野菜は虫に喰われたときに有効成分を増量する

 料理に奇麗な野菜がいっぱい使われていると、いかにもヘルシーだと感じられる人が圧倒的多数でしょう。Facebookにおいても、健康に良さそうな野菜いっぱいの料理の写真をupされている人が多くいらっしゃいます。確かに、それらの野菜は、彼らが生きるための最低限の繊維質やビタミンやミネラルを備えていることは間違いありません。ただ、野菜でがん(癌)を治そうとする向きには力不足です。では、どのような野菜が良いのかといえば、虫に喰われ、それでも虫と戦い続けて育っている野菜が良いのです。

 その理由は何なのでしょうか…? 掲載した図の右側に挙げたのは、様々ながんに対して抗がん作用を示すことが、多くの研究によって裏付けられているイソチオシアネート類を選んでみました。この成分は、特にブロッコリー、キャベツ、ダイコンなどのアブラナ科の野菜に配糖体(グルコシノレート)の形で含まれているもので、少しずつ分子構造が異なった多くの種類があります。そのどれもが体内に入った時に、甲乙つけがたい感じで抗がん作用を示します。
このイソチオシアネートは、その植物体にとってどのような役割を果たしているのかというと、虫よけ、ダニよけ、微生物よけのためです。そのような強い毒性を持っているものですから、普段は糖分子をくっつけた配糖体の形で細胞内の液胞中に隔離されています。そして、虫が植物体をかじり始めると、細胞内の液胞が破られ、細胞質にあった酵素によって配糖体の糖分子が外され、イソチオシアネートが誕生します。イソチオシアネートは、いわゆる辛味成分の一つで、これが多く含まれているものを食べると、ヒリヒリとした辛味を感じることになります。

 さて、ここからが核心の部分です。普段から虫に喰われる機会が多い植物体は、大きな液胞中に多量のイソチオシアネート配糖体を備蓄しているのです。逆に言えば、植物工場やビニールハウスなどにて虫に食べられないように作られている野菜は、彼らにとって安心かつ無防備な状態にあり、イソチオシアネート配糖体の含有量が極めて少ないのです。だからこそ、ダイコンなのに梨のようだとか、ブロッコリーなのにケーキのようだとか、そんな軟弱な野菜が多く作られ、出回るようになったわけです。

 そんな毒性の強いイソチオシアネートを人が多く摂っても大丈夫なのか…、という点についてですが、人類の祖先は、辛味の強い野生のダイコンなどのアブラナ科植物を食べてきたため、イソチオシアネートに対する耐性が出来ています。逆に、がん細胞は、私たちの祖先に相当する細胞へと変化したものですから、イソチオシアネートに対する耐性が出来ていません。だからこそ、抗がん作用を発揮するのだと考えて結構でしょう(詳しい機序は図にも示されていますが、説明は割愛します)。

 今日のポイントをまとめておきますと、見た目に奇麗で、ヘルシーそうに見える、甘くておいしい野菜を好まれる方はそれを食べていただいても結構ですが、本来の野菜が持っているモア・パワーを期待されるなら、出来れば野生に近くて、食べるとヒリヒリと辛い野菜、そして、虫に喰われつつも勢い良く育っている野菜を、是非お食べください!!ということになります。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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