ホルモン療法は想像以上に危険である

ホルモン療法は想像以上に危険である

 「ホルモン療法」という語からは、抗がん剤を使う療法のような非常に厳しくて過酷なイメージを抱かない人が多いことと思われます。そのため、例えば、乳がんであると宣告された人の約7割はホルモン受容体が陽性ですので、その人たちの殆どはホルモン療法の併用を勧められ、それを受けることになります。「悪い部分は摘出しましたが、念のためにホルモン剤を投与しておきましょうか?」「はい、よろしくお願いします」という会話が聞こえてきそうです。その裏には、お世話になる医師に背(そむ)くようなことはしたくないという気持ちもあるでしょうし、事前に学習していたわけではないため断る理由も無い、という場合も多いことでしょう。
 そこで今回は、ホルモン療法がどれほど怖いものなのかを、比較的短い文章にてお伝えできればと思います。

 まず、現代の医学部で教えられている考え方が間違っていることを、何よりも最初にお伝えしておかなければなりません。どのような考え方かと言いますと、「ホルモン性(ホルモン受容体陽性)の乳がん(エストロゲンなどの女性ホルモンの受容体を細胞表面に多く持っているがん)は、女性ホルモンをエサ(餌)にして増殖している」という考え方です。
 仮にそうなのであれば、エサである女性ホルモンを枯渇させてやれば、増殖は抑えられるでしょう。その延長線上に、ホルモン療法が存在しているわけです。ただ、増殖が抑えられるだけであって、がん細胞が死ぬことは無い…、というのは誰が考えても理解できるはずです。何故なら、がん細胞のエサは、ブドウ糖であったり、脂肪酸であったり、アミノ酸であったり、ケトン体であったり、一般の細胞よりも多くのものをエサにしているからです。「だったら、女性ホルモンはエサじゃないですね…」

 では、ホルモン性のがんは、なぜ細胞膜表面に女性ホルモンの受容体を装備しているのでしょう…? その答えは、その部位の細胞がもともと女性ホルモンを増殖や活動の合図として使っていたからこそ、その部位の細胞ががん化した時も、引き続いて同じように女性ホルモンを合図として使うだけのことです。間違っても、その部位の細胞に女性ホルモンが届いたことによって、がん化したわけではありません。また、通常よりも多くの女性ホルモンが届いたことによって、がん化したわけでもありません。がん化した理由は、先にupしています『乳がんを防ぐための基本的な心構え』にも書きましたように、発がん性の高い女性ホルモン代謝産物が長期間にわたって滞留したことが、そのあたりの細胞にとって過酷な状況となり、パワーアップ(がん化)せざるを得なかったということです。

 「でも、増殖や活動の合図に使っている女性ホルモンを欠乏させてやれば、やがては元気がなくなって死んでいくことは考えられませんか?」
 がん細胞の特徴は、このブログにて度々書いていますように、持っている遺伝子の全てを使える状態にしていたリ、積極的にDNA変異を起こして過酷な環境に適応できることです。そのため、それまで増殖や活動の合図(特定の遺伝子にスイッチを入れる)として使っていた女性ホルモンが入って来なくなれば、他の物質で代用するだけです。がん細胞にとっては、いとも簡単なことです。「それなら、女性ホルモンを欠乏させるという戦略は、一時しのぎに過ぎないですね…」

 少し考えるだけで、ホルモン療法の無意味さに気づくはずなのですが、相変わらず続いていることに驚いてしまいます。そして、無意味どころの騒ぎではありません。女性ホルモンは、一般の細胞でも無くてはならないホルモンですし、もちろん男性の場合でも女性ホルモン無しでは生きていけません。
 薬剤によって女性ホルモンを欠乏させられてしまった体は、種々の機能を果たせなくなり、やがて至る所がボロボロになっていきます。また、薬剤自体の強烈な副作用が、それに加わってきます。更に、それまで比較的大人しかったがん細胞を敵に回すことになってしまいます。おまけに、その薬剤の耐性を獲得しますから、同じものはやがて効かなくなります。因みにこれは、製薬企業にとっては大きなメリットになります。

 掲載しました図(高画質PDFはこちら)に、主なホルモン療法薬の種類や作用の仕方、および、副作用をまとめておきました。
 閉経前の女性(平均的には50歳未満)の場合であれば、〝LH-RHアゴニスト製剤〟と呼ばれるものが使われます。なお、LH-RHは性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Luteinizing Hormone-Releasing Hormone)であり、LH-RHアゴニスト(LH-RH作動薬)とは、脳の視床下部から分泌されるLH-RHと似た構造を持つ薬剤です。
 これを継続して血中に入れることによって、LH-RHが継続的に多量に入って来るということで、やがて下垂体(前葉)の細胞が受容体の数を減らしていきます(ダウンレギュレーション)。受容体の数が減れば、本来のLH-RHによるエストロゲン増産命令が伝わり難くなり、結果として卵巣からのエストロゲン分泌量も低下する、という図式になります。もちろん、ダウンレギュレーションが起こるまではエストロゲンが増産されてしまいますので、最初の頃は〝抗エストロゲン薬〟が併用されることになります。

 そして、先ずは〝LH-RHアゴニスト製剤〟の副作用なのですが、第1選択薬になっています〝リュープロレリン〟の場合について見てみます。なお、掲載した図では、中央やや右の下段にまとめておきましたが、ここにも羅列しておきます。<重大な副作用>としましては、間質性肺炎、咳嗽(がいそう;せき)、呼吸困難、胸部X線異常、アナフィラキシー、肝機能障害、下垂体卒中、心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症、肺塞栓症、心不全、糖尿病の発症または増悪、骨疼痛の一過性増悪、尿路閉塞、脊髄圧迫、更年期障害様のうつ状態、視力障害、視野障害、などとなります。もちろん個人差はあるのですが、かなり強烈な副作用です。乳がんどころの騒ぎではありません。「乳がんの進行がしばらく止まるのであれば死んでも結構です」と覚悟を決められる人のみが使うべきでしょう。

 次に、〝抗エストロゲン薬〟の副作用なのですが、第1選択薬になっています〝タモキシフェン〟の場合について見てみます。なお、掲載した図では左下にまとめておきましたが、ここにも羅列しておきます。<重大な副作用> としましては、子宮体がん、子宮肉腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症、無顆粒球症、白血球減少、好中球減少、貧血、血小板減少、視力異常、視覚障害、血栓塞栓症、静脈炎、劇症肝炎、肝炎、胆汁うっ滞、肝不全、高カルシウム血症、間質性肺炎、アナフィラキシー、血管浮腫、皮膚粘膜眼症候群、水疱性類天疱瘡、膵炎、などです。なお、タモキシフェンは、国際がん研究機関(IARC)によって「ヒトに対する発がん性が認められる」と結論づけられている物質ですので、副作用に子宮体がんが挙げられています。「乳がんの進行がしばらく止まるのであれば、子宮がんに罹ってもよいです」と思う人のみが使うべきでしょう。

 次に、閉経後の女性(平均的には50歳以上)の場合であれば、〝アロマターゼ阻害薬〟と呼ばれるものが使われます。第1選択薬になっています〝エキセメスタン〟の副作用について見てみます。<重大な副作用>としましては、肝炎、肝機能障害、黄疸。<主な副作用>としましては、多汗、めまい、しびれ、頭痛、知覚障害、ふらつき、不眠、傾眠、抑うつ、根管症候群、食欲不振、悪心、吐き気、腹痛、腸管閉塞、心窩部痛、高血圧、動機、ほてり、疲労、発疹、皮膚そう痒症、脱毛、爪の変化、骨粗鬆症、関節痛、筋痛、弾発指、狭窄性腱鞘炎、鼻出血、肺炎、膀胱炎、不正出血、過敏症、 体重減少、倦怠、体臭、浮腫、味覚異常、などとなっています。これも、かなり強烈な副作用に苦しまされることになります。

 では、総じて、ホルモン療法による全般的な副作用としてはどのように言えるのか…という観点で見てみると、次のようになります。即ち、更年期障害と同様の症状(のぼせ、ほてり、発汗、頭痛、肩凝り、うつ、筋肉痛、関節のこわばりなど)に始まり、やがて生殖機能の停止、脂質代謝の異常、動脈硬化の進行、骨密度の低下が起こるようになります。そして、もうこの段階にまで行ってしまうと、もはや健康体に戻ることは非常に難しいということになります。例えば、あまりに辛いためホルモン療法を中止して、他の療法に切り替えたとしても、もう体はボロボロですから、がん細胞しか生きられないような体になっている、ということです。
 そして、最も恐ろしいことは、図の右下に書きましたように、がん細胞が種々の薬剤耐性を獲得し、いずれ反撃に出る、ということです。それが5年後なのか10年後なのかは諸々の状況によります。ホルモン療法に加え、一般的な抗がん剤が併用されたり、分子標的薬が併用されたりすると、生き延びるのはがん細胞のみであって、体はいち早く寿命を全うすることになります。

 エストロゲンをはじめとした性ホルモンは、体内で色々と形を変えながら、様々な細胞の遺伝子発現を調節しているステロイドホルモンです。その大切なホルモンを枯渇させるような医療など、あり得ないのです。エストロゲンを枯渇させようとするのではなく、『乳がんを防ぐための基本的な心構え』に書きましたように、エストロゲンを正しく代謝させることに注力しなければならないということです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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