老眼を改善する方法

 前回のお話は、近視に関することでしたが、今回は老視(一般に言われる「老眼」)について見てみることにしましょう。老視になる大きな原因を2つ挙げるならば次の2つだと考えられます。
 1つ目は、レンズの役割を果たしている水晶体が、老化によって弾力性を失って硬くなっていくことです。
 2つ目は、近距離に焦点を合わせるときに水晶体を分厚くする筋肉(毛様体筋)の収縮力が、老化によって弱まることです。
 この2つを解決することが出来れば、老視を予防したり、改善させたりすることが可能になります。

 先ずは、1つ目の水晶体の弾力性について、少し具体的に見ていくことにしましょう。なぜ、水晶体が老化によって硬くなっていくのでしょうか…? 水晶体を作っている物質はクリスタリンというタンパク質で(細かく分類すれば更に3種類に分けられるようですが…)、それ以外の殆どは水です。そして、水晶体が硬くなっていく最大の原因は、クリスタリンというタンパク質の変性(劣化)です。
 では、生体は、クリスタリンの変性を防ぐ手立てを持っていないのか?と思われるところでしょうが、手立てはしっかりと用意されていて、それは、クリスタリンの3種類のうちのα-クリスタリンが、他の種類のクリスタリンが変性した場合に元に戻す役割(いわゆる「分子シャペロン」の役割)を担っていることが分かっています。そのため、老視が進行する場合、分子シャペロンの働きが弱まっている、ということになります。
 もう一つ生じるであろう疑問は、水晶体のタンパク質は新しいものに入れ替わっていかないのか…?ということでしょう。これは悲しいことに、赤ちゃんの頃に作られたクリスタリンを生涯使い続けるようにプログラムされています。もちろん、放っておけば、紫外線や活性酸素種によってクリスタリンが、どんどん変性していきます。それを防ぐ唯一と言ってよい機能が、上述の分子シャペロンの機能です。ただ、その機能を担うα-クリスタリンそのものが変性してしまえば、修復機能を完全に失ってしまうことになります。
 では、どうすればよいのか…? 予防法の1つ目としては、水晶体に紫外線が入射しないように、出来る限り防御することです。日中に戸外に出る場合は、UVカット機能の優れたメガネを装着することが有効となります。
 2つ目は、掲載した図に描かれていますように、水晶体の硬化を防ぐ物質を意欲的に摂取することです。この図にはレスベラトロールが挙げられていますが、他にも、ルテイン、アスタキサンチン、ビタミンC、ビタミンE、ケルセチン、カテキン、その他各種のポリフェノールなど、基本的にはラジカルスカベンジャー(活性酸素種を処分することが出来る物質)が有効となります(なお、今回はそれらの物質の詳細は割愛します)。

 次に、2つ目の、毛様体筋の収縮力低下について、少し具体的に見ていくことにしましょう。私たちの体の筋肉は、それが骨格筋の主要素である横紋筋であろうと、各種の内臓に仕組まれている平滑筋であろうと、放っておけば、筋力のピークは20歳前後に迎えることになります。その後は、放っておけば、加齢とともにどんどんと低下していくことになります。水晶体の厚みを変化させる原動力は毛様体筋であり、近くを見るために水晶体の厚みを増すときに毛様体筋が収縮することになります。収縮力が足りなくて、硬化し始めた水晶体を厚くさせることが出来なくなれば、近くに焦点を合わせることが不可能になり、老視となります。
 では、どうすればよいのか…? 硬くなって分厚くなり難くなった水晶体を、力づくで分厚くしてやればよいのです。即ち、毛様体筋を若い頃以上に強くすれば、ある程度は解決できる問題だということになります。
 筋肉は、通常よりも大きな負荷をかをかけると、それに見合うように変化するようにプログラムされています。要するに、骨格筋を鍛えるのと同様、筋トレをしてプロテインを摂取すればよいのです。なお、毛様体筋を鍛え過ぎたせいで目が壊れることはありません。毛様体筋と水晶体の間にはチン小帯という組織が仲介していますので、毛様体筋の筋力が必要以上に強くなって強烈に収縮したとしても、チン小帯がゆるゆるの状態になるだけであり、それ以上に水晶体を周囲から押しつぶしてしまうことはありませんの心配ご無用です。
 毛様体筋のトレーニングは、骨格筋のトレーニングと同様、負荷をかけながら収縮と弛緩を繰り返せば結構です。負荷のかけ方は、重りを持たせるわけにはいきませんから、急激な収縮と弛緩を繰り返すことで負荷を与えるようにすれば、目的を達成することが出来ます。因みに、近年は、何かにつけて体をいたわることが大切である旨の情報提供が為されます。「無理しない」、「負担をかけない」、「疲れさせない」などなどです。その結果、廃用性退化を余儀なくされるわけです。便利で楽な世の中が、このことを正当化させているのかもしれませんが、真実は逆です!
 毛様体筋の筋トレは、遠くを眺めていて、次の瞬間に目の前5センチ~10センチ先のものを見ます。その時、目が軽く締め付けられるような感覚を抱くことになると思いますが、そこまで負荷をかけてこそ筋トレになります。また次の瞬間、遠くのものを見て毛様体筋を弛緩させてやります。これを交互に行うわけですが、その間隔が狭いほど、筋トレ効果が高まることになります。
 なお、このようなトレーニングは、近視の改善にも有効となりますので、結果として遠くから近くまで、一瞬にして焦点を合わせることが出来る強力な目を手に入れることが可能になります。余談ですが、私の場合、65歳を超えましたが、老眼とは縁の無い目を維持することが出来ています。筋肉は鍛えれば強くなる!

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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