「レジスタントプロテイン…。聞いたことがあるような無いような…」「レジスタントスターチとは違うのですよね!?」ということなのですが、「…プロテイン」なので〝タンパク質〟です。また、「レジスタント」というのは〝難消化性〟を指して使われています。
「タンパク質なのに消化され難いのですか??」という疑問が最初に沸き起こってくる可能性も高いのですが、それはレジスタントスターチの場合とよく似ており、構造的に消化酵素がアタックし難くなっていることが最大の原因です。それは即ち、タンパク質の分子が寄り集まって大きな粒子を形成しており、更には、その粒子の外側を生体膜が取り巻いている、という構造をしていることが一つです。だからこそ、消化酵素が近くまで来ても、そのタンパク質分子に容易に接近できないわけです。
他にも理由があって、そのタンパク質の分子が、例えばアルコールであれば馴染むのですが、水には馴染まないからです。一般的に、タンパク質の分子は大きいですので、例えば塩化ナトリウムが電離して水に溶けるのとは様子がかなり異なるわけです。タンパク質が水に溶けるというのは、タンパク質を構成しているアミノ酸と水分子が互いに引き合って、水分子の集団中にタンパク質分子が仲良く引き合って分散できる場合に〝溶ける〟という現象を見ることが出来ます。
一方、難消化性のタンパク質分子は、水分子よりも、自分と同じ種類のタンパク質分子と仲良く引き合って(くっ付いて)塊を作ってしまうのです。消化酵素は水と馴染み易いものが殆どで、水と同様に、難消化性タンパク質への接触を拒まれます。そのため、本来ならそのタンパク質の特定部分を切断する能力を持っていたとしても、その能力を活かせない状態になってしまう、ということです。
今回は、米に含まれているレジスタントプロテインについてのみ紹介しますが、動物性食品中にもレジスタントプロテインが含まれていますので、それについては他の機会に採り上げてみます。なお、小麦中のレジスタントプロテインにつきましては『小麦中の貯蔵タンパク質・グリアジンに反応を示す日本人が増えてきている』にて触れていますので、必要に応じてご参照ください。
では、掲載した図(高画質PDFはこちら)に沿って見ていくことにします。なお、スマホでお読みの方の場合は同時に図を見ることが出来ないでしょうから、図を見ていなくても解りやすいように頑張ります。
米を食べる場合、玄米を食べる場合も、白米を食べる場合も、共に食べることになる〝胚乳〟の部分のお話になります。それは即ち、精米して精白米にした場合に得られる透明感のある白っぽい部分のお話です。
精白米の大雑把な組成は、掲載した図によると、炭水化物が77.6%、タンパク質が6.1%、脂質が0.9%、灰分が0.4%、水分が14.9%となっています。もちろん品種や生育条件にもよると思いますから、精白米中のタンパク質含有量は6%前後であると捉えておけば結構でしょう。
次に、そのタンパク質には、どのようなタンパク質があるのか…、ということについてですが、最も大雑把に言えば〝貯蔵タンパク質〟だということです。これは、〝米〟というイネの種子が次の世代へと命を継ぐとき、種子の発芽までをバックアップするために必要なタンパク質を貯蔵したものです。
貯蔵するからには、容易に分解されるようなものでは困りますので、それなりの工夫が凝らしてあります。今回の記事にて焦点を当てる〝プロラミン〟というタンパク質は、イネの赤ちゃんが特に苦労するであろう〝窒素源〟が充分に得られるように、アミノ酸としてアミノ基が2個あるグルタミンが分子中に多く使われています。また、乾燥や低温にも耐えられるようにプロリンも多く使われています。因みに、「プロラミン」の名称は、プロリンの「プロリ…」と、グルタミンの「…ミン」が語源になっているようです。
米の貯蔵タンパク質として他に多く含まれているものはグルテリンなのですが、これも語源は上記アミノ酸の「グルタ…」と「…リン」が使われているようです。ただ、グルテリンは比較的消化され易いですので、今日は触れないことにします。
因みに、「プロラミン」や「グルテリン」の名称は総称であって、小麦に含まれているものも同じ名称になっている理由は、これが総称だからです。そして、小麦に含まれているプロラミンは〝グリアジン〟であり、小麦に含まれているグルテリンは〝グルテニン〟です。アミノ酸配列は、当然のことながら米のものとは異なっていますので、ヒトに対する作用も異なってきます。なお、米の「プロラミン」や「グルテリン」は、その分子の大きさを示す数字によって、詳細な名称として使われています。
さて、米に含まれる約6%のタンパク質の殆どが貯蔵タンパク質です。そして、そのうちの何割かがプロラミンなのですが、これの含有量は品種によって多かったり少なかったりするようです。そして、その多少によって食感が少し変わってくるようなのですが、総タンパク質として多くなるほど、ご飯の粘り気が少なくなるようです。食感や味の話は他に譲るとして、生理的な話を進めて行きます。
プロラミンは、米の胚乳の中では、胚乳を構成している細胞の小胞体の膜に包まれた状態で分子数が増やされていき、一定の大きさの粒子になるのですが、この粒子は〝プロテインボディ〟と呼ばれています。そして、プロラミンを含むプロテインボディは〝プロテインボディ-タイプⅠ(PB-Ⅰ)〟と名付けられています。
このままの状態で〝米〟になりますので、炊飯した後もPB-Ⅰの構造が保たれていて、これが難消化性となります。図の右上の画像はラットから得られたものですが、PB-Ⅰが消化されずに糞便に多量に排泄されていることが判ります。
「せっかく食べたのに消化されない…、消化に悪い。こんなものが体に良いのですか?」と思われる方が多いことでしょう。巷では、消化されなかったり、消化が遅かったりした場合、それを「消化が悪い」と表現します。この一般常識は、絶対に末梢しておかなければなりません。消化という活動は「良い/悪い」ではないのです。どこの栄養学者が言い出したのかは知りませんが、消化が速かったり吸収が速かったりした場合、それは血中にピークを生じさせ、血液を汚してしまいます。また、大腸には届かないことになります。こんなものを「良い」と表現するのは今後は一切やめにしないといけません。本当は、多くの場合において、ゆっくりと消化・吸収し、大腸に送るべきものは途中で消化吸収させず、素通りさせるべきものは素通りさせなければならないのです。
PB-Ⅰは、素通りします。もちろん、その中に詰まっているタンパク質であるプロラミンも素通りすることになります。それによって、図の右下に挙げた生理的効果が発揮されます。即ち、脂質代謝改善、コレステロール排出促進、血糖値上昇抑制、抗糖尿病、糖尿病性腎症抑制、腸内細菌叢の改善、免疫調節、抗アレルギー、肥満抑制、抗酸化、尿酸値の低下などです。繰り返しますが、素通りしてしまうからこそ、上記のような生理的効果が得られるわけです。なお、個々のメカニズムに触れていくとかなりの長文になってしまいますので、今回は割愛します。
色々と書きましたが、米に含まれる難消化性のタンパク質、即ちレジスタントプロテインは、これを食べることによって多くの生理的効果が発揮されます。逆に言えば、米飯を食べる量や機会が少な人ほど、各種の生活習慣病に罹りやすくなっているのではないでしょうか。
米のご飯は単なる糖質源であると考えれば、他の食品で賄うことが出来るでしょう。しかし、実際には単なる糖質源なのではなく、生活習慣病を防ぐレジスタントプロテインを含む優れた食材なのだということです。