アルコール代謝の第二段階:個人差の最大原因であるALDH2の遺伝子多型

アルコール代謝の第二段階:個人差の最大原因であるALDH2の遺伝子多型
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◆ はじめに
 前回の記事では、アルコール代謝の第一段階として、エタノールをアセトアルデヒドへと変換する酵素 “ADH1” の働きと、その個人差について紹介しました。飲んだアルコールが体内でどのように姿を変えていくのか、その最初のステップを理解していただけたのではないかと思います。

 そして、飲酒後の体調の変化を最も大きく左右しているのは、アルコール代謝の第二段階、即ち、エタノールから変換されて生じた毒性の強いアセトアルデヒドを、速やかに酢酸へと変換する酵素 “ALDH2” の働き方です。このALDH2の能力には、ADH1以上に大きな個人差が存在していて、日本人の体質を語る上で欠かすことのできない重要なテーマになります。

 今回の記事では、ALDH2の役割と、その遺伝子多型(N型・D型)が、どのように体質差を生み出しているのかを、できるだけ分かりやすく整理していこうと思います。前回の内容と合わせて読んでいただくことで、飲酒時の体調の違いがどこから生じるのか、その全体像がより鮮明に見えてくるはずです。

◆ アルコール代謝の第二段階で働くALDH2の役割
 前回の記事で紹介しましたように、飲んだエタノールは、まずADH1によってアセトアルデヒドへと変換されます。そして、このアセトアルデヒドは、エタノールよりも毒性が強く、血中濃度が高まると、顔面紅潮、動悸、頭痛、吐き気、不快感など、いわゆる「酒に弱い人」が感じる症状の原因になります。従いまして、アルコール代謝の第二段階では、このアセトアルデヒドを速やかに無毒化することが極めて重要になります。

 この第二段階を担う酵素が、アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase;ALDH;特に ALDH2)です。ALDH2は肝臓のミトコンドリアに存在し、アセトアルデヒドを酢酸へと変換する役割を担っています。因みに、ALDH2の他には、これをサポートするALDH1や、体内の油やアミノ酸の代謝に関わるALDHの仲間があるのですが、それらにつきましては割愛します。
 生じた酢酸は、毒性のほぼ無い物質であり、血流によって筋肉や心臓、脳などの組織へ運ばれ、エネルギー源として利用されます。
 つまり、ALDH2は「毒を安全な物質へと変換する」ための、アルコール代謝における最重要酵素と言えるでしょう。

 この段階が滞ると、アセトアルデヒドの血中濃度が高まり、それが体内に長く留まり、強い不快感や体調不良を引き起こします。逆に、この段階がスムーズに進む人は、アセトアルデヒドが速やかに処理されますので、飲酒時の不快感が少なく、比較的「酒に強い」と感じられることになります。

◆ ALDH2に存在する遺伝子多型の概略
 ALDH2の働き方には、前回お話しましたADH1以上に大きな個人差が存在しています。その理由は、ALDH2には、N型(Normal[正常型 / 活性型];ALDH2*1)と、D型(Deficient[欠損型 / 不活性型];ALDH2*2)と呼ばれる、二つの主要な遺伝子多型(polymorphism)があるからです。
 これは、ALDH2 の遺伝子のごく一部に “一塩基の違い(アミノ酸の置換)” が生じているためで、そのわずかな違いによって酵素の立体構造が変化し、アセトアルデヒドを処理する能力に大きな差が生まれるのです。

 N型(ALDH2*1)は、アセトアルデヒドを効率よく酢酸へと変換できる“正常型(活性型)”であり、欧米人のほぼ全員がこの型を持っています。
 D型(ALDH2*2)は、アセトアルデヒドを処理する能力が著しく低下した“欠損型 (不活性型)であり、これは進化的には比較的新しく、東アジアの集団で高頻度に見られる特徴的な多型です。人類がアフリカから世界へ広がる過程で、この変異が東アジアに定着したと考えられています。

 遺伝子は両親から一つずつ受け継ぎますので、N型とD型の組み合わせとして、次の三種類が生じます。

◆ 遺伝子の組み合わせによる3つのタイプ(NN型・ND型・DD型)の概略
① NN型(活性型)
 ・両親から共にN型を受け継いだ組み合わせ
 ・ALDH2が正常に働き、アセトアルデヒドを速やかに処理できる

② ND型(低活性型)
 ・片方の親からN型、もう片方からD型を受け継いだ組み合わせ
 ・ALDH2の働きは弱く、アセトアルデヒドが体内に蓄積しやすい

③ DD型(不活性型)
 ・両親から共にD型を受け継いだ組み合わせ
 ・ALDH2がほぼ働かず、アセトアルデヒドを処理できない。

 この三種類の違いが、飲酒時の体調の差を決定づける最大の要因になります。特に ND型と DD型は、アセトアルデヒドが体内に蓄積しやすいため、顔面紅潮、動悸、頭痛、吐き気などの症状が強く出やすく、いわゆる「酒に弱い体質」として知られています。逆に、NN型の人は、アセトアルデヒドが速やかに処理されるため、比較的「酒に強い」と感じられることになります。

◆ 日本人におけるALDH2多型の割合と地域差
 ここまで紹介しましたように、ALDH2には、NN型・ND型・DD型という三つの組み合わせが存在しますが、これらの型が日本人全体でどの程度の割合を占めているのかを整理しておくことは、体質の理解において非常に重要です。日本人のALDH2多型の分布は、複数の疫学研究でほぼ共通した傾向が示されており、概ね次のような割合になります。

NN型(活性型):約50〜60%
ND型(低活性型):約35〜45%
DD型(不活性型):約3〜5%

 この割合は、研究によって多少の揺らぎがありますが、日本人全体としましては上記のようになります。
 世界的に見ますと、欧米人ではほぼ全員がNN型(活性型)なのですが、東アジアにおいてND型(低活性型)やDD型(不活性型)が見られるようになります。

 また、日本国内でも、時代を遡るほど地域差が確認できたのですが、広域な人の移動によって、今では地域差はほぼ失われていると言った方が正しいでしょう。結局、日本人の約半数は活性型(NN型)であり、残りの半数近くは低活性型(ND型)、そして約3〜5%の人が不活性型(DD型)だということになります。

◆ ND型やDD型が引き起こす体調変化や健康リスク
 ここまで述べてきましたように、ALDH2には、NN型・ND型・DD型という三つの組み合わせが存在しますが、飲酒時の体調の違いを最も大きく左右しているのは、このうちND型(低活性型)とDD型(不活性型)の二つです。
 これらの型を持つ人は、アセトアルデヒドを酢酸へと変換する能力が弱いため、体内にアセトアルデヒドが蓄積しやすく、その結果として特有の体調変化が生じます。

【1】ND型(低活性型)では、ALDH2としての働きがNN型(活性型)の半分以下に低下しています。そのため、飲酒後にアセトアルデヒドが一時的に高まりやすく、顔面紅潮、動悸、頭痛、吐き気、不快感などの症状が比較的強く出ます。そして「少しなら飲めるが、すぐにしんどくなる」という体感を持つことが多く、いわゆる“酒に弱い体質”の典型例と言えるでしょう。

【2】DD型(不活性型)は、ALDH2としてほぼ働かない組み合わせであり、アセトアルデヒドを酢酸へと変換する能力が著しく低下しています。そのため、少量の飲酒でも強い不快感が生じ、顔が真っ赤になる、動悸が激しくなる、頭痛や吐き気が強く出るなど、明確な症状が現れます。いわゆる「全く酒が飲めない体質」であり、飲酒を避けることが生理学的にも重要となるタイプです。

 併せて重要なことは、ND型やDD型の人では、アセトアルデヒドが体内に長く留まりやすいことから、長期的な健康リスクが高まる点です。アセトアルデヒドは国際がん研究機関(IARC)によって「ヒトに対して発がん性がある」と分類されていて、特に “食道がん”や“頭頸部がん”のリスク上昇が知られています。

 このように、ND型やDD型の人は、飲酒時の体調変化だけでなく、長期的な健康リスクにも注意が必要です。逆に NN型の人はアセトアルデヒドを速やかに処理できるため、飲酒時の不快感が少なく、健康リスクも比較的低い傾向があります。つまり、ALDH2の遺伝子多型は、単なる「酒の強さ」だけではなく、飲酒習慣の安全性そのものを左右する重要な因子であると言えるでしょう。

◆ ADH1BとALDH2の組み合わせが生む体質の全体像
 前回記事から今回記事まで、アルコール代謝の第一段階を担うADH1Bと、第二段階を担うALDH2について、それぞれの働き方と遺伝子多型による個人差を整理してきました。そして、実際には、ADH1BとALDH2は連続した一つの代謝経路を構成していますので、その組み合わせによって飲酒に伴う体質の全体像が決まることになります。

 まず、全体を再整理しておきましょう。ADH1Bは、エタノールをアセトアルデヒドへと変換する酵素であり、日本人の約9割が高活性型であるADH1B*2を持っています。この型を持つ人は、エタノールが急速にアセトアルデヒドへと変換されますので、血中エタノール濃度が上がりにくく、いわゆる「酔い」の感覚が出にくいという特徴があります。つまり、ADH1B*2は「酔いにくい体質」を生み出す要因になります。しかし、次のようなデメリットを生じることになるわけです。

 それは、アセトアルデヒドの体内濃度が急上昇しやすいことです。アセトアルデヒドを酢酸へと変換する酵素であるALDH2は、日本人ではND型(低活性型)が非常に多く存在し、DD型(不活性型)の人も存在します。これらの型を持つ人は、アセトアルデヒドを処理する能力が弱いため、アセトアルデヒドが体内に蓄積しやすく、顔面紅潮、動悸、頭痛、吐き気、不快感などの症状が強く出ます。つまり、ALDH2の低活性型は「しんどくなる体質」を生み出す要因になります。

 ここで重要なことは、日本人の多くが「ADH1Bは速いのに、ALDH2は遅い」という組み合わせを持っていることです。これは、代謝経路の前半が高速で進むのに対し、後半が追いつかないという構図を生み出すわけです。

 では、アルコール代謝の第一段階と第二段階に関わる2種類の酵素組み合わせと、その組み合わせによって生まれる特徴をまとめておきます。

《パターン1》
 ADH1B*2(高活性型)+ALDH2 NN型(活性型)
 この組み合わせは、エタノールをアセトアルデヒドへ変換する速度が速く、さらにアセトアルデヒドを酢酸へ変換する能力も十分に備わっています。
 そのため、飲酒後は「酔いにくく、しんどくなりにくい」という体感が得られ、比較的酒に強い体質になります。欧米型の体質に近く、日本人では最も快適に飲酒できる組み合わせと言えるでしょう。 

《パターン2》
 ADH1B*2(高活性型)+ALDH2 ND型(低活性型)
 エタノールをアセトアルデヒドへ変換する速度は非常に速いものの、アセトアルデヒドを酢酸へ変換する能力が弱い組み合わせです。
 そのため、飲酒後は「酔いにくいのに、毒性症状が強く出る」という特徴が生じます。東アジア型の典型であり、日本人に最も多い体質です。体感としては「まだ飲めるのに、すぐ気分が悪くなる」という特徴が見られます。 

《パターン3》
 ADH1B*2(高活性型)+ALDH2 DD型(不活性型)
 エタノールをアセトアルデヒドへ変換する速度は速いものの、アセトアルデヒドを酢酸へ変換する能力がほぼ失われている組み合わせです。
 そのため、少量の飲酒でもアセトアルデヒドが急激に蓄積し、強い不快感が生じます。顔面紅潮、動悸、頭痛、吐き気などが顕著に現れ、生理学的に飲酒が困難な体質です。健康リスクの観点からも飲酒を避けることが望ましいタイプです。 

《パターン4》
 ADH1B*1(低活性型)+ALDH2 NN型(活性型)
 エタノールをアセトアルデヒドへ変換する速度が遅く、アセトアルデヒドを酢酸へ変換する能力は十分に備わっている組み合わせです。
 そのため、飲酒後は「酔いやすいが、毒性症状は出にくい」という特徴が生じます。欧米人に多い体質であり、いわゆる“気持ちよく酔える”タイプです。日本人では少数派ですが、飲酒時の不快感が少ない組み合わせです。 

《パターン5》
 ADH1B*1(低活性型)+ALDH2 ND型(低活性型)
 エタノールをアセトアルデヒドへ変換する速度が遅く、さらにアセトアルデヒドを酢酸へ変換する能力も弱い組み合わせです。
 そのため、飲酒後は「酔いやすく、しかも後からしんどくなる」という二重の負担が生じます。欧米型の“酔いやすいがしんどくならない”体質とは異なり、東アジア型の毒性症状も併せ持つため、飲酒時の体調変化は比較的強く出ます。日本人では少数派ですが、「すぐ酔うし、すぐ気分が悪くなる」という特徴が見られます。

《パターン6》
 ADH1B*1(低活性型)+ALDH2 DD型(不活性型)
 エタノールの処理も遅く、アセトアルデヒドの処理はほぼできないという、最も飲酒に不向きな組み合わせです。
 少量の飲酒でも強い不快感が生じ、顔面紅潮、動悸、頭痛、吐き気などが顕著に現れます。生理学的には「飲酒が困難な体質」であり、健康リスクの観点からも飲酒を避けることが望ましいタイプです。日本人では極めて少数ですが、体質としては最も“酒に弱い”組み合わせと言えるでしょう。

◆ まとめ
 アルコール代謝は、エタノールをアセトアルデヒドへ変換する第一段階(ADH1B)と、アセトアルデヒドを酢酸へ変換する第二段階(ALDH2)という、二つの連続した反応によって進みます。この二段階のうち、どちらがどの程度の速さで働くのか、その違いこそが、飲酒時の体調の差を生み出す体質の本質です。

 日本人の多くは、ADH1Bが高活性型である一方、ALDH2が低活性型または不活性型であるという特徴的な組み合わせを持っています。つまり、代謝の前半は速いのに、後半が追いつかないという構図が生じやすく、アセトアルデヒドが体内に蓄積しやすい体質が一般的に見られます。これが「酔いにくいのに、すぐしんどくなる」という東アジア特有の体感を生み出しています。
 余談ではありますが、数十年前には、「ワシの酒が呑めんのか!」などと言って、強引に飲酒させる習慣が残っていました。また、後輩に一気飲みをさせ、結果として命を奪ってしまった事件も多く発生しました。DD型の人にそのような飲酒をさせれば、少量であっても危険な状態になります。“無知”とは恐ろしいものです。

 一方、欧米人に多い組み合わせでは、ADH1Bが低活性型であるために酔いやすいものの、ALDH2が活性型であるために毒性症状は出にくく、比較的快適に飲酒できる体質が形成されます。つまり、ADH1BとALDH2の組み合わせは、単なる「酒に強い・弱い」という感覚だけでなく、飲酒時の安全性や健康リスクを左右する重要な因子となります。

 今回の記事では、ALDH2の遺伝子多型(NN型・ND型・DD型)と、ADH1Bとの組み合わせによって生じる体質の全体像を整理しました。前回のADH1Bの記事と合わせて読んでいただくことで、飲酒時の体調の違いがどこから生じるのか、その生物学的な背景がより明確に理解できるはずです。
 自分の体質を知ることは、単に「どれだけ飲めるか」を判断するためだけではなく、健康を守るためにも大切な視点です。体質に合った飲み方を選ぶことが、長期的な健康リスクを避けるための最も確実な方法と言えるでしょう。

 
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