体格あたりの筋力が大きいほど死亡率は低くなる

体格あたりの筋力が大きいほど死亡率は低くなる

 この記事の一つ前は、アスリート(スポーツ選手)の寿命と、そのアスリートが従事する競技の種類との関係(寿命を延ばすスポーツと寿命を縮めるスポーツ)を見てみました。長寿になる競技のベスト5を復習しておきますと、第1位から順に、棒高跳びが8.4年長寿、体操が8.2年長寿、フェンシングが6.6年長寿、ターゲティングスポーツが6.2年長寿、ラケットスポーツが5.7年長寿ということでした。
 そこで今回は、非アスリートの場合を見てみることにしたいと思います。なかでも、比較的高齢な人たちを対象とした筋力と死亡率の関係や、大腿部の太さと死亡率の関係を調べた結果がありますので、それを紹介しながら、健康長寿の秘訣を探ってみようと思います。

 何はともあれ、データを見てみることにしましょう。掲載した図(高画質PDFはこちら)の左半分は、被験者2,292名(年齢70〜79歳、女性51.6%)の筋力(握力と膝伸展力)を測定後に、5年以上の追跡調査が行われた結果です。そして、調査期間中に286人が死亡しましたので、先に測定しておいた握力や膝伸展力と死亡率との関係が解析されました。なお、解析に当たっては、筋力の大小に基づいて4グループに分けられました。
 結果はグラフに示されているのですが、上段は、握力と死亡率の関係です。死亡率が最も低かったのは、握力が最も大きかったグループです。即ち、追跡調査期間中に死亡した人の数が最も少なかったということです。逆に、死亡率が最も高かったのは、握力が最も小さかったグループです。なお、中間に位置する残りの2グループの死亡率は、同様に握力が大きいほど死亡率が低くなっています。全体を見てみると、握力が大きいほど長生きする、という奇麗な傾向が見られたということです。
 次に、下段のグラフですが、これは膝伸展力と死亡率の関係を見たものです。死亡率が最も低かったのは、膝伸展力が最も大きかったグループです。逆に、死亡率が最も高かったのは、膝伸展力が最も小さかったグループです。同様に全体を見てみると、膝伸展力が大きいほど長生きするという傾向が見られたことになります。なお、注目すべき点としましては、膝伸展力が最も小さいグループは、極端に死亡率が高くなっていることです。
 膝伸展力というのは、膝を曲げた状態から立ち上がるときに使う筋力です。大腿四頭筋が主となる筋肉で、太ももの表側の筋肉群のことになります。被験者は、70~79歳の年齢の時に筋力を計測されていますから、まだ普通に生活しているときの筋力を示しています。しかし、当時は大丈夫であったものの、年月が経つにつれて急速に筋力が衰えて行き、寿命を縮める結果になってしまったということになります。大変怖いことだと言えます。

 では、別のデータを見てみることにします。掲載した図の右半分なのですが、被験者1,704人(男性69歳±11歳が765人、女性69歳±9歳が939人)が、8年間にわたって追跡調査された結果です。そして、その調査期間中に158人が死亡し、各種の身体計測のデータと照らし合わされました。その結果の中で特に目を引いたのが、太ももの太さと死亡率の関係です。その中でも著しい傾向が見られたのが、股関節周囲長(ヒップのサイズ)に対する大腿周囲長(太ももの周囲長)の大きさと、死亡率のとの関係です。
 グラフの上段が男性、下段が女性なのですが、両者とも、太ももが細かった人(ヒップのサイズに対する太ももの周囲長が小さかった人)が、極度に死亡率が高かったことが判ります。逆に、太ももが太かった人(ヒップのサイズに対する太ももの周囲長が大きかった人)は、死亡率が低いという結果になりました。
 因みに、ヒップのサイズとの関係を指標にする理由は、太ももの太さが脂肪によるものなのか筋肉によるものなのかを判別するためです。例えば、太ももが太くても、ヒップも太い人は、単に太っているだけで、筋肉量は少ないと判断されます。図中に「理想体型」として比較的若い女性の写真を引用しましたが、このようなタイプの人はヒップのサイズ(股関節周囲長)はあまり大きくなく、太もものサイズは非常に大きいことになり、将来的な死亡率は非常に低いことが予想されるわけです。

 以上の2つのデータから言えることは、特に大腿四頭筋の筋力が大きいほど、寿命が大きく延長されることです。大腿四頭筋は、上述しましたように、立ち上がるときに必要な筋肉であることが一つです。二つ目は、人体の中で最も大きな筋肉群であり、そこから放出されるマイオカインなどが多量であることです。三つめは、日頃に運動の習慣が有るか無いかを最も反映している筋肉群だということです。
 では、アスリートの場合と照らし合わせてみましょう。おおよそ、どのスポーツも下半身は非常に重要ですので、大腿四頭筋が貧弱であるアスリートは殆どいないのではないかと思われます。そのため、アスリート全員を平均すれば、非アスリートよりも寿命が長くなっています。ただ、個々に見て行けば、筋肉量の多さからくるメリットを超える何らかのデメリットが大きい競技ほど、寿命延長効果が打ち消されることになるわけです。

 以前に、歩数と寿命の関係について見てみましたが、普通に散歩していたのでは大腿四頭筋を効率よく鍛えることは出来ませんので、延命効果も限られたものになります。特に高年齢者の場合、筋トレをしたり、ウェイトを背負って階段を上ったりなどのトレーニングをすることなく、単に散歩だけしていらっしゃる人の割合が相当高いと思われます。その状態では加齢と共に筋力が衰える一方ですので、別に対策を行う必要があります。それについては次回に見て行こうと思いますので、楽しみにしていてください。

 
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