認知機能低下は脳の糖尿病…、では対策は?

アルツハイマー型認知症は脳の糖尿病である

 今日は、認知機能低下の原因と対策について、世間一般では殆ど言及されていない核心部分について見ていきたいと思います。なお、認知機能の低下は、若年者にもありがちな思考力低下や、認知症の筆頭に挙げられているアルツハイマー型認知症も含みます。

 最初に結論を述べておきますと、掲載した図(高画質PDFはこちら)にも示されているように、脳内のニューロン(神経細胞)も自らインスリンを分泌しており、その分泌量や分泌能が、全身的な血中のインスリン濃度、及びその原因となる血糖値に影響されることです。従いまして、例えば、血糖値スパイクと呼ばれる急激な血糖値上昇を繰り返すような食生活をしていると、子どもでも認知機能低下が生じ、中高年では記憶力低下なども顕在化し、進行すればニューロンの死滅が加速されてアルツハイマー型認知症と呼ばれる状態に陥ってしまう、ということです。

 では、もう少しだけ詳しく見ていくことにしましょう。そもそも私たちの祖先は狩猟採集生活をしていましたので、他の野生動物と同様に、一度に多量の単糖類を摂取することはありませんでした。比較的糖分の多い果物を食べたとしても、野生の果物の糖濃度は低く、あまり美味しいものではなかったので、一度に多量を食べることはありませんでした。そして、そのような食生活を前提として、脳を含めた体の全ての機能が作り上げられました。要するに、一度に多量の単糖類を摂取することは、まさしく想定外だったということです。

 それ故に、まだ糖尿病になっていない、いわゆる健常者が、多量の単糖類を含む飲料を飲み、消化が良くてすぐにブドウ糖に変換されてしまう食品を一度に多く食べると、すぐに血糖値がスパイク状に上昇します。すると、膵臓から多量のインスリンが分泌され、血中を巡って脳内にも到達し、ニューロンを養っているアストロサイトが、そのインスリンを取り込んでニューロンの周囲に届けます。するとニューロンは、インスリン過多を避けるために自らのインスリン合成量を減らします。それでもインスリン濃度が正常範囲にまで下がらない場合、やがてニューロンにもインスリン抵抗性が生じることになります。
また、その過程において、アストロサイトは高濃度のインスリンを分解するためにインスリン分解酵素を高発現し、インスリンの分解・処理に力を注ぎます。そしてこれも重要なことなのですが、インスリン分解酵素はアミロイドβの分解をも担当していることです。結局、血液から流れ込んできた多量のインスリンを分解することに掛かりっきりになり、アミロイドβの分解・処理に力を割けなくなるのです。その結果、アミロイドβが脳内に蓄積してしまうことになります。

 また、次のような変化も生じます。それは、ニューロンがインスリン合成量を低下させる状態が継続すると、ニューロンは廃用性退化として、インスリン合成に関わる遺伝子群を封印してしまいます。そうなると、膵臓から分泌された血中のインスリンが低濃度になった場合であってもニューロンのインスリン分泌が高まらなくなります。インスリン不足になったニューロンは、エネルギー源としているブドウ糖を上手く取り込めなくなり、脳機能全体として低下することになります。
 例えば、子どもの場合には次のようなことが起こります。頻繁に甘いお菓子を食べることが習慣になってインスリン抵抗性を生じてしまうと、空腹時にはエネルギー源であるブドウ糖の必要量を満足に取り込めないため、頭がぼーっとして働かなくなります。これは、ブドウ糖依存症の状態でもあります。海馬のニューロンはエネルギー不足の影響を特に受けやすいため、記憶力低下も顕著になります。
 中高年の方では、まだ糖尿病にはなっていないが、ニューロンにインスリン抵抗性が生じてしまうと、血中インスリン濃度が高まった場合でもニューロンはインスリン不足の状態が続き、エネルギー源であるブドウ糖を満足に利用することができなくなります。その結果、ニューロンの委縮が進むとともに、やがてニューロンの死滅速度が速まってアルツハイマー型認知症を患うことになります。因みに、アミロイドβやタウの蓄積は、アルツハイマー型認知症の原因ではなく結果の一部を見ているに過ぎません。
 既に糖尿病を患ってしまった人の場合は、その前段階としてニューロンのインスリン合成能低下やインスリン抵抗性が生じてしまっていますので、ニューロンの死滅速度が速まったままになり、特に敏感な海馬を中心に、脳全体の萎縮が急速に進むことになります。

 対策や予防として、どのような食生活をすれば良いのか、どのような栄養成分を増量すれば良いのかなどについては、追々ご紹介することになると思います。今日のところは、ニューロンにインスリン抵抗性を生じさせないこと、そして、ニューロンのインスリン分泌能を低下させないこと、そのためには、血糖値スパイクを生じさせるような食習慣を断ち切ることが大切だ、ということで、お話を終えておきます。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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