消化管ホルモン


消化器も、神経とホルモンの両方でコントロールされている
・消化器系臓器の動きや消化液の分泌は、神経系としては迷走神経(内臓の運動神経や、副交感性の
 知覚神経)によってコントロールされているが、ホルモン系としては消化管ホルモンによってコント
 ロールされている。

消化液は消化管内に放出されるが、消化管ホルモンは血管内に放出される
・消化管ホルモンを産生しているのは、消化管(主として胃、十二指腸および小腸上部)の内面にある
 粘膜に散在する内分泌細胞である。これは、その細胞の基底部に微細な顆粒を持っており、基底顆粒
 細胞と呼ばれる。
・基底顆粒細胞は、他の内分泌腺の細胞と違って集落を作らず、消化管粘膜の上皮組織内に外分泌細胞に
 挟まれて散在する。
・これらの細胞の多くは消化管内腔面に微絨毛をもち、内腔を通る食物やその消化物の刺激を直接受容し
 て、反対側の基底部側にある毛細血管内にホルモンを放出する(受容分泌)。
・消化管ホルモンの標的器官は、隣接する消化器臓器(胃、小腸、肝臓、膵臓、胆嚢)であるため、全身
 を巡る大循環に入る必要性なく、門脈領域内など、短距離間において作用することになる。
・構造的にはアミノ酸の重合によって成るペプチドホルモンである。


【主な消化管ホルモンのまとめ(3種類)】

ガストリン gastrin
・gastro-、gastr-:「胃」、「腹」の意の連結形
 -in:(化合物、薬品などの名詞を作る)
・アミノ酸17残基のペプチドである。
・胃に入ってきた食物の機械的刺激や化学的刺激(蛋白性)によって、主に胃の幽門部にあるガストリン
 細胞(G細胞)から分泌される。
・逆に、胃酸濃度の上昇やセクレチンによって、ガストリンの分泌は抑制される。
・ガストリンの役割は、胃酸分泌誘起、ペプシノーゲン分泌亢進、胃運動亢進である。
・ガストリンが分泌された場合、胃酸の主成分である塩酸の分泌量は基礎分泌量(約2mEq/hr)の10~
 20倍に増加する。

セクレチン secretin
・secrete:「分泌する」
 -in:(化合物、薬品などの名詞を作る)
・アミノ酸27残基のペプチドである。
・胃から送られてきた酸性内容物が十二指腸に流れ込み、pHが低下することによって、十二指腸や小腸
 上部に存在するS細胞から分泌される。
・逆に、粥状物が中和されることによって、セクレチンの分泌は抑制される。
・セクレチンの役割は、胃から送られてきた酸性の粥状物を中和することであり、そのために肝臓、膵臓、
 十二指腸腺からの重炭酸塩(主に炭酸水素ナトリウム)の分泌を亢進し、それと同時にガストリンや
 胃液の分泌を抑制する(胃酸分泌を抑制するが、ペプシノゲン分泌は高める)。
・また、また胆汁分泌を促すためにコレシストキニンの効果を強める働きもある。

コレシストキニン cholecystokinin(CCK)
(=パンクレオザイミン)

・chole-、chol-、cholo-:「胆汁」の意の連結形
 cyst:「嚢(のう、ふくろ)」
 -kinin:「動かすもの」あるいは「著しく劇的な生理的効果をもつ物質」の意の名詞を作る。
・アミノ酸33残基のペプチドである。
・十二指腸内にペプチド、アミノ酸、脂肪酸が流れ込むことによって、十二指腸や小腸上部にあるI細胞
 から分泌される。
・逆に、消化産物が十二指腸を去ると、コレシストキニンの分泌は終了する。
・コレシストキニンの役割は、胆嚢を収縮させ、オッディ括約筋の弛緩を促して胆汁排出を促進すること、
 膵臓に働いて主に消化酵素の分泌を促進すること、胃が糜粥を十二指腸に送り込む動きを遅くすること
 である。(栄養素的には、タンパク質や脂肪などの消化に関わることになる。)


【その他の消化管ホルモンのまとめ(5種類)】

GIP gastric inhibitory peptide
 胃抑制ペプチド(胃抑制性ポリペプチド)

・gastric:「胃の」
 inhibitory:「抑制[性・的]の」、「阻害の」
・アミノ酸43残基のペプチドである。
・十二指腸内にグルコースなどの糖、脂肪、あるいは酸が流れ込むことによって、小腸内面のK細胞から
 分泌される。
・GIPの役割は、胃酸やペプシンの分泌を抑制すること、胃の運動を抑制すること、インスリンの分泌を
 促進することである。(食後、血糖値が上がる前に血中インスリン濃度が上昇するのはこのためである
 とされる。)

GLP-1 Glucagon-like peptide-1
 グルカゴン様ペプチド-1
・Glucagon-like peptide-1:「グルカゴン様ペプチド-1」
・アミノ酸の数は、長いペプチドからの切り出され方により、29あるいは30残基。
・小腸における糖、食物繊維、ω3系脂肪酸(EPAなど)の存在が刺激になって、小腸下部内面のL細胞
 から分泌される。
・上記のGIPとともに「インクレチン」と呼ばれる。
・GLP-1の役割は、インスリン分泌の促進、ランゲルハンス島β細胞の増殖促進、グルカゴン分泌の抑制、
 胃液分泌の抑制、中枢性の食欲抑制作用などが言われている。
・糖尿病や肥満の治療にも用いられている。

VIP vasoactive intestinal polypeptide
 血管作動性腸管ペプチド(血管作用性小腸ペプチド)

・vasoactive:「血管作用性の(血管の緊張および口径に影響する)」
 intestinal:「腸[管]の」
 polypeptide:「ポリペプチド(ペプチド結合により多数のアミノ酸が連結して形成されたペプチド)」
・アミノ酸28残基のペプチドである。
・VIPは体の部分によって違った役割を持つ。
 消化器系では平滑筋(下部食道括約筋、胃、胆嚢、腸など)の弛緩、膵液と胆汁の分泌刺激、膵臓の
 炭酸水素塩の分泌刺激、胃酸の分泌と腸への吸収抑制、ガストリンによる胃酸分泌抑制、腸からの
 水分や電解液分泌を強く刺激、腸の血管拡張などが言われている。
・脳では概日リズムの時計機構に関係する、プロラクチン分泌の調節を助けるなど、心臓では・冠状動脈
 の血管拡張、心拍出量増加などが言われている。

モチリン Motilin
・motility:「[自動]運動性」
 -in:(上記参照)
・アミノ酸22残基のペプチドである。
・十二指腸粘膜のMo細胞から分泌されるペプチドである。
・モチリンの役割は、ペプシノーゲンの産生亢進、胃腸の運動亢進(特に高pH、または空腹時)。
・空腹時にお腹が「ぐ~っ」と鳴るのは、モチリン分泌によって胃や小腸に一連の強収縮(空腹期収縮)
 が起こるためであり、これによって消化管に溜まった各種の消化液は大腸の方に押しやられる。
・モチリンの分泌は、十二指腸におけるアルカリの存在、空腹状態、副交感神経によって更新される
 ようである。

ソマトスタチン somatostatin
・somato-、somat-:(上記参照)
 statin:「スタチン(= releasing factor)」
・アミノ酸14残基、あるいは28残基。
・消化管の内分泌細胞のほかにも、膵臓のランゲルハンス島、脳の視床下部などから分泌される。
・ソマトスタチンの役割は、消化管からの栄養の吸収抑制、セクレチン、ガストリン、胃液、胃酸の分泌
 抑制、ランゲルハンス島からのインスリンおよびグルカゴンの産生抑制・分泌抑制、下垂体からの成長
 ホルモンやTSHの分泌抑制など。ちなみに、視床下部では、GHRHとソマトスタチンは、成長ホルモン
 の脈動の分泌によって交互に放出される。


【その他、消化管から出るホルモン】
グレリン ghrelin
・ghre-:GH-releasing(成長ホルモン放出)の意味、および「ghre」はインド・ヨーロッパ語族における
 「成長」の意味。
・アミノ酸28残基のペプチドである。
・主に胃で産生され、血中に放出される。
・その血中濃度は絶食によって上昇し、摂食によって低下する(すなわち、空腹時に多く分泌される)。
・下垂体に働いて成長ホルモンの分泌を促進する。この作用は、視床下部からのGHRH(成長ホルモン
 放出ホルモンと相乗的に働く。
・また視床下部に働いて、食欲を増進させる。(食欲を抑え、エネルギー消費量を増大させることによっ
 て肥満を防ぐホルモンであるレプチンの働きとは拮抗的な関係になる。ちなみに、レプチンは脂肪細胞
 にて産生されるホルモンである。)
・痩せた人では血中濃度は高値を示すが肥満者では低値を示すため、肥満者の旺盛な食欲はまた別のメカ
 ニズムによると考えられる。

2012年12月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文