今日は、血管年齢について見てみたいと思います。巷には、血管年齢を測定する機器が何種類も存在しています。個人的に所有できる比較的安価な機器もありますし、クリニックなどで使用される高機能かつ高額な機器もあります。何を調べているのかと言えば、基本的には動脈硬化の程度を調べているわけですが、高価な機器ほど測定項目や測定箇所が多く、より詳細なデータが得られるようになっています。
検査の結果「あなたの血管年齢は○○歳です」と表示され、実際の年齢よりも若ければ喜び、老いていれば悲しむことになります。そして、家に帰ってから今度はインターネットにて「血管を若返らせる方法」を検索窓に入力して検索すると、様々な人(クリニックや健康関連会社)が様々な情報を発信しています。何が書いてあるかと言えば、大まかに言えば、食事の改善(減塩する・高糖質を避ける・動物性脂肪を減らす・野菜や果物などで抗酸化成分を摂る・大豆や魚などでタンパク質やω3を摂る・緑茶やルイボスティーを飲む)、適度な運動(ウォーキング・軽度の筋力トレーニング)やストレッチをする、その他の生活習慣の改善(充分な睡眠・過度のストレスを無くす・過度の飲酒をしない・禁煙する)、体の健康度の向上(糖尿病・脂質異常症・高血圧・肥満・歯周病などの解消)などが書かれています。
まぁ、そのような情報は、決して間違っているわけではないのですが、どのような健康問題にも当てはまりそうなオーソドックスな方法であって、血管年齢や動脈硬化の問題を解決するための的を射ているのかと言えば、少々不満が残るところでしょう。そこで今回は、事の本質を見ていきたいと思います。
では、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左下のグラフを見ていただくことにしましょう。これは、どこにでもあるような一般的なイメージ図なのですが、縦軸に〝動脈壁の硬さ〟、横軸に〝年齢〟が採られたものです。なお、同様のイメージ図の中には、縦軸に〝血管年齢〟が採られているものもありますが、〝動脈が硬い〟と〝血管年齢が進んでいる〟ことが、ほぼ同義であることを示しています。
さて、理想的には緑色の線で描かれているパターンが良いわけであり、即ち、年齢が進んでも動脈があまり硬くならないのが理想であることを示しています。ところが、平均的には、年齢が進むほど動脈が硬くなっていくことが一般的であり、この平均値に比べてどうなのかを調べることによって、血管年齢が算出されることになります。更に、平均以上に速く動脈硬化が現れる人は、特に心疾患や脳卒中をはじめとした循環器系の疾患にて寿命を縮められることになります。
では、平均的な場合における血管老化の原因を見てみることにしましょう。平均的というのは、血管年齢を測定してもらった結果「歳相応です」という判定が下った場合です。歳相応ならそれで良いじゃないかと思う人もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも当研究室には馴染みません。なぜなら、ヒトはもっと長く(120歳あたりまで)健康に生きられるはずなのに、現状での平均年齢は90歳前後になってしまっているからです。そして、その大きな原因の一つが血管の老化であり、即ち、動脈硬化です。
なぜ加齢と共に動脈が硬くなっていくのでしょうか…。結論を先に申し上げれば、タイトルに示しましたように〝血管年齢が高まる原因は石灰化と異常な線維化である〟ということです。この場合〝血管年齢が高まる=動脈が硬くなる〟です。
掲載しました図の左上と右下の図は、2024年に報告された新しいものから引用しております。先に左上の図から見ていきますと、これは動脈の血管壁中膜を占めている血管平滑筋細胞と、その周囲に広がる線維性のマトリックス(細胞外成分)の様子が示されたものです。そして、青色っぽく描かれている右側の細胞が、老化した血管平滑筋細胞です。
老化した血管平滑筋細胞からは、より多くの小型細胞外小胞(sEV)が放出されます。そして、この小型細胞外小胞内には、カルシウム(カルシウムイオン)と、アネキシン(別名;リポコルチン)というタンパク質が多く含まれていて、それによって周囲のマトリックス成分中における石灰化が促進されます。この石灰化というのは、結晶構造としては〝ヒドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)〟と呼ばれるものに相当します。要するに、血管平滑筋の周囲に広がっているコラーゲンやフィブロネクチンやエラスチンから成るマトリックスの中に、ヒドロキシアパタイトの結晶が生じて、それが増えていくことになります。その結果として、動脈の中膜が硬くなっていくことになります。
併せて、マトリックス成分の比率や構造にも変化が起き、即ち、コラーゲンとフィブロネクチンが沈着していくと共に、エラスチンの割合が減っていくことが確認されています。更に、不溶性のタンパク質であるアミロイドが形成されて凝集および沈着していくことも確認されています。これらによって、血管壁の弾力性が損なわれることになります。
以上の2つの機序によって、動脈壁の硬度が増すと共に、全体的な弾力性が失われることになります。この状態を、機器を用いて血管年齢を測定すると、それなりに動脈硬化が進んでいると判定されることになります。
もう一つ、血管の内側に、プラークと呼ばれる塊状の構造物が生じる場合があり、それはいわゆるアテローム性動脈硬化症なのですが、この場合も石灰化が伴います。掲載した図の右下の図において、その左下方に描かれている〝内膜の石灰化〟に、その様子が示されています。即ち、プラークの表面を覆っている血管内皮細胞の周囲に、コラーゲンなどの線維と共にヒドロキシアパタイトの結晶が生じています。
上述のようになった動脈を、CAVI(キャビィ)と呼ばれる動脈硬化の指標にて血管年齢を測定すると〝相当高い年齢になっている〟と判定されることになります。
では、血管年齢を若返らせるためには、何をどうすることに注力すれば良いでしょうか…? そうです、一つは、老化した平滑筋細胞を血管壁中に増やさないことです。本来、平滑筋細胞を老化させなければ良いのですが、老化してしまったからには、それを速やかに除去することが第一選択となります。そのためには、老化細胞除去効果の高い成分を摂ることが最も有効となります。具体的には『長寿のハダカデバネズミも老化細胞を完璧に除去していた』をご覧ください。因みに、それを達成するための成分としては、ケルセチンが非常に有効だということになります。
次に、石灰化の問題ですが、ヒドロキシアパタイトというのはCa5(PO4)3(OH)に代表される〝水酸化リン酸カルシウム〟の結晶です。何故こんなものが血管壁中に生じるのかですが、その最大原因につきましては『リンの過剰摂取も生活習慣病の大きな原因である』にて述べたとおりです。若干の復習をしておきますと、過剰のリンを摂取すると、体は血中に増加したリンを腎臓から排泄するために、副甲状腺ホルモン(パラトルモン、PTH)の分泌を亢進させます。しかし、PTHが担っている最大の役割は、カルシウムの血中濃度を高めることですので、骨の主成分であるリン酸カルシウムを骨から溶出させてカルシウムの血中濃度を高めようとします。その結果、骨密度の低下が起こるわけですが、併せて、骨から溶出してきたカルシウムとリンは、その時点では不必要な増加となりますから、両者が結合してリン酸カルシウムを形成することになり、いわゆる異所石灰化、動脈硬化のうちの中膜硬化が進むことになるわけです。従いまして、食生活における最重要ポイントは、リンを過剰に含む食品、特にリン酸化合物は食品添加物として多用されていますので、工場内で加工されて流通している食品を出来る限り避けることだということになります。
もう一つ追加しておきますと、マグネシウム不足にならないことです。カルシウムとマグネシウムの比率も大変重要で、体は一定の比率を保とうとします。そのため、マグネシウムが少ない場合はカルシウムが相対的に過剰になりますから、余剰のカルシウムが異所石灰化を促すことになります。
以上、血管を若返らせるキーワードは、〝+ケルセチン〟、〝-リン〟、〝+マグネシウム〟だということになります。