中性脂肪


「中性脂肪」という語が誤解を生んでいる。
・「中性脂肪」という語を化学的に解釈すれば、「中性」とは少なくとも「酸」でも「塩基」でもないことを
 意味し、「脂肪」とは常温で固体の「油脂」を指す。
・ところが、「脂肪」という語については、「栄養学」の分野では常温で液体である油についても「脂肪」
 と呼んでいることがあるので注意が必要である。
・常温で液体のものを含めて表現したい場合、化学の分野では「中性油脂」と表現する。
・「中性」すなわち「酸」でも「塩基」でもないもののうち、常温で固体である「脂肪」に属する化合物は
 多種存在する。たとえばコレステロールがそうである。しかし、コレステロールは「中性脂肪」には含め
 ないことになっている。すなわち、「中性脂肪」とは、「中性」+「脂肪」の意味ではないことをあらため
 て確認しておくことが大切である。
・本来、中性油脂の「中性」という語は、長鎖のカルボン酸である「脂肪酸」と対比して便宜的に用いられ
 たものであって、脂肪酸のカルボキシル基の部分がグリセリンとエステル結合し、すでにカルボン酸では
 なくなっていることを意味している。「カルボン酸」ではないために「中性」と表現されたわけである。
 正確さが要求される化学の分野では「中性脂肪」という語はあまり使われない。
・一般的に使われている「中性脂肪」という物質のイメージを化学的に表現するならば、「グリセリド油脂」
 あるいは、「常温で固体のグリセリド油脂」となるであろうか・・。

脂肪酸の多くはグリセリンとエステル結合して存在する。
 多くはトリアシルグリセロール(トリグリセロール、TAG、TG)
 わずかにジアシルグリセロールやモノアシルグリセロール。

・「中性脂肪」が意味する化合物の
 大半は、生体内においては「トリ
 アシルグリセロール」である。
・トリアシルグリセロールはトリグリ
 セライド、あるいはトリグリセリド
 (triglyceride)とも呼ばれる。
・略してTAGまたはTGと表される。
・アシルとは「アシル基」を意味し、
 カルボン酸からヒドロキシ基(-OH)
 を除いた形((R-CO-)の原子団の
 ことをいう。

TGの一種 :
トリパルミトイルグリセロール(トリパルミチン)
・TGは、1分子のグリセロール(グリセリン)に3分子の脂肪酸が結合(エステル結合)したものである。
 ちなみに、2分子の脂肪酸が結合したものはジアシルグリセロール、1分子の脂肪酸が結合したものはモノ
 アシルグリセロールと呼ばれる。
・化学工業的には、これらの物質は「グリセリン脂肪酸エステル」という呼び方になる。
・ヒトの脂肪細胞や植物の種子などに含まれるグリセリドは圧倒的にTGが多く、ジアシルグリセロール(DG)、
 モノアシルグリセロール(MG)、および遊離した脂肪酸は少量存在するに過ぎない。
・TGはそれを構成している脂肪酸の種類によって、常温で固体であったり液体であったりする。飽和脂肪酸が
 多ければ常温で個体(脂肪)であり、不飽和脂肪酸が多ければ常温で液体(油)となる。


TGを食べると → DGやMG+脂肪酸 → 脂肪酸+グリセロール
・食事として、例えば肉などにある脂肪組織を食べると、十二指腸において胆汁の中の胆汁酸塩によって乳化
 され、リパーゼ(正確にはトリアシルリパーゼ)によってアシル基が1個~3個切り離され、DGやMGおよび
 遊離した脂肪酸、あるいは脂肪酸とグリセロールにまで分解される。
 <十二指腸、小腸で・・・>
  中性油脂(の塊)  →  中性油脂の分子  →  DG、MG、脂肪酸  → <吸収>
            ↑            ↑  脂肪酸+グリセロール
            胆汁酸塩         膵リパーゼ(ステアプシン)
                           腸リパーゼ
・MGや脂肪酸は胆汁酸塩とミセルを形成して小腸上皮細胞の刷子縁に運ばれ、その後は細胞膜にとけ込んで
 吸収されるが、刷子縁を形成する上皮細胞内で再びTGに合成され、リポ蛋白の膜に被われたカイロミクロン
 となってリンパ管(乳糜管)に入り、胸管を経て、やがて左鎖骨下静脈に合流する。
・カイロミクロンは、血液中でリポタンパク質リパーゼ(LPL)によって再び遊離脂肪酸とグリセロールに分解
 され、細胞内(脂肪細胞内など)に取り込まれる。
・特に脂肪細胞では、不要な脂肪酸とグリセロールはTGに再合成され、いわゆる体脂肪として貯蔵れる。
 (詳細は「栄養素の代謝-3.トリグリセリド(中性脂肪)のゆくえ」を参照してください。)
・血漿中には、上記のカイロミクロンから遊離した脂肪酸の他に、肝臓にて形成された超低比重リポタンパク質
  (VLDL)に包含されたTGも存在する。


TGはエネルギー貯蔵や恒温動物の保温
・地球上の生物において、TGは長期保存用のエネルギー貯蔵物質として合成され、体に蓄積される。
 同じ重さの糖質タンパク質約2倍のエネルギーを発生することができる。
・恒温動物においては、その体温を保持するための断熱や、衝撃から体を保護する役目も果たす。
・TGを生合成する組織は脂肪組織、肝臓、小腸などであり、貯蔵する臓器は脂肪組織である。
・脂肪組織には脂肪細胞が多くあり、脂肪細胞は大きく膨らんでTGを溜め込む。脂肪酸のみならず、過剰の
 糖分やタンパク質を摂取した場合にも、それらからTGを生合成し、必要以上に脂肪細胞に蓄えてしまうこと
 がある。(すなわち肥満体となる。)
・近年、脂肪組織にはエネルギー貯蔵以外にも大切な働きのあることがわかりつつある。脂肪組織から分泌
 される物質としては、TNF-α(腫瘍壊死因子)、レプチン(食欲と代謝の調整)、アディポネクチン(イン
 スリン感受性の亢進、動脈硬化抑制、抗炎症、心筋肥大抑制など)などがある。
・脂肪組織の量や脂肪細胞の大きさも、やはり適度が良く、少なすぎても多すぎても良くないようである。

DG(ジアシルグリセロール)は生理活性
・DGは、上述のようにTGの代謝分解産物である他、TG合成の前駆体であり、また細胞膜などの生体膜を
 構成するリン脂質の構成要素、すなわちプロスタグランディンなどの生理活性物質の前駆物質でもある。
・さらに、細胞内のある種のシグナル伝達を行うセカンドメッセンジャーとしての働きが明らかになっている。

MG(モノアシルグリセロール)は界面活性
・MGは、食事から摂られたTGが消化され
 るときに、小腸内に大量に生じる。
・グリセロールに脂肪酸が1分子のみ
 結合したものであり、水と油脂を分散
 させるための界面活性剤として働く。
・そのため、食品に使える界面活性剤と
 して広く使われている。
・モノステアリン、モノオレイン、モノ
 パルミチンなどが主流。

モノオレイン


<関連リンク>
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2012年2月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文