寒い時期には、温かい粕汁や甘酒などは如何でしょうか!? 「粕(かす)」というのは「酒の粕」のことで、一般的には「酒粕(さけかす)」と呼ばれています。昔に比べると、酒粕の消費量も生産量も低下してきているようで、特に若い世代では、食べたことも(飲んだことも)無いという人が居そうな気がします。
〝カス〟ですから、やっぱりカスなのかと思いきや、まさしく〝スーパーフード〟なのです。その最大の理由は、2種類の微生物による共同加工(併行複発酵)が効いているからです。
そもそも酒粕とは、日本酒を造る際に副産物として生じるものです。その製造工程をごく簡単に示した図を、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左端に引用しましたので、ごく簡単に見てみましょう。
日本酒の製造工程は非常に複雑で、更には作り手によって微妙に変えられていたリ、秘伝として企業秘密にされている部分もあって、この図はあくまでも概略になります。
先ず、玄米は精米されて白米にされます。この時点で、本来の目的である〝酒〟を得るために必要な〝デンプン〟だけが残されることになります。因みに、主食として各種の栄養素を得る目的の場合は、精米してしまうと、それこそ「米+白」=「粕」(カス)だけを食べることになります。ただ、先にupしました『米に含まれるレジスタントプロテインの役割』で述べましたように、白米の主体である胚乳に含まれる機能性成分も、探せば微量に在るということになります。
次に、白米を蒸し、その一部には麹菌(生物学的には「ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)」)を混ぜて〝米麹〟を作ります。また、その何割かには酵母(生物学的には「出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)」)と乳酸を混ぜて〝酒母〟を作ります。その後、残りの〝蒸米〟と〝米麹〟と〝酒母〟を混ぜて〝醪(もろみ)〟とし、この状態で発酵させることになります。
さて、この発酵段階で、〝カス〟であった白米が、魔法をかけられたようにどんどんと価値の高いものに変化していきます。因みに醸造における主目的は、白米中のデンプンを麹菌がブドウ糖に変換してくれて、そのブドウ糖を酵母がアルコールへと変換してくれることです。そして、そのアルコールを求めて「酒飲みの人」が日本酒を買ってくれることです。しかし、本当は、もっと大切なことが起きます。それは次のことです。
胚乳中に含まれるレジスタントプロテインの生理的効果は既に述べたところですが、このうちの特にプロラミンというタンパク質は、プロテインボディ-タイプⅠ(PB-Ⅰ)という小胞の中に詰められて、プロラミンの集塊を作っています。ヒトのタンパク質分解酵素でも消化/分解できないですし、ヒトの腸内細菌群でも消化/分解できないですし、この麹菌が放出するタンパク質分解酵素でも消化/分解できないようです。なお、共存する酵母においても同様です。そのため、プロラミンは最後まで溶けることなく、最終的に酒粕の方に行ってしまうことになります。言い換えれば、プロラミンは酒粕中に濃縮されていることになるわけです。
醪の発酵が終わると〝しぼり〟が行われることになり、液体と固形物が大雑把に分けられます。液体の方は〝原酒〟となり、その後にも様々な処理が行われて最終的に〝清酒(日本酒)〟が得られることになります。
一方の固形物は〝酒粕〟として様々に有効利用されています。商品として売られている酒粕は、そのうちの何割かに相当するのですが、近年においては醸造の効率化として、酒粕が少なくなるように醸造する工夫がされる場合が増えているそうです。スーパーなどで酒粕の占める売り場面積が少なくなってきたのは、その影響もあるようです。
上記は米由来成分のお話でしたが、今度は麹菌や酵母に由来する成分のお話です。巷では〝発酵食品〟の健康効果が広く言われていますが、少々横道に逸れている感じがします。それは、ヨーグルトをはじめとした乳業関連企業が、牛乳を餌にして増殖する細菌を有効利用できないか、更にはそれで儲けられないか…と非常に熱心です。そのお陰で、日本古来の発酵微生物がマスメディアに登場し難くなったのです。そして、麹菌や酵母は、非常に肩身の狭い思いをすることになりました。
キノコの健康効果や紅麹の健康効果と同様に、麹菌の細胞壁を構成するキチンやグルカンと総称される多糖類は、優れた健康効果を発揮します。また、植物にも多い機能性物質として比較的有名になっているグルコシルセラミドも、麹菌に多い成分の一つです。
また、ビール酵母を集めて乾燥させて錠剤化した商品が昔からありますが、特に消化関連機能を改善するという謳い文句で市販されています。清酒の酵母も同様であって、その細胞壁成分であるグルカンやマンナンに多くの健康効果が認められます。
その他、酵母菌そのものが生きるために生み出す様々な代謝産物、ビタミン類、タンパク質なども、酵母の中に閉じ込められたまま、固形物として酒粕の方に入ります。即ち、酒粕の中には、麹菌や酵母そのものが多量に入っているわけで、これを食べたり飲んだりすることは、まさしく発酵食品を食べることになります。
因みに、図の右下に挙げました、麹菌と酵母によって作り出される「各種の微生物由来成分の生理的効果」を、ここにも羅列しておきます。それは、NK細胞活性化、免疫機能の正常化、抗炎症、解毒、肝機能障害予防、腸内pH低下、便通改善、抗がん、脂質代謝改善、血圧降下、美白・美容、気分改善、抗老化、などです。そして、これに、レジスタントプロテイン(プロラミン)の効果が加わるわけですから、これこそが、日本が生み出した〝スーパーフード〟ですし、「粕にこそ真の価値がある」と言えるでしょう。
酒粕で作る甘酒、具沢山の粕汁、鮭の粕煮などは、寒い季節には特に美味しいでしょうから、ぜひお楽しみください。