鎮痛


鎮痛の概要
・痛みは生体に対する警告信号であり、痛みが起こったならば先ずその原因を追及し、原因となっている
 傷害や疾患の治療を行うことが先決である。
・治療と併行して、痛みを軽減する行為が行われる。一般的には安静を保つ、体位を工夫する、冷やす、
 あるいは温める、さすったりマッサージしたりする、あるいはツボ刺激、鍼灸などの東洋医学的な手法
 を併用してみるなどがあげられる。
・上記のような手段で効果が出ない場合、鎮痛薬を主体とした薬物療法が追加されることがある。
・薬物療法が無効、あるいは副作用などの理由で使えない場合、神経ブロック療法や認知行動療法が行わ
 れる。
・病院などの臨床現場においては、痛みの種類によっておおよそ次のような手段がとられる。
 ①侵害受容性疼痛の鎮痛
   多くは外傷や炎症に伴う痛みであり、消炎鎮痛薬、中枢性鎮痛薬、あるいは神経ブロックなどの手段
   がとられる。
   筋肉の緊張には筋弛緩剤、虚血には循環改善薬も使われる。
 ②神経因性疼痛の鎮痛
   神経損傷後に発症する痛みであり、抗けいれん薬や抗うつ薬の適応となる。
   消炎鎮痛薬や麻薬などの中枢性鎮痛薬、神経ブロックは無効なことが多い。
 ③心因性疼痛の鎮痛
   身体的異常を伴わない痛みであり、心理的・感情的行動刺激と関連しているか相関関係にあり、抗不安
   薬、抗うつ薬などが主体となり、認知行動療法も応用される。


鎮痛の各論
(1)冷やす、温める、湿布する
 急性期:冷やす、安静にする。
  ・冷やすことによって局部の温度を下げると、酸素消費量が低下し、酸欠による(虚血による)発痛物質の
   生成が抑制される。
  ・温度低下によって炎症反応が抑制され、発痛物質の生成が抑制される。
  ・温度低下によって、感覚ニューロンの活動そのものが低下する。
  ・なお、冷却を止めた後はリバウンドで血流が一時的に増加することに注意。
 慢性期:温める、動かす。
  ・温めたり、軽く動かすことによって血行が良くなり、発痛物質が早く除去される。
  ・温めて痛みが増悪する場合は、急性期の炎症が存在すると考えられる。

(2)さする、なでる、マッサージする
 ・さするなどによる疼痛緩和のメカニズムは次のように説明される。すなわち、脊髄後角(顔の場合は三叉
  神経脊髄路角)に痛み刺激と触覚刺激が同時に進入した場合には、脳に向かう第2次痛覚伝導ニューロン
  が受け取る痛み信号の量が、痛み刺激単独の場合にくらべて半減してしまうため。
 ・脳あるいは神経系は概して、意識を向けた対象が優先して伝達・処理され、それ以外のものは疎かになる
  という特性を持つ。
 ・近年、さする行為が、末梢神経の修復や再生を促進させる効果がある可能性が示唆された。
 ・一般的に、強めの刺激は鎮静的に働き、弱めの刺激は興奮的に働く。

(3)ツボを押す、刺激する、鍼灸
 ・ツボとは、東洋医学での、病気や痛みの効果的な治療点であると同時に、診断点でもある。
 ・鍼麻酔のように、鍼を刺すことによって、ある種の痛みに対して鎮痛を行えることが知られている。
 ・ツボを押す、お灸をすえるなどの刺激によっても鎮痛効果が期待できるとされている。
  (例:『合谷』(頭痛・その他)、『手三里』(歯痛・その他)、『三陰交』(消化器・下肢痛・生理痛など))
 ・第2次ニューロン以降の痛覚信号処理系に原因がある痛みには上述の湿布やマッサージの効果は期待できな
  いが、ツボ刺激では痛みの緩和が期待できる。
 ・ツボ刺激による疼痛緩和のメカニズムははっきりとは解明されていないが、痛みを感じる閾値を上昇させ
  たり、体内における鎮痛物質(エンケファリン、エンドルフィン、アデノシンなど)の産生を促すなどの説が
  ある。
 ・鍼による疼痛緩和の主要因はエンケファリンの放出によるものであると説明されている。
 ・広汎な部位に侵害刺激を加えると、痛みがよく抑えられる。
 ・筋肉ではコリや緊張がとれて血行がよくなり、痛みが軽減する。

(4)鎮痛薬を用いる
 ・別ページに記載


(5)認知行動療法
 ・心因的な慢性痛に対してはたいへん有効である。
 ・ある出来事に対する患者の認知体系(捉え方・考え方)やそれに続く行動の結果として痛みが表れるもの
  と考え、そうした認知体系や行動を修正していくことで痛みを軽くする治療法である。
 ・最終的には、患者自身がセルフコントロールできるようになることを目指す。
 ・簡単にいえば、痛みを感じる条件反射から、痛みを感じない条件反射へ誘導するという治療法である。

(6)先制鎮痛(先取り鎮痛)
 ・術後疼痛の防止または減少の目的で術前に鎮痛処置を施すことである。
 ・疼痛刺激は神経細胞において“刷り込まれ”記憶される現象(中枢性感作)や、C線維より持続する侵害刺激
  は脊髄後角細胞において応答反応を増幅させる現象があり、これらを防ぐことを目的とする(痛みを記憶
  させず、増幅させないようにする)。
 ・鎮痛方法としては、局所麻酔薬の局所浸潤、神経ブロック、硬膜外ブロック、くも膜下ブロックや、静脈
  内鎮痛剤、抗炎症薬の併用、あるいはオピオイド鎮痛薬(麻薬性鎮痛薬)の併用などがある。

(7)痛みの悪循環を回避する
 ・痛みの悪循環とは次のようである。
   痛み → 筋肉や血管の緊張 → 血行の悪化 → 発痛物質の蓄積 → 痛みの悪化
  ケガなどの障害(侵害刺激)で、侵害受容器が刺激され、生じたインパルスが脊髄後角に伝導されると、
  交感神経節を介して筋肉や血管が収縮し、血行が悪化(局所乏血)し、生成された発痛物質が蓄積する。
  発痛物質は、侵害受容器を再び刺激して、痛みが悪循環する。
 ・慢性的な痛みの悪循環を断つためには、以下の方法が、有効と考えられる。
  ① 侵害刺激や炎症の原因を、除去する。
  ② 消炎鎮痛剤(NSAIDsなど)で、PGE2合成を阻害し、炎症(疼痛や腫脹)を抑制する。
  ③ 筋弛緩薬で、交感神経節を介する筋肉攣縮や血管収縮を解除して、血行を改善し、発痛物質を除去し
    て、痛みを軽減させる。
  ④ 抗うつ薬、抗不安薬で、脳内のセロトニンなどの分泌を増加させ、痛みを軽減させ、心理的な不安を
    和らげる。


<関連リンク>
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2012年6月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文