長寿のハダカデバネズミも老化細胞を完璧に除去していた

長寿のハダカデバネズミも老化細胞を完璧に除去していた。老化細胞除去のためにはケルセチンが有効。

 今回は、抗老化(アンチエイジング)を主テーマとした記事の4回目となります。因みに、これまでに紹介したもののキーワードを羅列すると、アンチエイジングの全貌、ポリアミン、ニコチンアミド、アピゲニン、ということになります。そして今回のキーワードは〝ケルセチンと老化細胞〟になります。

 抗老化は文字通り、老化に抗うことであり、出来る限り老化を抑制しようということになるわけです。外観としても永遠に若々しくありたいと願う人は多いことと思われますし、種々の病気の主原因は老化であると言うことができますから、病気を予防する目的としても抗老化を実現することは極めて有効になります。
 生物学的にヒトの寿命は有限であり、死亡率は100%なのですが、その寿命限界であると言われている120歳を超えてやろうではないか…という目標に向かって世界中で鋭意研究されています。そして、その方法のヒントを得ようと、ヒト以外の動物の中で健康長寿のモデル動物として古くから研究対象になっているものの一つがハダカデバネズミです。
 これはネズミの仲間で、例えばマウスの寿命は、長生き出来たとしても3~4年なのですが、ハダカデバネズミは約30年も生きることが出来ます。「なぁ~んだ、ヒトよりも短いではないか…」と思われるかも知れませんが、平均的には体の大きさと寿命の長さはほぼ正比例していいますので、ネズミぐらいの体重であれば、やはり3~4年が普通だということになります。それにも拘らず、ハダカデバネズミは30年も生きられるのであり、ヒトの寿命が長くても120歳なのであれば、その10倍である1,200歳まで生きられることに相当します。「そんなに長くは生きたくはないです…」という声も返ってきそうですが、その間、生殖能力も含め、殆ど老化しないわけですから、永遠の若さを保ったまま1,200歳に達し、ある日突然ぽっくり死ぬ、という人生になることを意味します。あなたも如何ですか?

 さて、ハダカデバネズミが健康長寿である理由についてですが、2023年の7月に熊本大学の研究グループから次のような報告がありました。それは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右のほうに全体像を示す図を引用させていただいたのですが、要するに、ハダカデバネズミは体内に老化細胞を蓄積せず、そのメカニズムとしては、何らかの傷害を負って活動を停止した細胞、即ち老化細胞が出来るや否や、直ぐにアポトーシス(積極的かつプログラムされた細胞死)を起こしてしまうということです。そのため、ハダカデバネズミの体内には老化細胞が殆ど存在しない、ということになります。
 因みに、老化細胞が蓄積すると、そこから慢性的な炎症を進める様々なサイトカイン(細胞から分泌される情報伝達のための生理活性タンパク質)が分泌されて、組織の老化と生体全体の老化が進むことになります。慢性炎症が老化を進める大きな原因であることは、適度に抗炎症薬を飲んでいる人のほうが健康長寿であることからも確証を得ることが出来ます。なお、抗炎症薬の話は『NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を上手く使おう』にて概略を述べていますので、必要に応じてご覧ください。

 タイトルに「…ハダカデバネズミも…」と〝も〟の字をつけた理由は、それまではリクガメの仲間が長寿である理由が追及され、老化細胞が殆ど存在していないことが明らかになっていましたので、それが老化細胞を蓄積させない、ないしは老化細胞を除去するための研究が広く進められてきました。そして、その頃にはハダカデバネズミの長寿は、掲載した図の右下に書いておきましたような理由によるのであろうと考えられていて、まさか、ハダカデバネズミも老化細胞を完璧に除去しているのだという研究は進んでいなかったのです。そして、上述した研究報告によって「なんだ、ハダカデバネズミもそうであったか…」ということになったわけです。
 これによって、抗老化を実現させるための方法として〝老化細胞を蓄積させない〟というアプローチの重要性が更に高まったことになります。

 私たちは、日常生活において出来るだけ細胞に損傷を与えないようにすることと、それを防げずに損傷を負ってしまった細胞については、悪影響を周囲に広げないように活動を停止させることは重要なことです。その場合、活動を停止した細胞を〝老化細胞〟と呼ぶようになったのですが、これがアポトーシスせずに組織内に残ってしまうことが問題なのですから、それを速やかに除去できれば問題は解消するのではないかということになります。
 そこで、そのような作用を示す物質(セノリティックドラッグ)の探索が今も鋭意進められています。そのなかで、副作用無く、全身の健康を増進させると共に、老化細胞のアポトーシスを促してくれる物質があれば、それを大いに利用したいところです。そして、その筆頭に挙げられる物質がケルセチンです。
 ケルセチンについては、『ケルセチンは非常に強力な抗がん作用を示す』にて紹介しましたが、がん細胞だけでなく老化細胞をも除去してくれるという、非常に有難い物質です。入手方法についても既に紹介しましたように、サプリメントとして販売されているものを利用するか、タマネギの皮を粉末にしたものを利用するのが、特に忙しい人にとっては手っ取り早いのではないかと思います。余裕のある人は、自宅でタマネギの皮を利用したり、緑茶中のケルセチン含有量もそこそこ多いですので、それらも良いアプローチだと思われます。

 
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