痩せるためにファスティングを行う場合の注意点と戦略

痩せるためにファスティングを行う場合の注意点と戦略

 何気なくYouTubeの検索窓に「断食」とか「ファスティング」などと入れて検索してみると、なんと莫大な数の動画が挙がってきます。発信している人も実に様々で、ユーチューバーっぽい人、普段は全く他分野の仕事をされていそうな人、何らかのセラピストと名乗る人、管理栄養士をはじめとした栄養関係者、医師をはじめとした医療従事者など、実に様々です。また、その内容も様々で、16時間ファスティングが良いとか悪いとか、ファスティングでとんでもないことになったとか、2週間断食して凄い効果があったとか…。こんな動画を何個か見た場合「一体何が本当なのだ??」と感じて当然だと思いました。
 なぜ、こんなにふうに多くの人が軽い気持ちで動画を配信する世の中になってしまったのでしょうか。今さらユーチューバーで稼ごうとされているのでしょうか…。まぁ、配信する方は、縛りの殆ど無い媒体が提供されているわけですから、思う存分頑張ればよいとは思うのですが、これを見る側の人がいらっしゃるわけですから、その人たちは大いに迷ってしまうことになります。基本的に、娯楽以外でYpuTubeを見るのはやめた方が賢明だと思います。
 また、「ダイエット」という日本語は英語の「diet」から取られたのだとは思うのですが、「痩せること」と同義で使われて氾濫しています。非常に嘆かわしい現実ですが、この語を検索窓に入れて検索すれば、更なる莫大な数の動画が、際限なく検索結果として挙がってきます。若い世代の子たちが、このようなものを見るのかなぁと、かなり心配になりました。無駄な時間を過ごすことになり、学力低下に繋がることは間違いありません。
 そして、「ファスティング」と「ダイエット」の両方をキーワードにして放り込んだ場合、同様に様々な動画が際限なく検索結果に挙がってきます。結果として「痩せた」とか「失敗した」とか「成功させる方法」とか、もう何でもあります。そして、そのようなものは出来るだけ見ないようにして欲しいと思いました。

 ファスティングは、充分に注意して行わなければなりませんし、これによって健康を増進させたいのであれば、必ず併行して行わなければならないことが多くあります。これまでにupした記事に『グルタミン摂取が途絶えると小腸粘膜はボロボロと剥がれ落ちていく』、『完全に絶食した場合の血中における主要成分の濃度変化』、『自然界がもたらすファスティングの様子』、『リスクを回避しながら断食(ファスティング)を行う方法』などがありますので、今回の記事は、その続きになります。
 そして、内容は「痩せるためにファスティングを行ってみたい」と思う人向けに書いてみたいと思います。

 食べなければ、エネルギーとして消費されてしまう分や、使えないため排泄されてしまう分がありますから、体重は必ず減っていきます。このとき、多くの人は、体内がどのように変化していくのかを気にすることなく、体重計の数値を見て、その数値が減ることを願っていらっしゃるように思えます。これは、〝体重が減る=痩せる〟という非常に危険な解釈をされていることになります。体重計が存在するからこそ、そのような短絡思考に走ってしまうわけですから、体重計などは無いほうが健康のために良いのではないかと思います。体重計が家に在っても頻繁に乗らないでください。出た数値がどうであろうが、食べなければならないものは食べなければならないわけですし、食べてはいけないものは食べてはいけないのです。

 ところで、痩せたいと思う人は、基本的には太っている人のはずです。太っていないのに痩せたいと思う人は、健康を害しますから痩せたいなどと思わないでください。日本人の場合、健康寿命が最も長いのは、少々ふっくらしている人です。筋肉量はもちろんですが、特に皮下脂肪脂肪の量(脂肪細胞のサイズ)も大切な役割を果たしていますので、少々ふっくらの方が良いのです。なお、BMIという指標は身長と体重から算出するため、筋肉量や脂肪量の関係が解りませんので、使わないほうが賢明です。

 では、本論に入っていきます。まず、痩せるためにファスティングを行う場合の注意点を述べます。掲載した図(高画質PDFはこちら)の左上に①~⑤まで箇条書きにしておきました。即ち、① 体脂肪貯蔵機能(エネルギー備蓄機能)を高めないこと、② 血中脂肪酸濃度を高めないこと、③ 筋肉量を減らさないこと、④ 基礎代謝量を減らさないこと、⑤ 腸内細菌叢を単純化させないこと、の5つです。これらをまとめて一言で言うならば〝太りやすい体に変化させてしまわないこと〟になります。
 痩せるためにファスティングを行ったけれども失敗したという場合、ファスティングによって太りやすい体質に変えてしまったことが大きな原因になっています。

 上記の注意事項をクリアするために、次のような目標を掲げます。即ち、<1> 太りにくい体質に変える、<2> 筋肉量を増やす、<3> 基礎代謝量を増やす、<4> 腸内細菌叢を改善する、4つです。
 この目標を達成するために、掲載した図の右半分に掲げた全てのことを行います。なお、説明のために、目標に掲げた括りで述べていきます。
 <1> 太りにくい体質に変えるためには、比較的長時間の空腹が繰り返される状態を作らないことです。これは、いわゆる倹約遺伝子の発現を高めないことになります。たまにファスティングを行うことは問題無いと思われますが、例えば「毎日16時間断食」などをYouTubeで見たからと言って、これをある一定期間実践すると、それによって太りやすい体に変化します。永遠に16時間断食を繰り返せばそれで良いのですが、それをやめた途端に一気に太ってしまうことになります。
 これを防ぐために、痩せるためのファスティングでは「糖質」を比較的多めに摂ります。「そんなことしたら痩せないのでは…」と思われるかもしれないですが、そう思って糖質の摂取量を抑えるからこそ、倹約遺伝子の発現レベルが高まっていくのです。
 どの程度摂れば良いのかと言えば、空腹感を感じないようにする最少量を適宜摂る、ということを目安にすれば結構です。空腹感というのは血糖値との相関が強いですから、意外と正確な目安になるわけです。

 <2> 筋肉量を増やすというのは、太りにくい体質に変えるための対策の一つになります。これを実現するために、ファスティング中は軽負荷の筋トレを行うと共に、アミノ酸としてグルタミン、BCAAとHMB、シトルリン、必須アミノ酸混合物(EAA)の摂取を行います。
 筋トレの負荷をあまり高めないようにする理由は、基本的にはファスティング中であるためタンパク質や糖質が不足しているからです。この状態で負荷をあまり高めてしまうと、筋肉の分解量を増やしてしまうことになります。逆に、筋トレをしなければ、使わなくなった筋肉が分解されてしまうことになりますので、筋トレは必須です。

 <3> 基礎代謝量を増やすことについてですが、ファスティング中は少なからず体が省エネモードに切り替わって、体温低下と共に基礎代謝量が低下していきます。その状態が定着しないように、ファスティング中は消費エネルギーを普段レベルに維持しておく必要があります。
 具体的には、体熱産生を多く行わせればエネルギー消費量が大きく増えますから、冷水浴などを行うと効果的です。涼しい時期であれば、出来るだけ薄着にすることで白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞へと変化し、太りにくい体へと変化します。
 もう一つ、注意点として血中脂肪酸濃度を高めないことを挙げました。これは、ファスティングによって糖質の摂取量が減ると、体内の貯蔵脂肪が大いに使われ始めて血中に脂肪酸が多く遊離してきます。これを上手く処分しなければ、健康被害だけでなく貯蔵組織への脂肪の逆戻りになります。そうさせないように、L-カルニチンを補給し、ミトコンドリアによる消費を促すことが重要になります。また、糖質を多めに摂ることも、血中脂肪濃度を高め過ぎないための対策になっています。

 <4> 腸内細菌叢を改善することについてですが、肥満や、太りやすい体質の原因が腸内細菌叢にある場合があるからです。痩せている人の腸内細菌叢を、太っている人の腸内に導入する治療が行われることがあり、一定の効果を得ています。従いまして、健全な腸内細菌叢を維持または構築するために、ファスティング中であってもその餌になる食物繊維を、ファスティング中であってもしっかりと補給することが大切になります。

 その他、表に挙げている「必須」の成分は、必ず補給するようにしてください。個々の説明につきましては『リスクを回避しながら断食(ファスティング)を行う方法』にて紹介していますので、必要に応じてご確認ください。

 短くまとめるつもりが、結構長くなってしまいました。ファスティングにオートファジーを期待する他者の動画も多いのですが、これは酵母などの単細胞生物の場合のオートファジーと違って、多細胞であるヒトの場合にオートファジーが進むのは主に筋肉細胞や肝細胞であって、他の細胞に対する影響は少ないのです。その結果、骨格筋や平滑筋、肝臓の機能が一時的に低下する可能性があるわけですので、ファスティングの効果を美化した動画などにはご注意ください。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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