今回も、リクエスト戴きました件についての内容になります。そもそも〝免疫力〟という言葉を聞いたときに想起される内容は、人によって様々であると思われます。概ね、何らかの病原菌や病原ウイルスが自身に降りかかってきたとき、それを跳ね除ける力のようなものを想起されるのではないでしょうか。或いは、一度罹った感染症に2回目に罹らない力のようなものを想起されるのかもしれません。或いは、免疫抑制剤を投与し続けている人や、自己免疫疾患やアレルギーが強く出る人にとってみれば、免疫とは厄介な側面を持つものだと思われているかも知れません。いずれも免疫という仕組みの一面を言い当てていますので、間違いではありません。
ただし、学術的かつ正式には〝免疫力〟という単語は用いません。誰が使い始めたのかはさて置き、何にでも〝力〟という語を付けたがるご時世に生まれた誰かが、〝免疫〟という語に〝力〟の文字を付けて使い始めたものが普及してしまった結果です。
先にupした記事に『生活の偏りが白血球の比率を変えて病気を呼ぶ』というものがありますが、これにおきましては、免疫を担当している代表的な細胞である、リンパ球、顆粒球、マクロファージを採り上げて、各々の役割と、それらが増える場合の代表的な生活条件を述べました。もちろん、感染症の場合は、病原体の種類や重症度合い応じて各々が増えたり減ったりするのですが、日頃の生活習慣によっても増えたり減ったりします。そして、各々は増え過ぎてもダメですし、少な過ぎてもダメだということです。従いまして、〝免疫力が高い〟と言えるのは、各々の細胞が多過ぎず少な過ぎず、活性化状態も適度である状態を指すことになります。
また、免疫反応を抑える(抑制的に働く)役割を担っている免疫系細胞が何種類もありますので、それらが減ったり機能低下を起こしたりすると、免疫反応が強まることになります。この状態を〝免疫力が高まった〟と表現することは間違いではないことになりますが、これは不本意な免疫力の増強になります。
或いは、体内に入ってきたものや体内に生じたものを攻撃すべきなのか守るべきなのかの判断が非常に重要で、〝免疫力が高い〟と呼べる状態は、より理想的に判断が行われている状態を指すのだと解釈することができます。例えば、自己免疫疾患は、自分の何らかの組織の生体成分(のアミノ酸配列)が攻撃対象になってしまったものですが、これは判断基準が少々間違ってしまったことに起因するわけですので、〝免疫力〟という観点では〝高くなっている〟のか〝低くなっている〟のかを判断することは難しくなります。
結局、〝免疫力が高い〟と表現しても、その中身は様々であり、状態を詳しく特定することが出来ませんので、学術上ではこの単語を使わないことになっています。要するに、何をもって〝高い〟とするのかの要因が沢山あり過ぎて、文字に表しても意図することが伝わらないからです。
上記は、あくまでも学術的な面からのお話です。そして、確かに世間では〝免疫力を高める〟という表現があまりにも多く見受けられますので、それの解釈について述べておこうと思います。
先に結論から申し上げますと、〝免疫力を高める〟というフレーズにもっともしっくりくるのが「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)を増強する」ということになります。
NK細胞の特徴や役割については、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右半分にまとめておいたのですが、この細胞は要するに、いわゆる〝自然免疫〟を担当するリンパ球の仲間であり、日頃から体内を循環し、異常が生じた細胞を自滅させてくれる、極めて大切な免疫細胞です。
もう少し詳しい内容は図中にも書きましたが、NK細胞は、生まれつき(natural)の細胞傷害性細胞(killer cell)という意味で名付けられました。そして、がん細胞やウイルス感染細胞を除去することに威力を発揮していて、自然免疫の要として働いています。なお、〝自然免疫〟というのは〝獲得免疫〟と対を成す語であり、この獲得免疫を担当するのはB細胞やT細胞です。B細胞やT細胞は生後において感染の経験によって機能が高まっていくのですが、自然免疫を担うNK細胞の機能は生まれながらにして既に高まった状態になっています。NK細胞は、脾臓や末梢血中に比較的多く存在し、巡回しながら異常細胞を見つけ次第駆除してくれています。全体的には、T細胞のうちの細胞傷害性T細胞(CTL;キラーT細胞)が活性型になったときの姿に似ているのですが、NK細胞の場合は常に細胞傷害活性を保った状態になっていて、いわば即戦力です。他のリンパ球に比べると少し大形であり、細胞内に顆粒を有し、顆粒の中には処分すべき細胞を殺傷するためのタンパク質(パーフォリンやグランザイムなど)を含んでいます。パーフォリンというタンパク質が処分すべき細胞の細胞膜に穴をあけ、グランザイムがその穴から内部に入ってアポトーシス(積極的細胞死)を誘導します。例えばウイルスに感染した場合、感染した細胞はNK細胞によってすぐに処分されるため、ウイルスの増殖と蔓延が防がれます。
従いまして、がん(癌)や感染症を防ごうとするのなら、リスクを伴うワクチンに頼るというような悪い癖をすぐにでも撤廃し、自然免疫を担当しているNK細胞を増強することに力を入れるべきだと言えます。そうすることによって、がんに罹らない、そして風邪などめったにひかない、新型コロナやインフルエンザにも罹らない、頑強な体を手に入れることが可能になります。
次に、NK細胞を増強する方法ですが、これも図中に書きましたように、最も重視すべきことは、アグレッシブな生活をすることです。具体的には、何事も楽しみながら、積極的に、精力的に、意欲的に、果敢に、攻めながら生きる、ということです。
その他にも、よく笑う、理想的な食事をする、適度に日光を浴びる、フィトンチッドを吸い込む、自然界の音を浴びる、規則正しい生活をする、老化を避ける、などです。
一方、NK細胞を減らさないための最も重大な注意事項は、過剰な精神的ストレスを持続させないこと、即ち、自律神経系が長時間または長期間にわたって交感神経優位になることを避けることです。これは、高濃度のコルチゾールによってNK細胞が減少するからです。逆に、完全なストレスフリーの状態も避けるべきです。くつろぐ/休むことはリンパ球全体に比率を高めることになりますが、それではNK細胞が増えないようです。あくまで、アグレッシブな生活をすることです。
最終結論を繰り返しておきますが、巷で言われる〝免疫力を高める〟とは、NK細胞を増強することです。