ATPの産生(エネルギーを得るしくみ) 食べたご飯の多くはATPに変わる ・ATPとはアデノシン三リン酸 (Adenosine Triphosphate) のことである。 ・食物の話の中で、いわゆる「カロリー」という表現がされる場合、それはすなわち「ATP」に変換 される部分である。 ・食事から得た糖や脂肪がもつエネルギーは、生体内で使われる時にはATPという分子に変換されな い限り、基本的には利用できない。 ・ATPはどのような仕事にも共通に使えるため、「エネルギー通貨」と呼ばれることがある。 ・特に筋肉においては、ATPの他にクレアチンリン酸がエネルギーの一時貯蔵に使われる。 アデノシンはDNAやRNAにも使われている
ATPはどうやって作られるのか <糖(グルコース)で説明> ・ご飯の中のデンプンはグルコースにまで分解されて腸壁から吸収される。 吸収されたグルコースは血流にのって全身の細胞に届けられる。 このとき、血液中のグルコース濃度を高い状態に維持することは体に不都合を起こすため、余分 なグルコースはグリコーゲンやトリグリセリド(≒中性脂肪)に変換されて貯蔵される。 ・細胞に取り込まれたグルコースは、次のような順序にて処理され、ATPに変換される。
①解糖系について・・・[細胞質基質にて] ・解糖系とは、グルコースをピルビン酸などの有機酸に分解(異化)し、グルコースに含まれる結合エネ ルギーをATPに変換していく代謝過程である。 ・全ての生物で解糖系はその反応が細胞質基質で起こる。これは解糖系が細胞内小器官が発生する以前 から存在する最も原始的な代謝系であることを反映しているのであろう。
・クエン酸回路はTCAサイクル、TCA回路、クレブス回路とも呼ばれる。
チド:電子伝達体として用いられる)を生産する。 ③電子伝達系について・・・[ミトコンドリアにて] 「水素イオンモーターによるATP大量生産」
する変換機が設けられており、これが回転することによって効率よくATPが生成される。 ・このプロトンモーターとATP変換機のセットはATP合成酵素と呼ばれる(タンパク質でできている)。 直径および高さが10nm程度の2つの回転モーター(Fo、F1)が結合してできている。 Foは水素イオン の流れを利用して回転する。F1は、その回転を受けて、ADPをリン酸化してATPを生成する。 ・グルコース1分子当たり、36分子(計38分子)のATPが生成される。 空腹時のエネルギー源は? ・普通の食事を摂ったあと約3時間の吸収期には、吸収されたばかりの、しかもグルコースが主に使わ れる。 ・ただし、筋肉の急激な活動によって筋組織中のATPが不足気味になってきた場合には、少量ではある が筋組織中に蓄えられていたクレアチンリン酸が脱リン酸化することによってATPが産生される。 ・空腹期においては、まず肝臓や筋肉に貯蔵したグリコーゲンが分解されてグルコースが供給されるが、 肝臓に蓄えられたグリコーゲンはたかだか400kcal程度、筋肉中のそれも同程度だといわれている。 ・空腹期の次の段階では、グルコースの使用は中枢神経系に限定され、他の組織では貯蔵脂肪が分解され て用いられるようになる。 ・貯蔵脂肪は、そのほとんどがトリグリセリドであり、まず脂肪細胞中にて脂肪酸とグリセロールに分解 されて細胞外(血液中)に放出される。それを受け取った各細胞(脳以外の細胞:脂肪酸は脳関門を 通れない)において、脂肪酸はβ酸化と呼ばれる代謝過程を経てアセチルCoAに転換され、その後は 上述のATP産生経路にてATP産生に至る。 ・なお、アセチルCoAがATP産生経路の主であるクエン酸回路(TCA回路)に組み込まれるときにはオキ サロ酢酸が必要であるが、脂肪から分離したグリセロールから変換されたグルコースが、その供給源の 一部となる。 (出典:脂質と血栓の医学;栄養素の代謝と相互変換) ・脂肪酸が供給できない脳細胞では、グルコースが不足した場合には筋肉などのタンパク質が分解されて 遊離した糖原性アミノ酸からグルコースが生成されて用いられる。このグルコース生成は糖新生と呼ば れ、主に肝臓で行われる。 (糖新生は、膵臓のランゲルハンス島のA細胞(α細胞)から分泌されるグルカゴンによって促進される。 グルカゴンはその他、肝のグリコーゲン分解、脂肪細胞のトリグリセリド分解の促進、インスリン分泌、 成長ホルモン分泌などを刺激する。) ・それでもグルコースが不足した場合、神経細胞はケトン体(主に3-ヒドロキシ酪酸)をエネルギー源と して用いる。ケトン体はアセチルCoAから生成され、グルコースと同様に脳関門を通過できる。 ・ケトン体は脳関門通過後に再びアセチルCoAに戻されて脳細胞のミトコンドリア内でATP産生に用いら れる。 (肝臓のミトコンドリア中では、アセチルCoA → 3-ヒドロキシ酪酸 → アセト酢酸 → アセトン へと変換されるが、アセトンはもはやエネルギー源としては使えない。このようなケトン体が血中に過剰 になった状態はケトン血症やケトン尿症を引き起し、ケトアシドーシスあるいはケトーシスと呼ばれる。) <関連リンク> ◆栄養 ◆消化と吸収 ◆栄養素の代謝 ◆糖質(炭水化物) ◆タンパク質 ◆アミノ酸 ◆中性脂肪 ◆生物とは ◆クレアチン・クレアチンリン酸・クレアチニン |