赤い光は修復開始の合図である

赤い光は一日の終わりを告げると共に、細胞レベルでの修復作業を開始する信号として使われている。

 これまでに、光に関する記事としては次のようなものをupしました。波長の短いほうから挙げると、『ビタミンDを皮膚で作らせるには波長の短いUVが必須である』、『カラスから見たカラスは黒くない』、『一個一個の細胞にも時計が仕組まれている』、『日光は確実にがんを遠ざける』、
昔は竈から放射される近赤外線も乳がん予防に役立っていた』などです。そこで今回は、〝赤色光〟に着目してみることにします。

 赤色光は、可視光線の中では最も波長の長い電磁波ですが、それよりも少し波長の長い電磁波は〝近赤外線〟です。両者の境界となる波長はどれぐらいなのかというと、肉眼で見えるか否か(可視か否か)が判断基準になりますので、個人差があります。そのため、可視光線の上限は760~830nmと範囲を持たされており、概ね、800nmよりも長ければ近赤外線だと思っておけば結構でしょう。
 一方、赤色と橙色(だいだいいろ、トウショク)の境界も難しいのですが、640nmとするのが標準的のようです。LEDの場合は、発する光の中心となる波長を特定することが出来ますが、太陽光や炎の光は様々な波長の電磁波によって構成されていますので、全体として橙色に見えたり黄色に見えたりすることになります。薪を普通に燃やした場合の炎であれば、広範囲の波長の可視光線と赤外線(近赤外線~遠赤外線)を含むことになりますが、全体としては橙色に見えることになります。

 さて、私たち人類は、夕方になると夕焼けの空を見上げて明日の天気を予想しました。家に帰ると竃(かまど)に火をおこしてご飯を炊きました。夕ご飯の後は、しばらくは囲炉裏の熾火(おきび)を眺めながら寛(くつろ)ぎました。その時、目に入ってきたり、皮膚に当たったり、皮下にまで到達してきたのは赤色光や赤外線でした。なお、今回のテーマは赤色光なので、赤色光を中心に述べることにします。
 更に遡ってみましょう。私たちの祖先が陸上動物(爬虫類のようなもの)になった頃から、赤い夕陽や夕焼けを目にするようになりました。そのようになってから、かれこれ3億年以上が経過しています。そして、いつの間にか赤色の光は、一日の活動の終わりを告げる合図として使われるようになったのです。

 一日の活動の終わりには何をしなければならないのかというと、日中の活動によって疲労したり壊れたりしたものを修復して回復させることと、明日のためのエネルギーを充填することです。
 まず、修復や回復について、最も大切なのはDNAの損傷部分を修復することです。損傷の原因は紫外線や、活発な活動によって生じる活性酸素種です。その都度、修復すればよいのでは…?とも考えられますが、何でも使用中には修理はしにくいものです。そのため、使用しなくて済む時間帯に修復が行われる仕組みになっているわけです。
 また、回復の代表例は、壊れた細胞を処分した後に新しい細胞を補充することです。細胞分裂する場合、DNAが損傷している間は複製しないほうが良いですから、細胞分裂はDNA修復が終わってから開始されることになります。
 次に、エネルギー充填の件ですが、もちろんエネルギーを使いながらのエネルギー充填も可能ですが、共通した代謝酵素を使っている場合が多いですので、両方を同時に行うと、両方ともが中途半端になります。例えば、食べながら運動するよりも、食べる時と運動する時をしっかりと分けたほうが運動能力や消化能力が高まるのとよく似ています。
 そして赤色の光は、上述の作業を開始する合図として利用されることになったわけです。

 掲載した図(高画質PDFはこちら)の中央下段に、特に海外で用いられている、LEDを用いて赤色光を照射する装置の一例を示しておきました。これらは「Red Light Therapy」と呼ばれていて、様々な規模のものや、波長も種々のものが組み合わされて用いられています。
 また、図の右下に、Red Light Therapyによって期待される効果が箇条書きにされていましたので、それを直訳したまま掲載しました。図中では順不同になっていますので、少々整理しておきますと、骨の治癒・傷や怪我の治癒を速める、痛みを軽減させる、慢性炎症を取り除く、回復力・パフォーマンス・筋肉量を増加させる、老化の原因となる酸化ダメージを軽減させる、肌の老化・しわ・セルライトを改善させる、体脂肪を減らす、脱毛を防ぐ、ストレスに対する耐久力を細胞レベルで獲得する、自己免疫疾患に対抗し、ホルモンを正常化させる、脳の機能や精神状態を最適化する、倦怠感を克服しエネルギーレベルを向上させる、などのことが記載されています。こられをまとめて言うならば、〝修復とエネルギー充填〟であるということが出来ます。

 〝修復〟のメカニズムは、DNAの修復から組織の修復まで広範囲にわたりますから、赤色光が担当しているのは〝各種の修復作業を開始する信号の役割を果たしていること〟だと言えるわけです。要するに、赤信号は日中の活動をやめて修復作業に取り掛かりなさい、という合図だということです。
 もう一つの〝エネルギー充填〟につきましては、図の右上に掲載したイラストに、そのメカニズムが描かれています。詳細は割愛して大雑把に言いますと、赤色光(または近赤外光)の光子が、光受容体であるシトクロムcオキシダーゼ(電子伝達系の複合体Ⅳ)に当たると、ミトコンドリアにおける酸素利用能が高まるため、ATPの産生量が増加する、というメカニズムです。因みに、光とミトコンドリアの関係は、光合成細菌が光を利用してATPを産生していたメカニズム(プロテオロドプシン)の発展形が、私たちのミトコンドリアの電子伝達系(の呼吸鎖複合体)へと発展した、ということです。

 現代人は、昔に比べて、夕方から夜にかけて赤色光を見たり浴びたりする機会がめっぽう減りました。そのため、夕方や夜になったことに心身が気づき難くなり、各種の修復作業が進み難くなっているのではないかと考えられます。だからこそ、海外では赤色光によるセラピーが重要視されているのであり、それなりの効果が出ているのでしょう。
 LEDはあまり熱を発しませんので、夏場であってもその光を思う存分浴びることができます。美容分野では、赤色光がコラーゲン産生促進などの機序にてシワの改善効果があるとして比較的普及度が高くなってきました。その他の健康効果についても、試してみる価値は大いに有ると言えます。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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