「フルボ酸」って何? ~その2:その中身と有効性~

「フルボ酸」って何? ~その2:その中身と有効性~

 前回の記事の続きになります。そして、いよいよ「フルボ酸」の中身と有効性に言及していこうと思います。
 フルボ酸の原料とも言える物質は、前回に見ていきましたリグニンです。二重結合を持った6員環が多いことが特徴でした。この二重結合を持った6員環は〝ベンゼン環〟と呼ばれていて、俗に「亀の甲」などとも呼ばれているものです。6個の炭素原子で出来た環が骨組みになっていて、炭素原子が安定して存在できる構造の一つですので、植物やバクテリアは好んでこれを作り出します。
 一方、私たちヒトを含めた動物は、ベンゼン環を有する化合物を大いに使っているのですが、ベンゼン環を自ら作り出すことができませんので、それを予め含んでいるアミノ酸、即ち、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなどを口から放り込まない限り、生きていくことは出来ません。人間は万物の霊長などではなく、植物やバクテリアの助けが無い限り、生存さえ出来ない、弱くてちっぽけな生き物です。
 ベンゼンという物質(有機溶媒)は、このようなものを使う業種の人であればお馴染みのベーシックな物質なのですが、人間は工業的にこれをゼロから作ることも満足に出来ていません。そのため、植物やバクテリアが作ってくれた化石燃料を精製することによってベンゼンを得ています。ここでも、人間の無能さを感じることができます。
 ベンゼンの分子を作っているのは6個の炭素原子と6個の水素原子なのですが、このうちの1個以上の水素原子が別の原子または置換基に置き換わった化合物は〝芳香族(芳香族化合物)〟と呼ばれています。そのうち、水素原子の1個がヒドロキシ基(-OH)に置き換わった化合物が〝フェノール〟です。そして、フェノールが沢山つながって出来上がっている化合物が〝ポリフェノール〟です。従いまして、リグニンもポリフェノールの一種だということになります。このことは、後に述べるフルボ酸の効果にも繋がることになります。

 芳香族化合物を複数繋げて作られた超安定なリグニンは、多くのキノコが属する〝白色腐朽菌〟という菌類によって、この世で初めて分解されるに至ったことは前回の記事にて紹介した通りです。「白色」と名前が付いている理由は、このキノコが木(枯れ木)を分解していくときに、どちらかと言うとリグニンの方を多く分解していくために、分解が進んだ木はセルロースとヘミセルロースだけが残って、それが白く見えることに由来しています。掲載した図(高画質PDFはこちら)の上段に、このあたりの話に該当する写真を引用させていただきました。
 白色腐朽菌が、なぜリグニンを分解することにしたのかと言えば、それはセルロースやヘミセルロースを次々と得ていくために邪魔になるからです。セルロースやヘミセルロースを分解すると、その構成要素である糖を得ることができますので、目的はどちらかと言えばこっちです。そのため、リグニンの分解は、適当なところで終えておくことが多いわけです。彼らは、人間様と違って、ベンゼン環は自分で作れるわけですので、エネルギー源になるセルロースやヘミセルロースさえ得ることができればそれでよいわけです。

 掲載した図の右端中段に、リグニンが分解されて生じた物質の例を挙げました。まぁ、こんなふうに低分子になった芳香族化合物の状態にまで分解すれば、木の内部がスカスカになり、思う存分、セルロースやヘミセルロースを分解して利用できるようになります。
 白色腐朽菌が、枯死した木を分解した後には、低分子の芳香族化合物が残ります。これらは土の上に落ちたり、雨水に溶けて土中へと浸み込んでいきます。その後どうなるかと言えば、土中に棲むバクテリアに利用されたり、そのバクテリアの排泄物と反応して形を変えたり、土中に在った物質と自然に化学反応を起こして形を変えたりして、様々に変化していきます。そして出来上がった物質の何割かが〝フルボ酸〟と呼ばれるものだということです。

 ここから先は、人為的な操作によって進んで行きます。一般的には、森林の土壌や沼地の土壌など、木性の植物が枯れて腐って生じた土壌が採取されることになります。要するに、〝木質素〟であるリグニンが沢山分解されたと考えられる土壌が選ばれるわけです。そしてそこには、リグニンの分解物が元になって生じた様々な種類の芳香族化合物が沢山含まれていることが予想されるわけです。
 その土壌を採ってきて、目に見えそうな大きなゴミや有機物を篩にかけるなどして取り除いた後、一般的にはアルカリ溶液にて抽出されます。この処理によって、溶けなかったものは〝ヒューミン〟と呼ばれるのですが、これの話は割愛します。
 次に、アルカリ溶液に溶けたものが含まれる溶液に、今度は酸を添加して溶液全体を酸性にします。この処理によって、沈殿してきた物質を〝フミン酸〟として取り除きます。なお、このフミン酸に関する話も割愛させていただきます。
 そして、もう一方の、酸性にした時に溶けたままのものが〝フルボ酸〟と呼ばれる「混合物」になります。即ち、アルカリにも酸にも溶けた物質の集まりになります。なお、この中には、ナトリウムなどのミネラル分も含まれています。それらを、その後にどの程度取り除くのかについては、それを作って商品化している業者さんの誠意と技術に任せることになります。

 図の右寄りの下段に、〝フルボ酸〟という混合物の中に含まれている、「これぞフルボ酸」と言えそうな化合物の例を幾つか挙げてみました。全体的には、分子内にカルボキシル基とフェノール性水酸基を多く含んだ多価有機酸だということになります。また、ここに見られるのは、分子量が300~1,000程度のものなのですが、これらは全体から見れば、かなり低分子のものです。一般的に「フルボ酸」と呼んで販売されているものの中には、分子量が数千~数万程度の巨大分子も含まれているようです。ただ、巨大になるほど、生体中を素通りするだけの物質になると考えられます。
 少なくとも現在においては、フルボ酸の商業的宣伝が一人歩きしている状態であると言えるのですが、もし、低分子で純度の高いフルボ酸の製品があるのであれば、それに期待できる人体に対する効能効果は次のようであると言えます。即ち、抗酸化作用、微量ミネラルの吸収促進、腸内細菌の育成などです。

 「~その1~」から色々と書いてきましたが、〝フルボ酸〟が単一の物質ではなく、極めて多種類の物質の混合物であり、しかも、採取した場所が異なったり、製造方法が異なったり、作る人の力の入れようが異なったり、それを分析する方法も難しかったりしますので、「フルボ酸は有効ですか?」という命題に対する答えは極めて難しくなります。そのような目で、ネット上に溢れる「フルボ酸」を見て頂ければと思います。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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