アドレナリン(副腎髄質ホルモン)


名前の由来
(なぜアドレナリンなのか?)

・アドレナリンの発見にまつわる歴史的な話は色々
 あるようであるが、それはさておき、この命名法
 は現代のルールに則っているので紹介しておく。
  アドレナリン adrenaline とは、
   ad-:「付着」を意味する接頭語。
   ren:「腎臓(=kidney)」、 renal:「腎の」、
      「腎性の(=nephric)」の意。
    adren-、adreno-、adrenal-:「副腎の」、
    「副腎に関する」の意の連結形。
   -ine:塩基(アミン)および元素名を作る。
  すなわち、「副腎のアミン」といった意味である。
・類似物質にノルアドレナリンがあるが、
  ノルアドレナリン noradrenaline
   nor-:①炭素原子の分枝のない鎖を意味する
       接頭語。
      ②鎖からメチレン基(-CH2)1個を除去
       することを意味する接頭語。
  本物質の場合、②に該当する。(右図のNorepine
  -phrin を参照)

エピネフリンとも呼ばれる
・アドレナリンは、米国や医学系においてはエピネフリ
 ンと呼ばれてきた。
・epinephrineの命名は、
 epi-:「上の」、「次の」、「後の」を意味する接頭語。
 nephr-:「腎性の」の意の連結形。
 -ine:塩基(アミン)および元素名を作る。
 すなわち、アドレナリンと同じく「副腎のアミン」とい
 った意味である。

 カテコールアミン類である
アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンは、総称してカテコールアミンと呼ばれる。
・カテコールアミンcatecholamineとは、catechol:「カテコール」、フェノール類の一種
 で、ベンゼン環上のオルト位に 2個のヒドロキシ基を有する有機化合物。マメ科植物
 Acacia catechu(阿仙薬)から単離された。
 amine:「アミン」。アンモニア(NH3)の水素原子を炭化水素基で1つ以上置換した化合
 物の総称である。
・すなわち、カテコールアミンとは、カテコールとアミンを有する化学種で、生体内ではアドレナリン、
 ノルアドレナリン、ドーパミンの3種類がある。
・これらは非必須アミノ酸であるチロシンから生合成される。
 チロシン → ドーパ → ドーパミン → ノルアドレナリン → アドレナリン (上図参照)
・ちなみにドーパミン(Dopamine)は、中枢神経系に存在する神経伝達物質として有名であるが、副腎
 髄質からもわずかに分泌される。

ここでは「ホルモン」として働くアドレナリンの話に限定
・アドレナリンという物質は神経伝達物質としても利用されるが、混乱を避けるために、ここでは副腎髄
 質にて産生・分泌され、血中に放出されて全身を巡るアドレナリンについて記述する。ちなみに、神経
 伝達物質とは神経細胞同士のつなぎ部分であるシナプスにおいて、そのごくわずかな間隙に極微量に
 放出されるものであり、現在では50種類以上の物質が確認されている。伝達物質としては、アドレナ
 リンであろうが何であろうが、シナプスの手前まで来た信号を次の神経細胞に伝達することに意味が
 あるわけで、伝達物質はその名の通り、伝える役割を担わされているに過ぎない。

アドレナリンが約80%、残りの大部分はノルアドレナリン
・副腎髄質から分泌されるカテコールアミンの約80%はアドレナリンであり、残りの大部分はノルアド
 レナリン、そしてわずかにドーパミンも分泌される。
・生合成系の最終産物がアドレナリンであり、ノルアドレナリンはその前駆物質である。また、ノルアド
 レナリンの前駆物質がドーパミンである(上図参照)。すなわち、未完製品も何割か分泌されてしまう
 と思えばよいであろう。

交感神経機能の拡大装置が副腎髄質である
・副腎は、表層の皮質と中心部の髄質からなり、両者は発生の起源や、その機能が異なる。
・皮質は中胚葉性であってステロイドホルモンを分泌し、副腎重量の8割を占める。
・髄質は外胚葉性であってカテコールアミンを分泌する。
 (ちなみに、外胚葉由来の器官は皮膚、神経系、感覚器など。内胚葉由来の器官は消化器、呼吸器、尿路
 など。中胚葉由来の器官は骨格系、筋系、脈管系、泌尿・生殖器系などである。)
・副腎髄質は交感神経節後神経に相当する神経組織として発生し、解剖学的にも交感神経節と同等の組織で
 あり、多量の交感神経節前線維が侵入する。

「闘争か逃避か」の時の神経は交感神経
「闘争か逃避か」の時のホルモンはアドレナリン

・電気的信号系である神経系だけで命令を送り続けるためには多くのエネルギーが要る。それならば、
 なんらかの物質を作り、それを血液中に流しておけば、そのほうが手軽である。だからこそ「ホルモン」
 という内分泌物質が存在する意義がある。
・しかし、物質をあらかじめ作って細胞内の顆粒に貯蔵していたとしても、緊急時に血流によってその物質
 が目的の臓器や組織に到達して効果を発揮するまでには時間がかかる。特に緊急時のタイムラグは大問題
 である。
・従って、まず神経という電気信号にて素速く指示を送り、その後はホルモンによってその指示の内容を
 保持するという方法が採られる。

怒りが半減するためには約40秒かかる
・「まぁ落ち着け」と言われても、落ち着けるまでには約40秒以上かかる。神経系ならば、そのインパ
 ルスを出すことを止めればよいが、物質であるホルモンはすぐには分解されない。アドレナリンなどの
 カテコールアミン類が血中に出てからの寿命は比較的短いが、それでも半減期は約40秒だと言われて
 いる。(ちなみに、甲状腺ホルモンの血中での寿命はおよそ1週間とされている。)

ホルモンは鍵であり受容体が鍵穴である
カテコールアミンはα受容体やβ受容体を刺激する
・「○○○というホルモンは□□という臓器に対して△△△ような作用をする」という覚え方は、のちの
 理解を妨げることになりかねない。
・全く同じホルモンであっても、臓器や組織によっては逆の反応を起こすこともあることは、あらかじめ
 想定しておかなければならない。たとえば、あるホルモンが流れてくると、ある部分の血管は拡張する
 が、ある部分の血管は収縮するなどである。
・現在、アドレナリンなどのカテコールアミンが作用を及ぼす受容体と、その受容体が起こす反応は下記
 のように理解されている。
 ①α1受容体(サブタイプとしてα1A、α1B、α1D)
    作用の例 ・・・・ 血管収縮、瞳孔散大、立毛、前立腺収縮など
 ②α2受容体(サブタイプα2A、α2B、α2C)
    作用の例 ・・・・ 血小板凝集、脂肪分解抑制、その他様々な神経系作用
 ③β1受容体
    作用の例 ・・・・ 心収縮力増大、子宮平滑筋弛緩、脂肪分解活性化など
 ④β2受容体
    作用の例 ・・・・ 筋肉や肝臓の血管平滑筋拡張、気管支平滑筋の拡張、子宮平滑筋など各種の
            平滑筋の弛緩、糖代謝の活性化
 ⑤β3受容体
    作用の例 ・・・・ 脂肪組織、消化管、肝臓や骨格筋などの基礎代謝に影響を与えていると予想
            されている。

α1受容体を持つ血管は収縮するが、
β2受容体を持つ血管は拡張する

・α1受容体を持つ血管は収縮して血圧を上げる方向に働くが、β2受容体を持つ筋肉や肝臓の血管は拡張
 して血流を増やし、闘争あるいは逃避に備えて筋肉の働きを増強し、肝臓ではグリコーゲンを分解して
 ブドウ糖を産生し、筋肉などの末梢に送り届けようとする。
・β1受容体を持つ心筋は収縮力を増し、血液の1回心拍出量を増加させる。
・傾向として、ノルアドレナリンは、特にα受容体に親和性が高く、血管収縮による血圧上昇作用が強いと
 される。
・アドレナリンはα受容体・β受容体ともに親和性が高いとされている。
・結論的にわかりやすく言えば「アドレナリンやノルアドレナリンは、闘争または逃避能力を最大限に上げ
 るために、一時的には犠牲にしてもよい消化器系や生殖器系などの働きを抑え、その代わりに、必要な
 筋肉や心臓の働きを増し、呼吸の能力も上げ、エネルギー源であるブドウ糖の血中濃度を上げる。」


緊急連絡網のため、神経系が直接に副腎髄質に命令する
・副腎髄質に対してカテコールアミンの分泌を促す刺激は、交感神経(交感神経節前線維)から直接に送ら
 れる。これは、副腎皮質ホルモンの分泌刺激が「視床下部ホルモン下垂体ホルモン→副腎皮質」という
 経路を経るのと大きく異なる。
・なおノルアドレナリンからアドレナリンへの変換は、糖質コルチコイドによっても促進される。これは、
 ストレスがかかっているときにはアドレナリンの分泌も高まっていることを意味する。
・カテコールアミン類の血中濃度は、安静時においては極微量であり、交感神経の興奮に伴って噴出的に
 大量に分泌される(例:緊急時のストレス、精神的感動、筋運動、寒冷、血圧低下、血糖値低下の時など)

α作動薬、β作動薬、α拮抗薬、β拮抗薬とは?
・目的に応じて、それぞれの受容体を薬物によって操作することができる。
・すなわち、カテコールアミンと同じようにその受容体にくっついて動作させる薬物を与えてやれば、あた
 かもカテコールアミンが多量に分泌されたのと同じ状態を作ることができ、これは作動薬と呼ばれる。
・逆にその受容体を作動させないように働く薬物を与えてやれば、カテコールアミンが分泌されていても、
 分泌されていないときと同じ状態を作ることができ、これは遮断薬またはブロッカーと呼ばれる。
・人工合成されたアドレナリンやノルアドレナリンは、αおよびβ作動薬として使われている。


<関連リンク>
  副腎皮質ホルモン  甲状腺ホルモン  視床下部ホルモン  下垂体ホルモン
  ストレスとは
2011年12月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文