水溶性ビタミン

<水溶性ビタミン(ビタミンC,B群)>


水溶性ビタミンの一般的な話
 ・水溶性ビタミンは、脂溶性ビタミンのように体内に保持・蓄積されないため、毎日摂取する必要がある。
  あるいは腸内細菌が作って供給しているものもあり、腸内環境を健全に保つことが重要である。
 ・過剰に摂取された分は速やかに体外に排泄されるため、脂溶性ビタミンに較べ、過剰症の心配は少ないが、
  後述の葉酸のように注意すべきものもある。
 ・現代の日本において、健康体の人がバランスのとれた食生活をしていても、どうしても不足しがちになる
  水溶性ビタミンが存在するようである。これは食材自体が生命体の限られた一部分であったり、加熱によっ
  て壊れたり、水洗いの水やゆで汁になって捨てられてしまったりするためである。
 ・特に不足しやすいのは、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2であると言われている(詳細は下記)。

ビタミンC(L-アスコルビン酸)
 ・ヒトを含む霊長類の一部やモルモットでは体内で生合成できない。
 ・コラーゲンの主要アミノ酸であるヒドロキシプロリンの合成、カルニチン(脂肪酸をミトコンドリアに運ぶ
  ための担体)の合成、副腎皮質ホルモンの合成、カテコールアミンの合成、過酸化脂質や活性酸素の分解など
  の際の、ヒドロキシル化反応(ヒドロキシ基(-OH)を導入する反応)に関与している。
 ・欠乏した場合、不完全なコラーゲンが生成されることによる影響としては、歯のぐらつき、血管の脆弱化、
  粘膜からの出血、怪我の回復や免疫機能の低下、軽度の貧血など、壊血病の諸症状を呈するようになる。
  また、コラーゲンを多く含む骨に対しても影響を与える。
 ・成人の1日あたり摂取量として厚生労働省による推奨量は100mgであり、この値を下回ると各種欠乏症状
  が現れる可能性がある。(「レモン1個分のビタミンC」は 20mg に換算される。)
 ・その他、強い抗酸化作用を持つため、食品に酸化防止剤として添加される場合がある。
 ・サプリメントとしても多く使用され、壊血病の予防の他、鉄分、カルシウムなどミネラルの吸収促進、免疫
  力強化、抗酸化作用などが期待されている。
 ・余剰のビタミンCは一般的には尿中に排出されるが、数グラムレベルで大量に摂取すると下痢を起こす可能性
  がある。尿路結石の報告もあるようである。
 ・皮膚からの吸収しやすくするためにアスコルビンの酸誘導体が作られ、美容を目的とした皮膚科学分野で
  応用されている。

ビタミンB群
 ・ビタミンB群に含まれている8種の物質は、いずれも生体内において、補酵素として機能することが知られ
  ている。
 ・欠乏症を起こすことが稀なものは、その名前から”ビタミン”の文字が外されたものもある。
 ・次の8種類がある。
①ビタミンB1(チアミン)
 ・生体内では、各組織においてチアミンピロリン酸(チアミン二リン酸)に変換される。
 ・チアミン二リン酸は、生体内において各種酵素の補酵素として、アルデヒド基転移の運搬体として働く。
  チアミン三リン酸は、シナプス小胞において、アセチルコリンの遊離を促進し、神経伝達に関与するといわ
  れている。
 ・欠乏症としては、心不全、末梢神経障害(ウェルニッケ脳症(意識障害、精神障害))がある。心不全によって
  下肢の浮腫(むくみ)、神経障害によって下肢のしびれが起き、これは「脚気」と呼ばれる。
 ・一日の所要量は成人男性で1.1 mg、成人女性で0.8 mg。
 ・水溶性のため、水洗いや、ゆで汁の汁に移行する割合が高いため、調理によって失われることを要想定。
 ・卵、乳、豆類に多く含有される。
 ・長期間の多量投与における障害は、現在のところ知られていない。過剰に摂取されたチアミンは速やかに
  尿中に排泄される。

②ビタミンB2(リボフラビン)
 ・リボフラビンは生体内において、フラビンモノヌクレオチド(FMN)やフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)
  に変換される。
 ・FMNや FADはともに生体内においてフラビン酵素の補酵素として働く。フラビン酵素は生体内において、
  アミノ酸脂肪酸の中間代謝、酸化的リン酸化など、好気呼吸を含めた重要な多くの酸化還元反応を
  触媒する。
 ・その他、白内障を含む多くの眼の疾患の予防や治療にも役立つ。
 ・欠乏すると、それこそ全身的な影響を受けるわけであり、成長の停止や早期老化がもたらされ、部位的には
  口角炎、口唇炎、口内炎、舌炎、目の充血や障害、角膜炎、皮膚炎、脱毛症、胃腸障害、てんかん発作など
  が代表的だとされる。
 ・一日の所要量は、成人男子 1.2 mg 、成人女性 1.0 mg 、及びこれに、摂取エネルギー1,000 kcal に対して
   0.4 mg を加えた量が必要とされる。
 ・肉類、卵、牛乳、納豆、葉菜類、全粒穀物に多く含まれる。
 ・過剰摂取の場合、尿中に排泄されるため、過剰症は発生しない。ただし、一日に400mg摂取すると下痢や
  多尿が起こる可能性が示唆されている。
 ・水溶液や過剰摂取の場合の尿は蛍光黄色。

③ナイアシン(ニコチン酸およびニコチン酸アミド)(旧名:ビタミンB3)
 ・エネルギー代謝(糖質、脂質、タンパク質の代謝など)において、酸化還元酵素の補酵素として働く。
 ・循環系、消化系、神経系の働きを促進する働きもある。
 ・体内でトリプトファンから生合成されるため、「ビタミン」と言われなくなった。さらに腸内常在細菌がトリ
  プトファンからのナイアシン合成を行っており、通常の食生活を送る上では欠乏症に陥ることは少ない。
 ・ただし、前駆物質であるトリプトファンが欠乏することによってナイアシン欠乏症が発生し、これはペラグラ
  (光線過敏で皮膚露出部に炎症や発疹、消化器障害、脳の機能不全など)と呼ばれる。
 ・過剰症としては、1日に100mg以上の摂取で皮膚が紅潮したりヒリヒリしたり痒くなったり、頭痛、吐き気、
  下痢などを起こすことがある。さらに高用量では肝障害、血糖値上昇、尿酸値上昇の恐れが有る。

④パントテン酸(旧名:ビタミンB5)
 ・補酵素A(CoA)の構成成分として、糖代謝や脂肪酸代謝において関わる。
 ・食品中に広く存在する補酵素Aが、消化管内でパントテン酸にまで分解されて吸収されるため、通常の食生活
  を送る上で不足になることはあまりない。
 ・欠乏すると全身的に影響が出るが、特に皮膚炎、腸炎、円形脱毛症、副腎機能不全症などが見られやすいと
  言われている。
 ・過剰症の報告は無いようである。

⑤ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサール、およびピリドキサミン)
 ・アミノ酸の代謝や神経伝達に用いられる。
 ・腸内細菌により合成されるため、通常は不足することはないが、腸内細菌の異常や、銀杏に含まれるような
  ビタミンB6に拮抗する物質によって不足になる場合もありうる。
 ・欠乏症としては貧血、口角炎、舌炎、脂漏性皮膚炎、多発性末梢神経炎、痙攣、てんかん発作など。
 ・過剰症としては、1日200mgの摂取で神経異常。500mg摂取し、日光浴で皮膚の紅潮を起こすこともあると
  の報告があるようである。

⑥ビオチン(旧名:ビタミンB7、ビタミンH)
 ・ビオチン酵素(カルボキシル基転移酵素の一種)の補酵素として働く。
 ・腸内細菌叢により供給されるため、通常の食生活において欠乏症は発生しない。
 ・欠乏すると全身的に影響が出るが、特に皮膚炎、結膜炎、糖尿病、神経障害、筋肉痛や疲労感などが言われ
  ている。
 ・過剰症としては、少なくとも10mgまでの摂取においては過剰症の報告は無いようである。

⑦葉酸(旧名:ビタミンB9、ビタミンM)
 ・葉酸はテトラヒドロ葉酸に変換された後に、DNAの構成要素であるピリミジンやプリンの合成や分解、アミ
  ノ酸の代謝、ポリペプチド鎖合成などに広く関わる補酵素としてはたらく。
 ・哺乳動物は葉酸を体内で合成できないため、葉酸を含む食物を摂取する必要がある。
 ・欠乏すると、短期間に多くのDNA合成を必要とする骨髓中の造血細胞、舌、消化管の粘膜細胞に最初に影響
  が出る。その結果、巨赤芽球性貧血や免疫力低下、舌炎、消化管機能異常、その他、妊娠期における胎児の
  神経管閉鎖障害、無脳児の発生リスク増大などが起こる。
 ・メトトレキサートなどの葉酸拮抗物質は、DNA合成の盛んな癌細胞の増殖を抑えるために利用される。
 ・大量飲酒や各種薬剤(例:制酸剤、アスピリン、抗けいれん薬、潰瘍性大腸炎治療薬、抗癌剤・免疫抑制剤、
  抗菌薬のST合剤など)は葉酸の吸収や代謝を阻害するため、これらの薬剤を頻繁に服用する人は、葉酸欠乏
  に気を配る必要がある。
 ・厚生労働省は2000年に、妊娠を計画している女性に対し、1日当たり0.4mg(400μg)以上の摂取を推奨して
  いる。
 ・葉酸を多く含む食品は、レバー、酵母、緑黄色野菜、果物などであるが、調理や長期間保存によって酸化
  されて失われるため、新鮮な生野菜や果物が良い供給源となる。
 ・過剰症としては、亜鉛の吸収阻害、発熱、じんま疹、生まれた子どもの喘息リスクを向上させるようである。
  また、葉酸入りのサプリメントが発癌を促進するとの報告もあるようで、少なくとも過剰摂取は避けるべき
  である。食事以外に、1日に1mgを超えないようにとの指導があるようである。

⑧ビタミンB12((広義)コバラミン、(狭義)シアノコバラミン)
 ・ビタミンB12は、これ自体には補酵素活性は無く、生体内で補酵素型であるメチルコバラミンおよびアデノ
  シルコバラミンに変換され、葉酸とともにDNAの構成要素であるピリミジンやプリンの合成に関わったり、
  ある種のアミノ酸や脂肪酸の代謝や葉酸の再生産に用いられる。従って、すべてではないが多くのビタミン
  B12の機能は十分な量の葉酸によって代替される。
 ・ビタミンB12の欠乏は葉酸の欠乏を起こすことにもなるため、欠乏症のほとんどは葉酸欠乏症(巨赤芽球性
  貧血(悪性貧血)など)であり、充分な量の葉酸にて正常化する。
 ・その他、ビタミンB12そのものの影響として、亜急性連合性脊髄変性症、メチルマロン酸尿症、ホモシステ
  イン尿症などがある。ハンター舌炎は、ビタミンB12の欠乏によるものと説明される。
 ・1日の所要量は2.6μgと微量であるため、通常は不足することはないが、ピロリ菌などによる萎縮性胃炎や
  胃切除によってビタミンB12の吸収が不足する場合、あるいは、極度の菜食主義などによって起こりえる。
 ・ビタミンB12は細菌によって作られ、動物はこれを摂取して利用しており、肝臓に多く含まれる。一方、穀類、
  豆、芋、野菜、果物にはほとんど含まれていない。ただし、海産物である海苔には多く含まれているようで
  ある。
 ・赤色又はピンク色を呈するため「赤いビタミン」とも呼ばれている。
 ・類縁体であるシアノコバラミンは眼精疲労の治療薬として市販薬に配合される。


<関連リンク>
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2011年10月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文