磁気ネックレスの生理的効果はどれぐらいなのか

磁気ネックレスの生理的効果はどれぐらいなのか

 先に静電場の話をしましたが(『静電場を細かく変化させて体内の水分子を揺らせる』)、今度は静磁場の話に移ろうと思います。なお、静磁場の「静」の意味は、「動いていない」ということで、これは「周期的に方向が反転しない」ということでもあります。また、「磁場」と同義語になるのが「磁界」なのですが、これは電場と電界の関係と同様に、前者が物理学系、後者が工学系で主に使われる語で、意味は全く同じです。

 静磁場の身近な例は、地磁気(地球の磁場)です。方位磁針(コンパス)にて北や南などの方角を調べることができる理由になっているもので、北極付近がN極であり、南極付近がS極です。その強さは掲載した図(高画質PDFはこちら)の左端に示されていますように、平均的には30マイクロテスラ(μT)ですが、地域差があって、強い場合は60μT程度が測定されるようです。
 なお、磁場の強さを表す単位ですが、T(テスラ)の他にはガウス(G)が用いられます。両者の関係は「1T=10,000G」になっていますので、換算は簡単なのですが、近年はTの方が好んで用いられています。

 静磁場の、もう一つの身近な例は〝磁石〟によって作られるものです。地磁気の場合と同様に、N極とS極が存在します。上述の方位磁針も磁石に相当するわけで、「石」の文字が使われていますが、磁化すれば金属でも磁石だということになります。
 身の周りには磁石が使われている物が沢山ありますが、例えば、ボードに書類などを留めておくマグネット、バッグやケースのボタン類、磁気ネックレス、スピーカーなどがあります。そして今日のテーマにするのが、そのうちの〝磁気ネックレス〟です。以前には絆創膏に磁石を仕組んだ製品もありましたが、最近ではあまり使われなくなりました。
 磁気ネックレスの磁場の強さは〝管理医療機器〟としての基準が設けられていまして、35~200mT(ミリテスラ)の範囲内に入っていなければならないことになっています。

 では、35~200mTが、一体どれだけの強度なのかを実感していただくために、他のものと比較してみましょう。左端の図に、様々なものの磁場(磁界)の強さがμT(マイクロテスラ)の単位にて表示されていますので、mT(ミリテスラ)に換算して見てみましょう。非常に強いものの代表として、医療現場で使われるMRI装置が挙げられていますが、これは500~2,500mTとなっています。因みにこれは、検査される患者さんが暴露する磁場の強さになります。
 この数値から見ると、磁気ネックレスの最も強力なものの数倍~10倍程度だということになりますが、MRIの場合は広範囲に暴露することになりますので、肌に着ける磁気ネックレスとは影響力が格段に違ってくることになります。

 他の例として、ヘアドライヤー、掃除機、送電線などの家電や電気設備が挙げられています。これらが発生している磁場の強さは桁違いに小さい(弱い)もので、μTの単位であっても非常に小さな数値になっています。ただ、これらが問題となる場合は〝動磁場〟だという点です。即ち、静磁場とは異なった影響を及ぼす可能性があるということなのですが、今日はその話については割愛します。強さのみを見て頂くと、磁気ネックレスなどの磁石に比べて極めて弱い磁場しか生じていないということです。

 では、磁気ネックレスが用いている磁石と、一般的な磁石との比較をしてみますと、右上の図に平均的な磁石の磁場の強さと、それぞれの場合の磁石からの距離が示されています。磁石(マグネット)の表面で400mT 、表面から15mm(1センチ5ミリ)離れたところで200mTとなっています。これは、磁気ネックレスで用いる磁石としては強すぎて、基準をクリアできない強度だということになります。
 なお、サイズが小さな磁石ほど、距離が離れると極端に磁場が弱くなっていきますので(逆の場合は地磁気)、磁気ネックレスで用いられる磁石は、それを装着して皮下に向かう距離が少し離れるだけで、極端に磁場が弱くなることを意味しています。これは、例えば磁気ネックレスが壊れて、その一片を幼児が飲み込んだとしても、消化管内での悪影響が最小限になるように弱めの基準になっているということです。

 それでは、全体として比較的弱い磁場しか形成できない磁気ネックレスが、生理的にヒトに何らかの影響を及ぼすことが出来るのか否かについて見ていきましょう。
 Web検索していただければ判りますように、磁気ネックレスの生理的効果については、客観性の高い学術論文は見当たりません。むしろ、「管理医療機器」というのは不正使用などがあった時に悪影響が出難いレベルに留めておく「クラスⅡ」に設定されていますので、磁場の強さをあまり高めることが出来ないわけです。
 従いまして、例えば、磁気ネックレスを装着した場合と装着していない場合とで当該部位の血流量を測定しても、有意な結果は得られないのです。そのため、研究者は論文にならないであろうから実験もしないわけです。ただ、これで終わってしまったら、私がこの記事を書くメリットは何もありませんので、計測できないほどの生理的効果について言及することにします。

 掲載した図の右下に幾つかの図を載せましたが、これは、磁場が存在しているところに電荷を持った粒子が侵入した場合の、粒子の挙動について説明するものです。電荷を持った粒子というのは、体内では種々の電解質の陽イオンや陰イオンが在ったり、電離したアミノ酸や脂肪酸が在ったりしますので、非常に高濃度に荷電粒子が存在している状態です。そして、磁気ネックレスによって作られた磁場の存在するところに荷電粒子が侵入して進むと、その粒子に〝ローレンツ力〟が生じることになります。例えば、血液が磁場の方向と少しでもズレた方向に流れると、それに含まれている荷電粒子はローレンツ力によって進路を変えられることになります。そして、多くの場合は荷電粒子が螺旋(らせん)運動をすることになると考えられます。
 血中の荷電粒子がそのような運動をしている場合、体表から何らかの変化を検出できるかと言えば、多くの場合は検出器の誤差範囲、またはノイズ成分としてしか現れないと思われます。しかし実際には、磁場の中を荷電粒子が動くわけですから、ローレンツ力によって上述のような現象が起こるわけです。そしてそれが、磁気ネックレスが与えるであろう生理的効果だと言えるわけです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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