ニューキノロン系


キノロン系(オールドキノロン系、ピリドンカルボン酸系)とは、
 その分子構造中に「キノロン」や「ピリドンカルボン酸」の構造を含む

先ず、「ピリドン」とは?
・ピリドンとは、ピリジンの1位の窒素
 原子がイミノ基 (=N-H) で置換さ
 れ、その他の1ヶ所がカルボニル基
 (=C=O)で置換されたものを指す。
・名称としては、Pyridineと、ケトン
 を表すoneが組み合わされて「ピリ
 ドン」となっている。
・現実的に存在するのは2-ピリドンと
 4-ピリドンであり、3位のものはヒド
 ロキシ基(-O-H)の構造でのみ存
 在する(3-ヒドロキシピリジン)。

ピリジン
(Pyridine)

4-ピリドン
(4-Pyridone)
(γ-Pyridone)
<参考>


2-ピリドン ←→ 2-ヒドロキシピリジン
(2-Pyridone ←→ 2-Hydroxypyridine)
・2-ピリドンや4-ピリドンにおいても、その何割かはエノール形(ヒドロキシ基を持つ形)に相互転換して平衡
 状態を作るため、ピリドンの別名はヒドロキシピリジンとなる。  


では、「ピリドンカルボン酸」とは?
・ピリドンカルボン酸とは、2-ピリドンあるいは4-ピリ
 ドンにカルボキシル基が付加した構造のものを言う。
・ただし、現実的には2-ピリドンにカルボキシル基が
 付いたものは存在し、これはピリドンカルボン酸で
 はなく、6-ヒドロキシニコチン酸と呼ばれる。この
 場合、ニコチン酸にヒドロキシ基が付加したと解釈
 されて、そのように呼ばれる(右図はケト形で表示し
 てある)。
 
「ピリドンカルボン酸」
呼ばれるものの骨格例
<参考>

6-ヒドロキシニコチン酸
6-ヒドロナイアシン
(6-Hydroxyniacin)
・抗菌薬の中で、その分子構造中にピリドンにカルボン酸が付加した構造が見られれば、それが「ピリドンカル
 ボン酸系」と呼ばれてきたわけである。


「キノロン」とは?
・キノロン(Quinolone)とは、
 キノリンの1位の窒素原子
 がイミノ基 (=N-H) で
 置換され、その他の1ヶ所
 がカルボニル基で置換さ
 れたものをいう。
・名称としては、Quinoline
 と、ケトンを表すoneが組
 み合わされて「キノロン」
 となる。
・現実的にはケト形ではな
 くエノール形として命名
 されており、2位が置換
 されているものであれば、
 2-キノリノールと呼ばれ
 ている。

キノリン(quinoline)

4-キノロン(4-quinolone)
〔化学名:1H-Quinolin-4-one〕
←→ 2-キノリノール
(2-Quinolinol)
 <別名>:2-キノロン
  2(1H)-Quinolone
  〔1H-Quinolin-2-one〕
 (上述のピリドンと同じように、ケト形とエノール形が相互転換して平衡状態を作るため、一般的には「キノ
  ロン」ではなくて「キノリノール」と呼ばれている。)
・抗菌薬の中で、その分子構造中にキノロン(一般的には4-キノロン)の構造が見受けられれば、それが「キノ
 ロン系」抗菌薬と呼ばれてきたわけである。


最初のキノロン系抗菌薬はナリジクス酸
 細菌のDNAジャイレースを阻害する

・ナリジクス酸(Nalidixic acid)は、1962年に化学合成された、第1世代
 のキノロン系抗菌薬である。ナリジキシン酸とも呼ばれる。
・DNAジャイレース(DNA gyrase、DNAギラーゼ)を阻害することによっ
 て効果を発揮する。
・DNAジャイレースとは、細菌がDNAの複製や転写を行うときに関わる
 酵素であり、DNAの2本鎖の両方を同時に切断し、末端を回転させて
 再結合する働きをもつ。Ⅲ型トポイソメラーゼとも呼ばれる。
・主にグラム陰性菌に対して効果を発揮し、尿路感染症に対する治療薬
 として用いられてきた。
・比較的早く耐性菌が出現した。

ナリジクス酸(Nalidixic acid)

「キノロンカルボン酸系」とも呼ばれる
・上述のナリジクス酸の分子構造中には、右にも示した「キノロンカルボン酸」
 の構造が見える。
・キノロンカルボン酸とは、基本的には抗菌薬の分野で用いられる名称であり、
 4-キノロンの3位にカルボキシル基があることがDNAジャイレース阻害活性
 に重要であると言われている。


 
 「キノロンカルボン酸」
の基本的な構造
◆ ニューキノロンの登場 ◆
 代表的な2種類 : シプロフロキサシンとレボフロキサシンの紹介

シプロフロキサシン(Ciprofloxacin、CPFX)
・1987年発売。
・商品例:シプロフロキサン(バイエル)など。
・特徴はレボフロキサシンに似るが、緑膿菌などのグラム陰性の
 好気性菌にはシプロフロキサシン、一方、肺炎レンサ球菌(肺
 炎球菌)などのグラム陽性の通性嫌気性菌にはレボフロキサシ
 ンのほうが活性が強いとされる。
 (ちなみに、肺炎レンサ球菌に対する第一選択薬としては、抗
 菌スペクトラムの狭いペニシリン系が薦められている。)
・1日2回投与が原則(1回400~500mg を2回)
レボフロキサシン(Levofloxacin、LVFX)
・1993年発売。
・商品例:クラビット(第一三共)など。
・抗菌スペクトラムが広く(それまでニューキノロン系の弱点とされ
 ていた嫌気性菌や、マイコプラズマ、クラミジアに対しても抗菌
 活性を持ち)、副作用も少ないために頻用されている。
・濃度依存性であって半減期は比較的長いため(およそ6~7時
 間)、1日1回投与が可能(1回200~500mg)。
・光学異性体であるオフロキサシンのL体である。


これら「ニューキノロン」は「フルオロキノロン」の誘導体
 広い抗菌スペクトラム、良好な組織移行性、低副作用

・ニューキノロンと呼ばれる抗菌薬は、6
 位にフッ素原子を有する。
・薬品名の語尾に「-floxacin」 を付ける。
・多種類開発され続けているニューキノ
 ロン系抗菌薬の基本骨格は右図のよう
 である。
・旧キノロン系の弱点が改良されニュー
 キノロン系は、一般に広い抗菌スペク
 トラムを有し、吸収率や組織移行性も
 非常に良く、副作用も少ないため、現
 代において頻用されている。

ニューキノロン系の基本骨格

「フルオロキノロン」
の構造
・結核菌やサルモネラなどの細胞内寄生菌や、マイコプラズマ、クラミジアにも効果を示す。
・ただし、一般には小児や妊婦で使用は禁忌となっている。


いつまでも「ニュー」ではいられない。耐性菌も・・・
・年月を経るごとに「ニュー」で
 はなくなるため、単に「キノロ
 ン系」と呼んだり、「フルオロ
 キノロン系」などと呼ばれるこ
 ともある。
・耐性菌の出現はやはり問題にな
 ってきている。(耐性獲得の
 メカニズムは、トポイソメラー
 ゼ遺伝子の変異や、キノロン薬
 を細胞外へ汲み出す能力向上な
 どによるものとされる。)

第一三共(株)のレボフロキサシン錠

「クラビット」

<関連リンク>
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2012年7月作成  2024年1月最終更新   stnv基礎医学研究室・清水隆文