ATPの産生

ATPの産生(エネルギーを得るしくみ)

食べたご飯の多くはATPに変わる
・ATPとはアデノシン三リン酸 (Adenosine Triphosphate) のことである。
・食物の話の中で、いわゆる「カロリー」という表現がされる場合、それはすなわち「ATP」に変換
 される部分である。
・食事から得たや脂肪がもつエネルギーは、生体内で使われる時にはATPという分子に変換されな
 い限り、基本的には利用できない。
・ATPはどのような仕事にも共通に使えるため、「エネルギー通貨」と呼ばれることがある。
・特に筋肉においては、ATPの他にクレアチンリン酸がエネルギーの一時貯蔵に使われる。

アデノシンはDNAやRNAにも使われている
・アデノシンはDNA や RNA の塩基として、あるいは
 環状AMPとしてシグナル伝達にも使われており、
 生体内においてはかなり重要な物質である。
・ATPは、リン酸基が3つ結合しており、リン酸基を
 1つはずすことにより、ADP(アデノシン二リン酸)
 およびエネルギーを放出する。
・リン酸基同士の結合は不安定であり、結合維持の
 ために高いエネルギーを伴っている。
・これが加水分解により切断され、切断されたリン
 酸基が他の分子と、より安定な結合をした場合、
 エネルギーが余剰となる。

ATP(アデノシン三リン酸)
  ATP + H2O → ADP + H3PO4 + 30.6KJ(7.3Kcal、1モル換算)


ATPはどうやって作られるのか
糖(グルコース)で説明>
・ご飯の中のデンプンはグルコースにまで分解されて腸壁から吸収される。
 吸収されたグルコースは血流にのって全身の細胞に届けられる。
 このとき、血液中のグルコース濃度を高い状態に維持することは体に不都合を起こすため、余分
 なグルコースはグリコーゲンやトリグリセリド(≒中性脂肪)に変換されて貯蔵される。
・細胞に取り込まれたグルコースは、次のような順序にて処理され、ATPに変換される。

【 細胞質基質にて 】
 グルコース →〔解糖系〕→ピルビン酸 ←→ 乳酸
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・↓・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ミトコンドリアにて 】    ↓                O2
              アセチルCoA → 〔クエン酸回路〕〔電子伝達系〕
                          ∟ CO2排出    ∟ H2O排出
  
 次に、解糖系、クエン酸回路、電子伝達系について順に解説する。

①解糖系について・・・[細胞質基質にて]
・解糖系とは、グルコースをピルビン酸などの有機酸に分解(異化)し、グルコースに含まれる結合エネ
 ルギーをATPに変換していく代謝過程である。
・全ての生物で解糖系はその反応が細胞質基質で起こる。これは解糖系が細胞内小器官が発生する以前
 から存在する最も原始的な代謝系であることを反映しているのであろう。
・嫌気状態(無酸素状態のこと)でも起こりうる代謝系の代表
 的なもので、嫌気呼吸、無気呼吸などとも呼ばれる。
グルコース1分子当たり2分子のATPが生成される。
・ヒトを含めた好気性の生物では好気呼吸の初段階として用い
 られており、ピルビン酸まで反応が進み、そこからミトコン
 ドリア
内のクエン酸回路に入ることになる。
・無酸素状態であれば、ピルビン酸は乳酸に変化する。

ピルビン酸
(pyruvic acid)

乳酸(lactic acid)
②クエン酸回路について・・・[ミトコンドリアにて]
・クエン酸回路はTCAサイクル、TCA回路、クレブス回路とも呼ばれる。
・好気的代謝に関する最も重要な生化学
 反応回路であり、酸素呼吸を行う生物
 全般に見られる。
・解糖系によって得られたピルビン酸は、
 ミトコンドリア内でアセチルCoAとなる。
 (アセチルCoAは補酵素Aの末端にある
 チオール基にアセチル基が結合したもの
 である。補酵素A(CoA)は、パントテン酸
 とアデノシン二リン酸および 2-チオキシ
 エタンアミンから構成されている。
 パントテン酸はビタミンB群(B5)の物質。)
・ミトコンドリアには最外層を取り巻く外膜

補酵素A(CoA)
 と、内側に折り畳まれるように存在する
 内膜とがあるが、クエン酸回路は内膜で
 囲まれた部分である基質(マトリックス)
 に存在している。
・クエン酸回路が1回転するとアセチル
 CoAの1分子あたり、3分子のNADH、1
 分子のFADH2、1分子のGTP(グアノシ
 ン三リン酸:これは動物のみ、植物や
 原核生物はATP)、2分子の二酸化炭素
 が放出される。

アセチルCoA
・すなわち、次の電子伝達系で酸化的リン酸化を行うためのNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオ
 チド:電子伝達体として用いられる)を生産する。

③電子伝達系について・・・[ミトコンドリアにて]
 「水素イオンモーターによるATP大量生産」

・電子伝達系は、生物が好気
 呼吸を行う時に起こす複数
 の代謝系の最終段階の反応
 系である。
・水素伝達系、呼吸鎖などと
 も 呼ばれる。
・クエン酸回路で生成された
 NADHは、NADに変換され
 る過程でNADH脱水素酵素
 複合体、チトクロム複合体、
 チトクロム酸化酵素複合体
 の3呼吸酵素複合体から成
 る電子伝達系へ電子を供
 給し、電子伝達系はプロト
 ン(H:水素イオン)を基
 質側から、内膜と外膜の
 膜間部分に放出する。
・これによってミトコンドリ
 ア内膜の内側と外側にプロ
 トンの濃度勾配および電位
 差が生じる。

左上にあるのがプロトンモーター&ATP変換機である。
・内膜にはプロトンの流れによって回転するモーターが組み込まれており、この同軸にADPをATPに変換
 する変換機が設けられており、これが回転することによって効率よくATPが生成される。
・このプロトンモーターとATP変換機のセットはATP合成酵素と呼ばれる(タンパク質でできている)。
 直径および高さが10nm程度の2つの回転モーター(Fo、F1)が結合してできている。 Foは水素イオン
 の流れを利用して回転する。F1は、その回転を受けて、ADPをリン酸化してATPを生成する。
・グルコース1分子当たり、36分子(計38分子)のATPが生成される。


空腹時のエネルギー源は?
・普通の食事を摂ったあと約3時間の吸収期には、吸収されたばかりの、しかもグルコースが主に使わ
 れる。
・ただし、筋肉の急激な活動によって筋組織中のATPが不足気味になってきた場合には、少量ではある
 が筋組織中に蓄えられていたクレアチンリン酸が脱リン酸化することによってATPが産生される。
・空腹期においては、まず肝臓や筋肉に貯蔵したグリコーゲンが分解されてグルコースが供給されるが、
 肝臓に蓄えられたグリコーゲンはたかだか400kcal程度、筋肉中のそれも同程度だといわれている。
・空腹期の次の段階では、グルコースの使用は中枢神経系に限定され、他の組織では貯蔵脂肪が分解され
 て用いられるようになる。
・貯蔵脂肪は、そのほとんどがトリグリセリドであり、まず脂肪細胞中にて脂肪酸とグリセロールに分解
 されて細胞外(血液中)に放出される。それを受け取った各細胞(脳以外の細胞:脂肪酸は脳関門を
 通れない)において、脂肪酸はβ酸化と呼ばれる代謝過程を経てアセチルCoAに転換され、その後は
 上述のATP産生経路にてATP産生に至る。
・なお、アセチルCoAがATP産生経路の主であるクエン酸回路(TCA回路)に組み込まれるときにはオキ
 サロ酢酸が必要であるが、脂肪から分離したグリセロールから変換されたグルコースが、その供給源の
 一部となる。
    
 (出典:脂質と血栓の医学;栄養素の代謝と相互変換)

・脂肪酸が供給できない脳細胞では、グルコースが不足した場合には筋肉などのタンパク質が分解されて
 遊離した糖原性アミノ酸からグルコースが生成されて用いられる。このグルコース生成は糖新生と呼ば
 れ、主に肝臓で行われる。
 (糖新生は、膵臓のランゲルハンス島のA細胞(α細胞)から分泌されるグルカゴンによって促進される。
 グルカゴンはその他、肝のグリコーゲン分解、脂肪細胞のトリグリセリド分解の促進、インスリン分泌、
 成長ホルモン分泌などを刺激する。)
・それでもグルコースが不足した場合、神経細胞はケトン体(主に3-ヒドロキシ酪酸)をエネルギー源と
 して用いる。ケトン体はアセチルCoAから生成され、グルコースと同様に脳関門を通過できる。
・ケトン体は脳関門通過後に再びアセチルCoAに戻されて脳細胞のミトコンドリア内でATP産生に用いら
 れる。
 (肝臓のミトコンドリア中では、アセチルCoA → 3-ヒドロキシ酪酸 → アセト酢酸 → アセトン
 へと変換されるが、アセトンはもはやエネルギー源としては使えない。このようなケトン体が血中に過剰
 になった状態はケトン血症やケトン尿症を引き起し、ケトアシドーシスあるいはケトーシスと呼ばれる。)


<関連リンク>
栄養  消化と吸収  栄養素の代謝  糖質(炭水化物) タンパク質
アミノ酸  中性脂肪  生物とは  クレアチン・クレアチンリン酸・クレアチニン

2015年4月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文