牛乳などの乳糖を含むものを飲んだ時にお腹を壊す人は、「あなたは乳糖不耐症だ」と言われます。「症」という語は、病気の性質や症状を指すものですが、医療業界では疾患名の語尾として使われることが多いです。従いまして、牛乳を飲んだ時にお腹を壊す人は、乳糖不耐症という〝病気〟だというわけです。
「…なんて酷いことを。。これって、本当に病気なのですか?」
牛を飼って乳を搾ったり、製品としての牛乳を製造したり売ったりしている人とっては、牛乳を飲めて当たり前だという風潮を作りたいはずです。そして、牛乳を飲んだ時にお腹を壊す人がいることについては、それは例外的な人なのであり、病気なのだから、飲めることが即ち健康なのだと言いたいのは当然でしょう。だからこそ、「乳糖不耐症」という言い方が幅を利かせたままになっているのだと考えられます。では、本当のところはどうなのか…、という点について迫っていきたいと思います。
そもそも〝乳糖(ラクトース、Lactose)〟というのは哺乳類の乳汁に含まれている二糖類で、甘さとしてはショ糖の0.4倍だとされています。これが分解(加水分解)されると、グルコースとガラクトースが生じてきます。そして、その分解を担当する消化酵素は、小腸上皮細胞から分泌されるラクターゼであり、生化学的にはβ-ガラクトシダーゼの一種だということになります。
乳糖不耐症と言われるものは、乳糖を分解するラクターゼが分泌されないことが最大の原因になっています。もちろん、乳児の頃には誰もがラクターゼを分泌できるのですが、離乳期になると、ラクターゼに代わってアミラーゼ、マルターゼ(α-グルコシダーゼ)、スクラーゼなどの分泌へと切り変わっていき、母乳を卒業して食餌中の炭水化物を分解すできる体へと成長していくことになります。なお、それを表すイメージ図を、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右上に示しておきました。
生物進化の過程を辿るならば、ヒトの祖先が哺乳類の姿になった頃、現存のヒト以外の哺乳類と同様に、離乳期が過ぎたら母親の乳は飲まなくなったはずです。…というか、赤ちゃんが離乳期を過ぎる頃には母乳も出なくなりますから、飲みたくても飲めませんでした。だからこそ、子どもがいつまでもラクターゼを分泌するのは非効率だということになるわけです。生物は無駄なことはせず、あくまで省エネルギーに徹します。
「ということは、最初に現れたヒト(猿人~原人)は、誰もが今で言う乳糖不耐症だったということですか?」
はい、その通りです。当時から殆ど変わっていないと考えられるのですが、ラクターゼをコードしている遺伝子(ラクターゼ遺伝子;LCT)の発現は、他の遺伝子(の産物)によってコントロールされています。具体的にはMCM6という遺伝子(の産物)で、赤ちゃんが離乳期に差し掛かるとラクターゼ遺伝子の発現に関わる部分に働いて、その発現を徐々に弱めていくのです。そして、数年も経てばラクターゼ遺伝子が殆ど発現しないようにしてしまうのです。
「どの動物も、やがて乳離れしていくわけですから、その方法は理に適っていますよね!」
日本人の多く(7~9割)は、本来のMCM6を持っているわけです。それは即ち、遺伝子変異が起きていない健全な塩基配列のMCM6です。ところが、例えばスウェーデンなどの北欧の人たちの多くは、部分的に変異したMCM6を持っていることが判っています。また、移住と混血が進んで行きますから、アメリカの白人も、その多くが変異したMCM6を持っています。
掲載した図の右下に、少々ややこしそうな図がありますが、最も下方に描かれている図において〝intron13〟という部分に〝C/T -13910〟などという変異が描かれていますが、これは要するに13,910番目の塩基が、シトシン(C)からチミン(T)へと置き換わっていることを意味しています。そして、この変異を持っていると離乳期以降もラクターゼの発現にブレーキが掛からない状態が継続することになります。それは即ち、大人になっても乳糖を分解できる体が維持されることを意味します。
「だから、欧米では牛乳を飲んでも平気な人が多いのに、日本人には牛乳がダメな人が多いということなんですね。また、変異を持っていないのが元々の正常な形であって、変異を持つ人が後から現れた…、ということなんですね」
あなたは、MCM6に変異(1塩基多型)を持つのと、変異を持たないオリジナルのMCM6とでは、どちらが好みでしょうか?牛乳を沢山飲みたいですか?先にupしています記事『学校給食に牛乳が出されるのは子ども達の為ではない』に、「牛乳の副作用」としてまとめていますので、必要に応じてご覧ください。
私たちヒトは、非常に多くの面において、他の哺乳類を見習わなければなりません。人間に飼われたペットは生活習慣病が結構多いものですが、自然の摂理に従って生きている野生動物たちには、がんをはじめとした生活習慣病は滅多に見られません。乳(ミルク)という飲み物を離乳期以降に飲むという不自然さにつきましては、今一度、改めて考え直して頂ければと思うところです。