胃がんを防ぐための基本的な心構え

胃がんを防ぐための基本的な心構え

 今回は、胃がんへと話を進めて行こうと思います。先ずは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左端に示しました、死亡者数(人口10万人当たり)の経年変化を見てみることにしましょう。
 他部位のがんと比較すると、非常に特徴的な推移になっています。即ち、1960年代や1970年代では、群を抜いて死亡者数の多いがんでしたが、現代に向けて比較的順調に低下してきています。そして現代では、男性では肺がん、大腸がんに次いで第3位、女性では大腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がんに次いで第5位となっています。また、性別で比較してみると、男性に多い、がんだということが分かります。ただ、比較的若い女性がスキルス胃がんで亡くなった…、という事例もありますので、誰もが安心してはいられないというのが現実でしょう。

 では、胃がんのリスク要因について見ていくことにします。掲載した図の中央付近にまとめておいたのですが、最大の要因は〝ピロリ菌感染〟です。上述しましたように、1960年代から現代に向けて胃がんによる死亡者が減ってきているのは、ピロリ菌の感染者の割合が減ってきたことが最大の理由です。
 このことを示すグラフを、掲載した図の下段右寄りに挙げておきました。縦軸はパーセンテージで、横軸は年齢です。そして、赤色の線は1950年におけるピロリ菌感染者の割合(推定)を示しています。0歳では感染者はほぼ0なのですが、年齢が進むにつれて感染者の割合が増えていき、20歳にもなれば約8割の人がピロリ菌感染者となっていました。
 では、2010年の場合を見てみましょう。同じく0歳では感染者はほぼ0なのですが、年齢が進むにつれて感染者の割合が増えていくことは同様です。しかし、20歳では約2割の人しか感染しておらず、40歳では約3割の人が感染しているに過ぎませんでした。ただ、60歳にもなると、約8割の人が感染している状態でした。
 これから言えることは、ピロリ菌は日常生活において感染が広がっていくのですが、現代は昔に比べて感染が広がり難い状態になってきているということです。一言で言えば、環境や生活習慣が、より衛生的になった、ということでしょう。この調子で行くと、2030年になれば、60歳になった人でも、約4割の人だけがピロリ菌に感染しているという状態になると予想されています。
 裏を返せば、2030年に60歳の人の約4割は、比較的高い胃がんのリスクを背負って生きることになるわけです。

 では、ピロリ菌が胃に感染すると、なぜ胃がんに罹るリスクが高まるのか、という理由についてですが、これには非常に多くの機序が存在していることが確認されています。その一例を示したのが右上の図で、その説明文を下部に挙げておきましたが、あまり詳細な部分まで見て頂く必要はありません。ここでは、ピロリ菌感染が胃がんの大きな要因になっていることは間違いのないことだ、ということを確認していただくだけで結構です。

 もう一つデータを示しておきますが、胃がんの患者さんを調べると、その98%がピロリ菌感染者であることが分かっています。ただ、この話を聞いて「ピロリ菌感染=胃がんになる」というふうには捉えないでください。例えば、胃がんの患者さんを調べると、その98%が頭に毛が生えていたとします。しかし、胃がんの原因が頭の毛であるとは言えないことと同じです。
 現代において80歳を過ぎている人であれば、およそ8割はピロリ菌感染者なのですから、そのなかで胃がんに罹っている人は、そのうちの何パーセントかに過ぎません。2020年の統計では、一生のうちに胃がんと診断される確率は、男性では約11人に1人(11%)、女性では約24人に1人(約4%)と推定されています。ということは、男性の89%、女性の96%は高齢になっても胃がんと診断されません。もちろん、その中にはピロリ菌感染者もいるわけですから、大丈夫な人は大丈夫だということです。

 それならば、ピロリ菌感染だけでなく、他にも胃がんリスクを高める要因があって、そのような複数の要因が重なることによって、発がんリスクが一層高まるのだと考えられます。
 「胃がんのリスクを高める要因」の2つ目に挙げたのが〝塩分〟です。この件につきましては、これまでに多くの研究結果が報告されていて、今回はそれらのデータを割愛させていただきますが、ピロリ菌による胃粘膜の傷害部分に濃い塩分が降り掛かることによって、あたかもナメクジに塩を掛けたような様相になると思っていただけば結構でしょう。

 更に、3つ目に挙げたのは〝アルコール〟です。特に濃度の高いアルコールが、ピロリ菌によって傷害を受けている粘膜上皮細胞に降り掛かることによって起こる現象を想像していただけば結構でしょう。昔のお父さんが、胃にピロリ菌がいるにも拘わらず、イカの塩辛などを酒の肴にして焼酎を浴びるほど飲む…という行為は、まさしく胃がんを誘う行為だったと言えるでしょう。美味そうですが…。

 それでも、そのような行為を毎日のように繰り返さなければ、胃壁が激しく炎症を起こすことを避けられるかも知れません。しかし、毎日繰り返せば、修復が間に合わなくなって激しい炎症を起こすことになります。慢性的な炎症は、色々な部位における発がんの大きな原因ですから、この〝炎症〟を4つ目の要因として挙げておきました。
 併せて、〝過剰なストレス〟は胃粘膜の保護機能を低下させますから、胃潰瘍などに発展して発がんリスクをも高めることになります。

 他にも、胃がんのリスクを高める要因があるのですが、避けられないものもあります。例えば、遺伝的に受け継いでしまった〝病的バリアント(遺伝子の配列の違いのうち、病気の発症に関わる可能性が高いもの)〟、或いは〝EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)の感染〟、或いは〝加齢〟などです。
 これらは発がんリスクを高めることになりますが、その分、他の方法にて発がんリスクを下げるように努めるしかないということです。

 では、〝胃がんを防ぐための基本的な心構え〟について、まとめておくことにします。掲載した図の右下に書いておいたのですが、一言で言えば、「胃がんのリスクを高める要因」を解消することです。
 即ち、1つは、ピロリ菌が居るのであれば、それを除菌することです。ただ、それに伴うデメリットもありますので、ピロリ菌とうまく共生できているようであれば、強引に除菌しないほうが正解である場合があります。その場合、次のようなファイトケミカルで、ピロリ菌の活動を抑制することが可能です。それは、スルフォラファン(ブロッコリーなど)、ケルセチン(タマネギや緑茶など)、エラグ酸(イチゴやザクロなど)、アリシン(ニンニク)、イソチオシアネート(ワサビ、ダイコンなどのアブラナ科)、ジンゲロール(ショウガ)、クルクミン(ウコン)、EGCG(緑茶)、ケンフェロール(アブラナ科、その他多くの植物)などです。このブログでも、これまでに採り上げたものが多いです。
 2つ目は、塩分を控えめにすることです。3つ目は、アルコールを飲み過ぎないことです。4つ目は、炎症を起こさないようにすると共に、過剰なストレスを避けることです。
 以上、これらを実践して、胃がんリスクを出来る限り低下させましょう。

 
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執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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