年齢が進むと共に増えてくる健康トラブルとして、膝関節の痛みを挙げることが出来ます。性別としましては、どちらかと言えば女性のほうに多く見られます。その場合、医療機関に出向くと対症療法が施されることになります。例えば、抗炎症剤が適用されたり、物理療法として温熱・電気・超音波などによって刺激を与えられたりします。症状が進行している場合は、ヒアルロン酸などの潤滑剤となるものが注入されたり、関節液が多量に貯留している場合は抜かれたりします。更に重症の場合は、人工的な関節が埋め込まれたりすることになります。しかしこれらは、あくまで対症療法であって、根本的な問題を解決することにはなりません。その後の予防策として、運動指導が行われたり、日常動作の注意点が指導されたり、体重過多の場合は減量を勧められることもあるでしょう。しかし、これらも、関節で起こっている現象に対して直接的にアプローチするものではありません。では、関節で一体何が起こっているのでしょうか…?
膝に荷重が掛かり、その状態で膝の曲げ伸ばしをすると、関節腔に関節液があるとはいえ、これは液体ですから周囲に逃げてしまい、どうしても軟骨同士が摩擦し合うことになります。そもそも、このような関節の構造を持つ動物が、全荷重(体重+衝撃)を1本の脚で受け止めることなど、生物進化からすれば想定外だったはずです。大抵の人は直立二足歩行ですから、着地時には体重の何倍もの荷重が片方の脚の膝関節に加わることになり、軟骨が潰れたり擦り減ったりしないことの方が不思議です。
年齢が比較的若い頃は、軟骨が摩耗した分だけ軟骨細胞が軟骨成分を作り出し、修復を繰り返してくれています。そのような働き者の軟骨細胞には大いに感謝すべきでしょう。しかし、軟骨細胞への労り(いたわり)が少なくなり、栄養的にも満足させてあげられない状況になってくると、軟骨細胞の健全性が損なわれてきます。そして、変形性膝関節症などにまで進行してしまった場合、軟骨の修復は殆ど行われておらず、軟骨細胞も殆ど居なくなってしまっている状況となります。
軟骨細胞が居なくなる理由は、死滅したということなのですが、その死滅はむしろ〝積極的な細胞死(アポトーシス)〟であるとの見解が、世界有数の研究機関において優勢になってきました。そして、アポトーシスしてしまう最大の理由が、オートファジー機能の低下であるとの見解が強まってきています。オートファジーとは、細胞内で古くなったタンパク質を一度分解してアミノ酸にまでするリサイクルシステムなのですが、このシステムが働き難くなると、軟骨細胞は積極的に自滅の道を歩むようになってしまう…、ということです。
そこで、基本的には高い健康効果と低い副作用リスクを兼ね備えた天然物質の中から、軟骨細胞のオートファジーを活性化する物質の探索研究が広く行われてきています。その中で、現在において有効性の高いものが、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右側に示されている各種のファイトケミカルです。因みに、現在の医薬品は、元はと言えばファイトケミカルであったものが圧倒的多数であって、その分子構造を人工的に改変したために特定の効果は高まったけれども、思いがけない副作用も生じるようになってしまった、というものです。そのため「リスク・ベネフィット」という天秤上でしか語れない存在になっています。従いまして、ファイトケミカルの多くはベネフィットが有ってリスクは無いに等しい、という優れものですし、その効果については侮(あなど)るべからずです。
図には、オートファジーを促進させる効果を示す各種のファイトケミカルの作用機序が描かれています。これらの多くは、膝の痛みや変形性膝関節症に対して、実際に効果を示すことが従来から確認されているものばかりです。そして、その機序としてオートファジーに着目して実験をしてみると、やはりオートファジー機能を高めることが明らかであり、その作用機序の詳細が調べられた結果、図に示されている各種の経路にそれぞれ影響を与えている、ということです。
そこで、特にお勧めの3品を選んでみましたので、簡単に紹介しておきます。最も有効性の高そうなのは、他の研究結果も含めて総合的に判断すると、先ずは〝クルクミン〟です。これは、他の記事(『クルクミンから生じるテトラヒドロクルクミンの抗がん作用』)でも紹介しましたように、ウコンの根茎に含まれている成分です。膝の痛みを直ぐに解消したいという場合には、含有量を高めたサプリメントが各社から製品化されていますので、それを摂取していただくのが効果的であると思われます。
2つ目はヒドロキシチロソールですが、これはオリーブの葉や果実に含まれている成分です。同様に、高濃度に含まれるサプリメントが各社から製品化されてますので、それを摂取していただくのが効果的であると思われます。なお、オリーブ油は、オリーブの果実から油分を採り出したものですので、ヒドロキシチロソールの含有量は少ないうえに油が主体ですから、対象外だとお考えください。
3つ目はレスベラトロールですが、これは特に赤色のブドウ果実の果皮に多く含まれている成分です。同様に、高濃度に含まれるサプリメントが各社から製品化されてますので、それを摂取していただくのが効果的であると思われます。なお、赤ワインにも含まれていますが、アルコールや他の諸々の成分のほうが多いですから、対象外だとお考えください。
3つとも摂る必要は無いと言えますが、それぞれ作用機序が異なっていて相乗効果も期待できますので、日を変えて1種類ずつを摂取するなどの摂取方法が良いのかもしれません。症状に合わせてお選びいただければ良いのではないかと思います。
また、関節軟骨が擦り減り、軟骨細胞の数が減ってからでは苦戦を要するでしょうから、平素から関節軟骨の過酷さを想像し、労りながら、オートファジーが活性化されるようにファイトケミカル類の摂取を心掛けていただければと思います。