ミトコンドリアの品質管理はあなたが休んでいるときに進む

 ミトコンドリアは細胞の中にある小器官の一つですが、遥か昔には、細胞とミトコンドリアはそれぞれ別の単細胞生物であったことについては、ほぼ間違いのないことだと捉えて結構でしょう。そのため、ミトコンドリアは私たちの細胞の中で、あたかも異種生物のように動き回ったり変形したり、或いは分裂したり、融合したりなどを繰り返しています。
 なお、ミトコンドリアについても非常に奥が深いですので、今日は〝ミトコンドリアの品質管理〟ということに絞って簡単に見ていくことにしましょう。

 ミトコンドリアも時間経過とともに種々の損傷を負い、それによって機能が低下していくことになります。機能が低下すると、ミトコンドリアが担当している非常に多くの活動に支障を来すようになりますが、非常に厄介な現象の一つは、活性酸素種(図中:「ROS」)の放出量が増えることです(図の高画質PDFはこちら)。
 一般に、細胞老化や個体老化の大きな原因として活性酸素種が採り上げられますが、その発生源は主にミトコンドリアです。そして、ミトコンドリアの損傷度合いが高まるほど、多くの活性酸素種を放出してしまうことになります。従いまして、ミトコンドリアを常に健全な状態に保っておくことが、個体の健康維持においても重要になってきます。

 ミトコンドリアは自ら、機能低下を防ぐ活動を日頃から行っていて、それは〝ミトコンドリアの品質管理〟などと言われています。掲載した図にも示されていますように、分裂する前に、損傷した部分を、どちらかの片側に寄せます。そのようなことが出来るのは、ミトコンドリア全体がすごく柔軟で、膜の流動性が高いからでしょう。次に2分裂するのですが、損傷した部分を含むミトコンドリアのほうは分解処分(マイトファジー)されてしまいます。もう片方は、損傷部分を含まない健全なミトコンドリアとして残ることになり、これはやがて元のサイズまで成長して存続することになります。…なるほど、そのような品質管理を勝手にやってくれているんだ…、ということなのですが、私たちの日常生活の如何によって、この動作の進行程度に差が出てくることが考えられます。その理由は次のようです。

 ミトコンドリアが、損傷部分を片側に寄せたり、その後に分裂したりするという動作は、ミトコンドリアが忙しく本業をこなしているときには出来ない活動です。何に忙しいかといえば、ATPを作ったり、脂質のβ酸化をしたり、オートファジーやアポトーシスの制御をしたり、細胞内Caの濃度調節をしたり、細胞のストレス応答の一部を担当したり、アンモニアを解毒したり、ヘムを作ったり、インターロイキンを作ったり、などなど、非常にたくさんの仕事をするのに忙しいのです。
 しかも、その忙しい時には、ミトコンドリアは他のミトコンドリアの幾つかと融合し、しかも細長く伸びた糸のような形に変わっています。細長くなるメリットは、同体積当たりの表面積が増えることや、ミトコンドリアの内部がギュッと縮まることです。その結果として、ミトコンドリア内外、及びミトコンドリア内での物質のやり取りが素早く出来るようになります。この状態は、私たちが多くのエネルギー(ATP)を消費しているときに現れるもので、一般的には日中に活発に活動しているときに相当することになります。
 このように、ミトコンドリアが本業で忙しい時は、融合して細長くなっているため、品質管理のための動作を行うことが出来ないのです。

 では、ミトコンドリアに品質管理をしてもらうためにはどうすれば良いのか…。それは、ミトコンドリアに品質管理を行う余力を与えることです。即ち、ミトコンドリアの外形を太短くして、損傷部分の片側への移動をしやすくし、更には、分裂という一大イベントに注力できるように、出来るだけ他の仕事を与えないことです。それは即ち、私たちがしっかりと休息すること、夜間にぐっすりと然るべき時間をとって熟睡することです。
 因みに、ミトコンドリアの数を増やそう…などというフレーズがあったりしますが、ミトコンドリアの数は細胞の種類によっておおよそ決められていますので、多ければよいというわけではありません。活性酸素の主要発生源がミトコンドリアですから、品質管理ができていないミトコンドリアの数が増えたりすると大変なことになります。大切なことは、高品質のミトコンドリアを適正量持つことです。肝細胞中のミトコンドリアは桁違いに多いですし、赤血球にはミトコンドリアがありません。筋肉の遅筋はミトコンドリアが多いですし、速筋はミトコンドリアが少ないです。要は、数ではなくて品質が大切だということです。

 ゆっくりと休む暇もなく、過労が続くような状況下では、ミトコンドリアは品質管理を満足に行うことができません。どれほど忙しくても、しっかりと休息、そして睡眠を取るようにすれば、ミトコンドリアは自ずと品質管理を進めてくれることになります。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
世間一般では得られない、真に正しい健康/基礎医学情報を提供します。

stnv基礎医学研究室をフォローする
人体のメカニズム休息-睡眠
スポンサーリンク
この記事をシェアする([コピー]はタイトルとURLのコピーになります)
stnv基礎医学研究室
タイトルとURLをコピーしました