〝疲労〟と〝疲労感〟は異なる

疲労と疲労感は別であることに注意

 〝疲労〟に関する話を幾つか続けていこうと思うのですが、先ずは日本人がどれほど疲れているのかのデータを見て頂くことにしましょう。
 掲載した図(高画質PDFはこちら)の左側のグラフを見て頂きたいと思います。これは、インターネットによる質問、およびその回答が集計されたもので、いわば自己申告による疲労度の調査結果となっています。
 上段のグラフは、2023年度を最新とし、2017年まで遡って見たものです。そして、緑色は「元気である」と答えた人、黄色は「頻度は低いが疲れることがある」と答えた人、オレンジ色は「疲れる頻度が高い」と答えた人の割合を示しています。
 「元気である」と答えた人(元気な人)の割合は、2023年では18.2%となっていて、これは2017年から減少を続けています。即ち、時代が進むたびに元気な人が減ってきているということです。逆に言えば、多かれ少なかれ疲労を感じる人は全体の8割を超えていて、その割合は増えつつあるということです。

 次に、中段のグラフを見て頂きましょう。これは、年代別に集計した結果です。「元気である」と答えた人は、20代が最も少なく14.8%、その次は30代で15.1%、…というふうに、年代が上がるほど元気な人の割合が高まっていき、70代では39.4%となっています。即ち、若い世代ほど疲れを感じることが多い、ということになります。
 確かに、若い人たちは大変だと思います。上司から色々なことを言われながら仕事を覚え、人生において初めて経験することが毎日のように降りかかってくるのですから…。ただ、若い頃の苦労は貴重ですから、有難く受け入れることが成長の秘訣だと思います。もし、反発してしまったら、それ以上成長できなくなってしまいます。

 次に、下段のグラフは男女別に集計された結果です。少しの差ではありますが、女性の方が元気な人が少なく、即ち、疲れを感じている人が多いということです。

 ところで、上記の結果は自己申告によるものであって、何らかの生理的な指標で疲労度検査を行った結果ではありません。なお、生理的な疲労度検査につきましては、別記事とさせていただきますので、楽しみにしていてください。
 これはアンケートの結果ですから、自ずと自己申告になります。即ち、自分で「疲れている」と感じる程度(頻度)が調査されたことになります。従いまして、これは〝疲労〟というよりも〝疲労感〟の程度が調査されたことになるわけです。
 このことが、思いのほか重要になってきます。インターネット上に溢れる疲労関連の情報は、その殆どが〝疲労〟と〝疲労感〟を区別せずに何かを語っていますので、正しく追及できていないことが多くなります。

 さて、ここからが今回の記事の核心部分なのですが、〝疲労感〟は心理的なものですので、これを感じている人は、「やる気が出ない」「集中できない」「しんどい」「体がだるい」などと感じることになります。そして、実際に心身が疲労している場合もあれば、殆ど疲労していないにも拘わらず上記の感覚が襲ってきて、自分は「疲労している」と感じることもあります。時に、嫌だと感じる仕事であったり、人間関係上のトラブルがあると実際以上に〝疲労感〟を感じることになるでしょう。ただ、あくまで“疲労感”だということになります。
 もちろん、この状態が長期にわたって続くと心身の不健康がもたらされることになるのですが、途中で何か楽しいことがあれば、急に元気になるという特徴を持っています。要するに、気持ちの問題だということです。従いまして、〝疲労感〟を感じているときには、先ずは、何かで喜びを得たり、周囲の人が喜びを与えてあげたりする、即ち、心のケアが先決だということになります。

 一方、それよりも大きな問題になるのは、実際には〝疲労〟しているのに〝疲労感〟を感じず、「自分は元気だ」と感じる人の場合です。上述しましたように〝疲労感〟は心理的なものですので、〝仕事に燃えている人〟、或いは、昔によくあった〝モーレツ社員〟のような人は、実際には疲れていても〝疲労感〟を感じずに仕事に没頭してしまうことがあるわけです。特に、自分が大好きな仕事や、夢の持てる大きな目標に向かっているときは、往々にして〝疲労感〟を感じないものです。
 この場合は、仕事に当たる時間が長くなり過ぎたり、かなり集中して作業に当たっていますから、生理的に心身が〝疲労〟しています。そのため、先ずはしっかりと休息を取らなければなりません。
 よくあるケースとしましては、その日も残業で帰宅時間や寝る時間が遅くなったにも拘らず、翌日が休日であれば、いつもより早く起きて釣りや登山に出かけたりする人がいらっしゃいます。もちろん、本人にとっては楽しいことですので、〝疲労〟していても〝疲労感〟を感じません。しかし、〝疲労〟に伴う様々な悪影響が心身を蝕み始めるのです。
 そこで必要になってくるのが、客観的に疲労度を測定する方法ならびに、その測定を行うことなのですが、これについては次の記事として採り上げることにします。今日のところは〝疲労〟と〝疲労感〟をしっかりと区別しましょう!ということです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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