◆ はじめに
私たちは、日々の生活の中で「疲れやすい日」があるかと思うと、「そうでもない日」があったりします。例えば、睡眠時間や仕事量が同じであっても、なぜか心身が重く感じられる日があったり、驚くほど軽やかに動ける日もあったり…、ということです。この違いは、同一人物であるわけですから、年齢や体力の問題ではなくて、これから述べていく要因が関わっているのだと言えます。
同じように、世の中には「疲れやすい人」と「疲れにくい人」がいるように思われます。後者の場合、特別に体力があるわけでも強靭な精神力を持っているわけでもないのに日々を軽やかに過ごしている…、という例です。両者の違いもまた、これから述べていく要因が関わっているのだと言えるわけです。
では、その要因とは何なのでしょうか…。最も大きく捉えるならば、それは“無意識の力み(無意識下における力み)”だと言えるわけです。例えば、体では、肩や首、眉間、奥歯、腹部、手指などに、本人が気づかないほど小さな緊張が継続し、それが交感神経を押し上げ、呼吸を浅くし、血流を滞らせ、心身を疲れやすい方向へと傾けている…、ということです。また、心にも“無意識の力み”が生じます。「失敗してはいけない」「急がなければ」などといった小さな緊張が継続し、それが心の疲労を早めることになります。また、呼吸や姿勢にも影響し、体の疲労も早めることになります。
逆に、“無意識の力み”に気づき、それをそっと手放すことができると、心身の緊張が解かれ、呼吸は深くなり、末梢の血管が開き、手足にやわらかな温かさが戻り、心身は軽やかに働き始めます。疲れにくい人は、特別な能力を持っているわけではなく、無意識の力みをつくらない“心身の使い方”を、自然に身につけているだけだと言うことも出来るわけです。
本記事では、この“無意識の力み”に焦点を当て、その見つけ方と、力を抜くための具体的な方法についてお話ししていきます。心身が軽くなって疲労しにくい心身になるための一助になれば幸いです。
◆ 疲れやすい人は“無意識の力み”が多い
上述しましたように、私たちが「疲れやすい」と感じるとき、その最大ともいえる原因は“無意識の力み”です。この力みは、強い緊張として現れるわけではなくて、むしろ、“気づかないほどの微細な緊張”として積み重なります。例えば、肩がわずかに上がっている、歯を軽く噛みしめている、眉間にほんの少しシワが寄っている、手指が固くなっている、いつも何かに対して気を張っている、などです。疲れやすい人の場合、このような小さな力みが、日常のあらゆる場面で静かに続いていることが多いのです。
この“無意識の力み”は、心身が常に“戦う準備”をしている状態に相当します。だからこそ、交感神経が優位になり続け、その結果として、呼吸は浅くなり、血流は滞り、脳は休まらず、疲労が蓄積していくわけです。要するに、疲れやすい人は、特別に弱いわけでも、体力が無いわけでもなく、自分でも気づかない小さな力みが、日常の中で継続して積み重なっているだけだということです。
◆ “無意識の力み”を見つけるチェック方法
無意識の力みは、本人が気づかないほど小さな緊張として現れますので、まずは、自分の身体にどのような力みが潜んでいるのかを確かめることが大切です。
最も多いのは、肩の力みです。その場合、肩がわずかに持ち上がっていたり、左右の高さが微妙に違っていたりします。鏡の前に立って意識的に肩の力を抜くと、それによって肩が下がれば、普段は緊張しているということになります。
眉間の緊張も、無意識の力みとしてよく見られます。考えごとをしているとき、パソコンやスマホを見ているとき、眉間にわずかなシワが寄っていないか、鏡を見るなりして確認してみてください。
歯を強く噛みしめてしまう(歯を喰いしばる)癖があることも多いです。特に、集中しているとき、ストレスを感じているときに多く見られますが、何もしていないときでさえ歯を強く噛みしめている人は少なくありません。今の自分がどのような状態なのか、歯に意識を移してみてもらいたいと思います。
腹部の緊張も見逃せません。お腹が常に固く、軽く触れると張っているように感じる場合、無意識のうちに腹筋を使って身体を支えている可能性があります。
手指につきましては、手を強く握りしめていたり、指先が固くなっていたり、ペンやスマホを必要以上に強く持っていたりすることがありますので、確認してみてください。
心の力みは、「失敗してはいけない」「急がなければ」「ちゃんとしなければ」「頑張らなければ」などと思うことが原因になります。もちろん、時と場合によっては大切な動機ですが、これが持続することが問題となるわけです。焦りや不安がある時は特に要注意ですので、今の自分の心の状態をそっと確かめてみてください。
人によっては上記以外の部分に力みが生じるケースがあるでしょうが、何よりもまず、力みのあることに気づくことが、対策の第一歩になります。また、そのような力みをすることは“悪い癖”というわけではなく、気づいた瞬間に緩めることができるサインのようなものだと捉えてもよいでしょう。
◆「力を抜く」練習をする
「力を抜く」という行為は、体と心を同時に整えるための、最も簡単で、最も効果の大きい方法です。ここでは、今日からできる“力の抜き方”をいくつか紹介します。
① 呼気を長くする
先ずは、息をゆっくりと吐くことから始めてみてください。息を吐くとき、胸や肩の緊張が自然にほどけ、副交感神経が静かに優位になります。深く吸おうとする必要はありません。静かに、長く吐くだけで十分です。目安としては「吐く:吸う=8:2」の秒数割合が良いでしょう。呼吸が整うと、それに連動して筋肉の緊張もほどけていきます。
② 脱力スキャン
次に、頭のてっぺんから足先まで、順番に“力が入っていないか”を確かめていく方法があります。いわゆる脱力スキャンです。眉間、目の周り、口元、肩、胸、腹部、太もも、ふくらはぎ、足先、など。一つひとつの部位に意識を向け、「ここに力が入っていないだろうか」と静かに確かめます。力を抜こうとする必要はありません。力が入っていたことに気づくだけで、筋肉は自然に緩みます。気づきが脱力を生むのです。
③ 顔の脱力
顔の緊張は、脳の緊張と直結しています。眉間のシワ、歯の噛みしめ、口角の強い緊張など、これらは交感神経を静かに押し上げ、疲労感を増やす原因になります。試しに、噛みしめをふっと緩めてみてください。それだけで、頭の中のざわつきが少し静まり、呼吸が深くなります。顔の脱力は、心の脱力でもあります。
④ 手指の緩め
手指の緊張も、全身の緊張と深くつながっています。疲れやすい人は、無意識に手を固く握りしめていることが多いものです。指先を軽く開き、手のひらを柔らかく保ち、ペンを強く握りすぎず、スマホを持つ手を緩めてみてください。手が緩むと、肩や首、胸の緊張が連動してほどけていきます。
⑤ 呼吸と姿勢をセットで整える
呼吸と姿勢をセットで整えることが大切です。背中が丸くなると呼吸が浅くなり、呼吸が浅くなると肩が上がり、肩が上がると首が固くなり、首が固くなると注意が内側に向き、DMNが活性化しやすく(脳疲労の主因に)なります。この連鎖を断ち切るために、胸を少しだけ開き、そのままゆっくりと息を吐いてみてください。それだけで、心身の緊張が静かにほどけていきます。
⑥ 心の力みを緩める
心にも力が入る瞬間があります。それは、「失敗してはいけない」「急がなければ」「ちゃんとしなければ」「頑張らなければ」などと思ってしまうことです。そこで、今の自分の心がどこに向いているのかを一度そっと確かめ、その“向き”を少しだけ緩めてみてください。
以上のような方法によって力みを解く(ほどく)ことは、怠けることではありません。むしろ、本来の力を発揮するために必要な準備です。力みが解けると、呼吸が深くなり、血流が良くなり、心と身体が同じ方向を向き始めます。スポーツのシーンや、試験の時間などでは、パフォーマンスの向上が見込まれます。しかも、疲れにくくなります。
また、“疲れやすさ”というのは体質ではなく、心身の使い方の癖によって大きく変わるということです。今日から、“力を抜く”ことの重要性にも意識を傾けてみてください。

◆ 水瀬あかりのひとこと
こんにちは、水瀬あかりです。
力を抜くことは、がんばらないことではありません。
むしろ、自分を大切に扱うための静かな選択です。
ほんの少し、力みがほどけるだけで、呼吸も、視界も、心の向きも変わっていきます。
疲れにくくなるだけでなく、それによって本当の実力が発揮できることも多いです。
どうか今日のどこかで、ひと呼吸ぶんの“ゆるみ”を自分に許してあげてください。
