貪食さる。



巨核球からの血小板の放出
血小板の概要
・直径はおよそ2~3μm(1~4 μm)。
・末梢血中に13万〜35万個/mm³ (10万
 〜40万個/mm³)程度含まれている。
・女子は男子よりやや少なく、特に月経時
 に減少し、妊娠時には増加する。
・血小板の数はPLTという略号で表される
 ことが多い。
・核を持たないが、細胞質にはミトコンド
 リアなどの細胞内小器官を有し、エネル
 ギー代謝を行っている(=生きている)
・血管が損傷した時に傷口をふさいで止血
 する、すなわち一次止血栓の形成を行う
 (後述)。

血小板  : 平常時←→活性化時
・寿命は3〜10日であり、寿命が尽きると主に脾臓で破壊される。
・ガラスに触れることでも破壊されやすい。
・酸素分圧の高いところに集まる傾向があり、静脈血中よりは動脈血中に多い。


一次凝集 : 血管損傷部のコラーゲンを中心に血小板が凝集する
・血小板は平常時は滑らかな円盤状であり、血管内皮細胞に付着することもなく流れている。また、
 血管内皮細胞が産生しているプロスタグランディンI2は、血小板の活性化を阻害する。
・血管壁が損傷すると、まず血管内皮細胞下にある膠原繊維(コラーゲン)が露出するが、このこ
 とが血小板が接着してやがて血栓が形成される現象の引き金になる。
・動脈硬化の血管では、血管内皮細胞が障害されているため血小板が凝集しやすく、血栓を形成し
 やすい。
<以下、代表的かつ確実な現象についてのみ述べる>
・露出したコラーゲンに、血漿中に存在する von Willebrand 因子(vWF)と呼ばれる血漿タンパ
 ク質が結合する。
 (von Willebrand : フィンランド語の発音で「ヴォン・ヴィレブランド」と発音する。ちなみ
 に、巷では誤った発音、例えば「v」はドイツ語発音をしているのに「W」や「d」は英語発音
 をしている、などのことが多く見受けられるので要注意である。)
 (vWFは主に血管内皮細胞や巨核球にて産生されていると言われており、また損傷した血管内皮
 細胞から多く放出されるという記載もある。)
・次に、主としてコラーゲンに結合したvWFに血小板が結合する。
 (vWFを欠く疾患はvon Willebrand病と呼ばれ、血小板の結合が疎かになり、止血までの時間が
 延長する。)
・vWFとの結合に関与するのは血小板の表面に存在する糖タンパク質(グリコプロテイン)である。
 (具体的には、グリコプロテインⅠbとグリコプロテインⅤとグリコプロテインⅨの複合体である
 とされている。(これは略してGPIb/V/IX、またはGPIb–IX複合体、あるいはGPIb受容体
 呼ばれることもある。なお、GPIb受容体はvWF以外にもトロンビンやトロンボスポンディンなど、
 いくつかの物質と結合し得るようである。))
 (GPIb受容体を欠く疾患はベルナール・スリエ症候群(英:Bernard–Soulier syndrome )と
 呼ばれ、重篤な出血症状を示す。常染色体劣性遺伝病である。)
・このように結合した血小板の表面にある他のGPIb受容体には、また別のvWFが結合し、それに
 また別の血小板が漂着して結合したり、血流が遅くなることによって他の細胞間接着因子も合わ
 せて効くようになり、血小板の集合体が大きくなる。
・すなわち、主としてvWFと血小板GPIb受容体を介した結合で成り立った集合体ができ、これは
 「一次凝集」と言われる。
・一次凝集は可逆性であり、このままでは時間経過と共に解離し、血流によって流されたりもする。
 <血小板の一次凝集や血栓形成メカニズムにはまだまだ未解明の部分が多くある。>


血小板の接着と一次凝集 → 血小板の二次凝集 → 二次止血栓の完成

結合して流れなくなった血小板は活性化する
~血小板の活性化機構もたいへん複雑であり、下記は確認されている主なもののみ~

・vWFなどを介してコラーゲンに結合した血小板は、血小板表面にあるグリコプロテインⅥ(コラ
 ーゲン受容体)がコラーゲンを認識し、そのことによって血小板が活性化される。
・また、コラーゲンに結合した血小板は血流によって流されようとするが、その力は血小板を歪め
 ることになり、そういった「ずり応力」も血小板を活性化させることになる。
・活性化された血小板からは同時に脱顆粒によってADPやセロトニンが放出されたり、また血小板
 内のホスホリパーゼA2(PLA2)が活性化されることによってトロンボキサンA2(TXA2)が放出
 され、周囲にある血小板を二次的に活性化する。
 (シクロオキシゲナーゼを阻害するためにトロンボキサンA2の生成も抑えるアスピリンやインド
 メタシンなどの薬物は、血小板の活性化をある程度抑制することができ、それによって血小板の
 凝集もある程度抑えることができ、抗血栓薬としても利用される。)
・TXA2やセロトニンは血管収縮を促すことによっても止血を促進する。
・活性化された血小板は細胞骨格系が変化することによって長い偽足状の突起を出し、より粘着し
 やすい形に変形する。


二次凝集 : フィブリノゲンを交えた不可逆的な凝集
・二次的に活性化された血小板の表面には、グリコプロテインⅡbとグリコプロテインⅢaの複合体
 (GPIIb/IIIa受容体 ; =インテグリンαIIbβ3)が発現する。
・このGPIIb/IIIa受容体に、vWFやフィブリノゲンが結合し、それにまた別の血小板がGPIIb/IIIa
 受容体を介して結合することによって、漂着した血小板同士がさらに凝集していく。
・この反応は、血小板の『凝集』あるいは『二次凝集』と呼ばれ、不可逆的な結合となる。
・このような一連の作用により、血小板は血管内皮に接着し、血小板どうしが凝集し傷口を塞いで
 一次止血栓(血小板血栓)を形成する。


血液凝固因子、その他物質の放出 → 二次止血栓の完成
・また、損傷部位から流出する第Ⅹ因子の作用で血液中のプロトロンビンがトロンビンに変化し、
 これによって血小板が変形し、血小板内の血液凝固因子、ADP、Ca2+、セロトニン、カテコー
 ルアミンなどが放出される。
・ADPやCa2+は血小板凝集をさらに促進し、セロトニンやカテコールアミンは局所の血管を収縮
 させることにより、一時的な止血を促進する。
・また、トロンビンによってフィブリノゲンがフィブリン(線維素)に転換され、これが血小板
 血栓を網目状に包み込んで補強し、さらに赤血球も捕捉されて二次止血栓が形成され、止血が
 完了する。
 換言すれば、一次血栓上で、血液凝固因子が活性化され、フィブリンによる線維網が形成され、
 これが一次血栓を覆って血栓を強化することで、二次血栓が形成される。
・血液凝固部位の血小板からは血小板由来成長因子も放出され、損傷組織の増殖と回復が促進され
 る。


血流と血栓の関係
・血流が速い動脈内は血小板にかかるずり応力が大きいために血小板の活性化が起きやすく、一次
 血栓(血小板血栓)が形成されやすいが、血流が遅い静脈内や血流停滞の箇所では内因系血液
 凝固系が活性化されるために二次血栓(フィブリン血栓)が形成されやすい。
・動脈内の血小板血栓も時間経過によってフィブリン血栓に発展することがあり、この場合、血小
 板とフィブリンによる白色の血栓が形成される。これは「白色血栓」と呼ばれる。
・一方、静脈内では凝固系が活性化されることに加えて血流が遅いまたは停滞するために、フィブ
 リン血栓に赤血球が捕捉されやすく、赤色の血栓が形成されることがある。これは「赤色血栓
 と呼ばれる。
・血小板血栓には抗血小板凝集薬(アスピリンなど)が有効であり、フィブリン血栓(凝固血栓)
 には抗凝固薬(ワルファリン)が有効である。


<関連リンク>
 赤球の起源   赤血球   リンパ球
 顆粒球(好酸球、好中球、好塩基球)   単球・マクロファージ

2012年10月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文