日本では「初日の出」を拝む習慣がありますが、北の方に行くと、太陽が昇ってこない地域があり、そこでは当然のことながら、初日の出を拝むことが出来ません。ただ、太陽の恵みを最も感じているのも、そのような地域に住む人たちでしょう。その人たちが、最も大切に感じている太陽の姿を見るためには、春まで待つ必要があります。
そのような地域の中で、世界で最も北に在る町が、ロングイェールビーン(Longyearbyen)で、スヴァールバル諸島(Svalbard Archipelago;ノルウェー領)の一角に在ります。なお、その一風景を、掲載した図(高画質PDFはこちら)に引用させて頂きました。
1月は、まさに〝極夜(きょくや)〟の真っ只中であって、昼間に薄明かりになることも無く、真っ暗のまま1日が過ぎていきます。そのようなところで、ヒトがまともに生きていけるのか…ということが気になりますが、実際のところ、日照の問題よりも大きな問題が年々拡大してきており、そこに住む人々の健康や寿命に大きな影響を与えています。
「そんなところに住み続けなくても、もう少し南の方に移住すればよいのに…」と思うところでしょうが、そこで生まれ育った人にとっては、最も大切な故郷なのです。そして何より、この世とは思えない素晴らしい景色や自然現象を見ることが出来るのですから…。
左下の写真はオーロラを捉えたものです。特に2024~2025年は太陽活動が活発になるようで、オーロラの出現頻度も通常以上に高まっているそうです。また、景色としては、薄青緑色に輝く氷河や、氷河によって削り取られた地形、そこに雪が積もって一面が銀世界となった景色は、他の地域ではそう簡単には見られない壮大なものです。また、野生のトナカイが街中に居たり、キタキツネが居たり、要注意のシロクマが居たりするのも、他の地域では見られない光景でしょう。
さて問題は、本来ならば環境汚染とは無縁であるように思われる、この美しい地域の汚染です。北半球の場合、各地域で出されたものが、最終的に北極圏へと集まってきます。図の右上には、ロングイェールビーンの海岸に流れ着いたゴミの写真を採り上げました。海流としては、南の方からの暖流がロングイェールビーンの海岸まで流れてくるお陰で、ロングイェールビーンの平均最高気温は高緯度にしては温かめで、最も高くなる7月では7℃、最も低くなる1~3月ではマイナス13℃まで上がるのですが、その暖流が、他の国で捨てられたゴミを運んでくるわけです。
因みに、平均最低気温は、7月では3℃、2月ではマイナス21℃となっています。さすが、北極圏です。
更に深刻なのが、大気の流れによって北極圏にまで飛んでくる各種の大気汚染物質です。即ち、北半球の各国で排出された大気汚染物質、例えば、ブラックカーボン、水銀、PCB、PFAS(人工的な有機フッ素化合物)、マイクロプラスチックなどです。
なぜ大気が北極圏に向かうのかと言えば、温かい地域で温められた空気は上昇し、寒い地域で冷やされた空気は地上に降りてくるからです。これを地球規模で見ると、上空では赤道付近から極付近に向かって大気が流れ、地表付近では極付近から赤道付近に向かって大気が流れることになります。そのため、北半球の場合、上空まで運ばれた環境汚染物質は漏れなく北極圏まで運ばれ、下降気流によって北極圏の地面に落ちることになります。もちろん、地球の自転によって偏西風などの東西方向の空気の流れが生じますから、現実的には斜め北に向かって環境汚染物質が運ばれて行くことになります。要するに、風下になるのが北極圏だということになります。
他にも問題があります。国名を挙げるのは控えますが、産業廃棄物を処理する場合に、北極圏の永久凍土中に埋めておけば、永遠に凍っているから周囲に広がることは無いであろう…、と考えられて埋められてきた廃棄物があります。しかし、その永久凍土が、地球規模の温暖化のために融け始めているのです。融ければ土中の水分が動き出しますから、微生物や動植物による摂取および循環によって、廃棄物中の有害物質が地球規模で循環を始めることになります。今後、どんどんと汚染物質の流出量が増えていくと予想されます。
他にも問題があります。それは、永久凍土中には、ごく一般的な有機物も混じっているのですが、凍っているうちは微生物による分解・消費が止まっていました。ところが、永久凍土が融け始めると、含まれていた有機物の分解・消費が始まりますので、メタンや二酸化炭素などの温室効果ガスが増え始めることになります。即ち、北極圏の氷が融ける問題も大きいかも知れませんが、それよりも遥かに問題になるのが、永久凍土の融解だということになります。
まだ他にも問題があります。氷が融けることによって生じる問題なのですが、例えば0℃の氷が融けて0℃の水になるとき、ある一定のエネルギーが吸収されます。即ち、地球温暖化が進む場合に気温が上がってくると、その気温上昇分の何割かが氷の融解に使われますので、気温上昇が、ある程度は防がれることになります。しかし、氷が無くなってくると、温度上昇のエネルギーを吸収してくれていたものが無くなるわけですから、温暖化が進みやすくなるわけです。従いまして、温暖化の程度は、年々速まっていくと予想されます。
初詣に行って「今年は自分にとって〇〇な年になりますように」とお願いするのは勝手ですが、自分のことについては神頼みよりも、まず自分が努力することが先決です。そして、自分のことよりも、北極圏に済む人をこれ以上苦しめないように努力することや、世界中の人が環境汚染を継続しないようにお願いすることのほうが、遥かに重要だと思われます。では、北極圏を守ることを念頭に置いて、良いお正月をお過ごしください。