発育と発達 (1)まず知っておかなければならないポイント ★子どもの体は、大人の体の縮小版ではない。 ★体の部分によって発育・発達の速度が異なる(下記参照)。 ★体は必要とする時期に必要なものを優先的に発育・発達させている。 (例:生殖機能の発達は体が大きくなってからでよい)。 ★その機能が発育・発達する時期が鍛え時である。 (2)発育・発達する順番 ①一番最初に発育するのは、脳、脊髄、神経回路などの神経系である(神経型)。 ・脳・神経系は6歳ぐらいで成人の約90%になり、10歳頃にはほぼ完成する。 ・神経細胞の数は、基本的には胎児期に増加し、生後はほとんど変わらない。 ・生後の神経系の発達は、神経線維の連絡が増加することによる。 ②次に早く発育するのは、胸腺、扁桃、リンパ節などのリンパ系器官である(リンパ型)。 ・リンパ系器官は、病原菌や病原ウイルスから身を守るためにたいへん重要である。 ・出生後に、病原菌などと接触することにより、対処方法を学習していく。 ・胸腺は12歳前後でその大きさや活動が最大になり、その後は衰えていく。 (胸腺において、自己防衛にとって適切に働くTリンパ球のみが選ばれ、それ以外が除去される。 これは一般に、「Tリンパ球の教育」と呼ばれる。) ③骨、筋肉、内臓など、体の全体的な発育量は、2~3歳ぐらいまで、及び思春期において大きい。 (思春期:子どもから大人の身体に変化している時期) ・学童期に発育が穏やかになるのは、リンパ系の完成のためにエネルギーを割かれていると考えてよい だろう。 ④一番遅れて完成するのは生殖機能である。 ・第一次性徴と第二性徴に分けられており、思春期において第二次性徴の部分が急速に発育発達する。 (第一次性徴・・・・胎生期に生じる生殖腺や生殖器に直結する部分に見られる雌雄の違い。) (第二次性徴・・・・男性では11~13歳頃、女性では10~13歳頃から始まることが多く、第一次性徴 以外の、性による体の形質の差を言う。) 発育・発達と運動指導 1.発育期 (1)幼児期 ・神経系が急速に発達している時期であるため、さまざまな感覚を使う運動を行わせると良く、これに より日常動作にも必要なバランス感覚、敏捷性、リズム感などが養われる。 ・感覚としては、位置感覚、視覚調整感覚、聴覚調整感覚などがあげられる。 ・位置感覚を高める運動は、 逆さ感覚については、ブリッジ、逆立ちなど。 高さ感覚については、ジャングルジム、跳び箱、トランポリンなど。 回転感覚については、マット運動、鉄棒など。 振りの感覚については、うんてい、鉄棒の振りなど。 平衡感覚については、平均台など。 ・視覚調整感覚とは、目と手、目と足、目と手足の協応動作をする感覚である。 これを高めるには、ボールつき、ボールけり、なわ跳びなどがある。 ・聴覚調整感覚とは、耳と手、耳と足、耳と手足の協応動作をする感覚である。 これを高めるには、音楽に合わせてボールつき、リズムに合わせてスキップやなわ跳びなどがある。 ・障害予防のためには、子どもは軟骨の部分が多いため、体に大きな力が加わるような運動、筋力を 必要とするような運動は避けるべきである。 (2)前思春期(学童期、=小学生) ・体格の向上や、体の各部分の機能が発達してくることにり、運動能力が著しく発達する時期である。 ・したがって、ある特定の種目の運動のみを繰り返すのではなく、多くの種類の運動を行わせるように する。 ・特定の複雑な運動を行わせるよりは、体の多くの部分を使った単純な運動を多種類指導するほうが 良い。いわゆる「運動遊び」を自由にやらせるようにする。 ・骨格には力学的負荷に弱い軟骨がまだ多く含まれているため、負荷が大きすぎると軟骨を傷め、成長 に障害が出たり、関節の障害を残すことになる場合がある。 ・障害予防のためには、幼児期に共通するが、体に大きな力が加わるような運動、筋力を必要とする ような運動、そして同じ動作の多回数繰り返し、長時間繰り返しは避けるべきである。 (3)思春期(中学生~高校生) ・特に中学生は、呼吸・循環系の機能が発達する時期であるため、マラソンなどの持続性トレーニング を取り入れるのが良い。 ・骨が急成長することに対して筋肉の発育が遅れがちとなり、いわゆる体が硬い状態となり、その結果 として障害が起こりやすくなる。成長期に見られる痛みは成長痛だとして簡単に片づける事には大き な危険が潜んでいる。多く見られるのは、筋肉が骨に付く部分の障害である付着部炎、その他、軟骨 障害、剥離骨折など。 ・そのため、成長期には特にストレッチを重点的に行い、個人個人の柔軟性チェックを欠かさないことが 重要である。 ・高校生男子では男性ホルモンが多くなるため筋肉が付きやすく、このころから軽度の筋力トレーニング (レジスタンストレーニング)を開始すると筋線維が太くなり、筋力・筋持久力がつく(ただし、本格的 には骨端線が閉鎖する成人期以降に行うのが望ましい)。 (4)後思春期(18~22歳) ・運動器(骨、筋肉など)の伸長成長はほぼ終了する時期であり、今度はその機能(働き、能力)を発達させ、 成人の体として完成させる時期である。 ・筋肉は、脳や神経系からの命令どおりに動く必要がある。ある時は速く、ある時は長時間、収縮と弛緩 を繰り返し、また、拮抗筋同士はタイミング良く協働しなければならない。 ・この時期にはパワーのトレーニングやパワー持久力のトレーニングを取り入れるのが良い。 (パワーとは筋力×スピードである。高負荷の本格的な筋力トレーニングは成人期以降に行うのが望ま しい。) ・その他、神経系と筋肉との連携をより確実なものにするため、正確な動きや緻密な動きのトレーニング、 読みや駆け引き、戦略などの指導を行うと良い。 2.成人期 ・ヒトの体の成長は20~25歳頃にほぼ完成する。 ・運動能力を決定する筋肉系、呼吸・循環器系(主に肺・心臓)の機能が、この時期に最大になる。 ・ランニングなどを基本にした有酸素運動(全身の持久性トレーニング)を行うことにより、心・肺・筋の 能力を総合的に向上し、最大有酸素能力と最大パワーの両方の増加が見込まれる。 ・目的に応じて、本格的な筋力トレーニングを行うことが可能である。 ・トレーニングによって何がどのように高まるのか? ①より多くの筋線維を動員できるようになり、筋力が増大する。 高負荷のレジスタンストレーニングで達成しやすい。 ②筋肥大が起こるために、筋力が増大する。 中~高負荷のレジスタンストレーニングで達成しやすい。 筋肉が収縮して酸素不足になった時間が多くなると筋肥大しやすい。 (その他、筋肥大を促進する要因:速筋(白筋)線維であること。男性ホルモンの関与。) ③筋肉の収縮速度が向上する。 プライオメトリックトレーニング、およびパワートレーニングで達成しやすい。 神経系と筋肉の協調性が向上する。 ④筋肉の酸素利用能が向上する。 長時間の持続的トレーニングで達成しやすい。 特に遅筋(赤筋)線維において向上する。 ⑤有酸素トレーニング(持久的トレーニング)によって、全身持久力が向上する。 より多くの酸素を使えるようになる(最大酸素摂取量の増加(15~20%増加可能))。 主に、1回心拍出量が増加することによる。 ・障害予防としては(要点のみ) ①運動開始前の準備 治療中の病気や持病の有無、運動の可否、注意点などを確認する。 健康診断結果などでの異常の有無、特に血圧や採血結果などを確認する。 運動量が多い場合、運動負荷心電図などの、より精密なメディカルチェックを行い、適切な運動 プログラムを作成することが重要。 ②運動前の体調確認 当日の体調、血圧はどうか、治療中の疾患があればそれは安定しているか、投薬をしている場合 に内服は忘れていないか等の確認をする。 ウォーミングアップ(準備体操)、ストレッチを必ず行なう。 ③運動中の注意 胸痛や動悸など、いつもと違う症状や疲れがある場合は、すぐに運動を中止する。 運動中は発汗量を見ながら、水分不足にならないように適切な水分摂取(たとえば20分に1回 程度)を行う。 ④運動後の確認 運動を急にやめると心臓へ血液の戻りが悪くなり、不整脈を誘発することがある。 また、血圧が急に低下し、気分が悪くなることがある。 運動終了時には十分にクーリングダウン(整理体操)を行う。 3.老年期 ・老年期のトレーニングにおける注意点は次のとおりである。 a.運動の種類は、一人でマイペースを保ってできるもので、全身を使う運動が良い。(ゲーム形式など の集団で行うスポーツは、どうしても競争が起き、無理をしてしまうため。) b.運動の強度は、最大運動の50%以下で、やや汗ばむ程度の運動強度でよい。 安静時心拍数と予測最大心拍数の中間あたりの心拍数を維持する程度。 予測最大心拍数=220-年齢 (70歳であれば、220-70=150) 安静時が60であれば、(60+150)÷2=105 となる。 c.運動時間は、心肺機能を増すための運動は、最低でも5分以上。 できれば、40~50%強度の運動を30~60分続ける。 d.頻度は、週2~5回が適当。最低週2日は休みを挟むこと。 e.期間は、効果が現れるまでに6~8週間が必要である。 f.高齢者の筋力維持の重要性が指摘されており、無理のない範囲で筋力トレーニングを行うのが良い。 (特に脚力の維持、あるいは向上は重要である。) <関連リンク> ◆老化を遅らせる方法 ◆頭を良くする方法 |