米の命を守る外皮は人の命をも守る

γ-オリザノール、フェルラ酸、GABA、アラビノキシラン、フィチン酸などの効果

今日は、玄米の外皮、即ち〝果皮〟や〝種皮〟に多く含まれている機能性成分についてご紹介することにします。
 どの植物の種子でも同様のことが言えるのですが、イネの赤ちゃんの元、即ち〝卵細胞〟が格納されている場所が〝胚芽〟の部分で、イネの芽が出るときは、この胚芽の中の卵細胞が分裂・増殖・分化していくことによってイネの赤ちゃんが誕生します。そして、芽を出すまでは、卵細胞を、外界の様々な脅威から守る必要があります。そのための仕組みとして、周囲に種皮や果皮などの外皮を設け、その外皮中に様々な機能性成分を配備した、ということになります。
 外皮は総じて、大気中の酸素による酸化を防いだり、紫外線の侵入を防いだり、細菌やカビによる侵食を防いだりする必要があります。そのために、植物の何億年という進化の過程を経て、様々な機能性成分を作り出す方法を獲得しました。非常に多くの種類の成分が存在している理由は、進化の過程における工夫の賜物だと言えます。言い方を変えるならば、1種類の物質では実現できないようなことでも、種々の目的に特化した成分が協働することによって、卵細胞を強力に防御できるようになったというわけです。

 人類が稲作を始める前から野生のイネが存在しており、その種子(今で言う「米」)については、多くは鳥や昆虫が食べていました。今でも、スズメなどの鳥は田んぼのイネの種子を丸ごと食べています。もし、スズメに白米を与え続ければ、彼らは栄養失調で病気になり、長生きはできないことでしょう。それは即ち、外敵を守る為に作られた外皮中の各種成分は、鳥などの動物にとっては貴重な栄養源であり、病気を防ぐための機能性成分にもなっていた、ということです。
 イネにとっては防御成分でしたが、それを食べるスズメなどの鳥にとっては貴重な成分であった理由は、これも長い進化の歴史において両者の関係性が築き上げられた結果だということになります。巷には「玄米には毒があるから精米して食べるべきだ」と言い張る人がいて、先日もそのような人に出会いました。どの成分が有毒なのかを問いただしても、当然のことながら答えはありませんでした。そういった誤情報を自らしっかりと確かめもせず、あたかも真実のように強く主張する人間が何割か存在していることを非常に残念に思いました。
 話が逸れましたが、人類に限定すれば、イネの種子(米)との付き合いは何千年という長期にわたっています。それだけ長く食べ続けると、例えばコアラが有毒なユーカリ中の成分に耐性を獲得していることと同様に、万が一、米に毒性の強い成分が入っていたとしても、長い付き合いの歴史において耐性を獲得しているはずです。実際のところ、米の外皮には、そのような強い毒性を示す物質は含まれていません。掲載した図(高画質PDFはこちら)の右下に補足を書いておきましたが、アブシシン酸(アブシジン酸)という植物ホルモンが含まれているのですが、これがヒトに対して毒性を示すためには、玄米を通常量の25万倍食べなければならないという研究結果になっています。これを気にするようなら、ブドウ糖のほうが余程強い毒性を示す物質ですよ、と言うことになります。

 先にアブシシン酸の話になりましたが、これは巷にバラまかれている噂とは正反対だと言える効能が確認されています。それは即ち、血糖値の上昇を緩和させたり、糖代謝を適切に調整したり、ストレス反応を適切に調整したり、などということです。玄米ご飯を食べたときに血糖値が殆ど高まらない理由の一つとして、この物質を挙げることが出来ます。ただし、これは植物ホルモンですから、ホルモンというだけあって極微量ですので、問題にもならない量だということになります。
 では、玄米の外皮(果皮や種皮)に含まれている成分と効能(ヒトに対する機能的効果)について話を進めます。図にまとめておいたのですが、その文章を下に羅列しておくことにします。

◆γ-オリザノール(ガンマ-オリザノール)
 高脂血症や脂質異常症の改善・コレステロール吸収の抑制、更年期障害・不定愁訴・心身症の改善、動物性脂肪への嗜好や依存を緩和、糖尿病の改善・予防、血圧の安定化、がん・その他の生活習慣病の予防、脳機能・自律神経失調症の改善、酸化ストレスの軽減、臓器の保護、紫外線防止、シミや小じわの予防
◆フェルラ酸
 ラジカル捕捉作用(抗酸化作用)、アルツハイマー型認知症の予防、抗がん作用、抗老化作用
◆γ-アミノ酪酸(GABA)
 鎮静、抗痙攣、抗不安・精神安定作用
◆アラビノキシラン
 NK細胞の活性化(食物繊維;ヘミセルロースの一種)
◆フィチン酸
 抗がん作用、抗老化作用、デトックス作用、結石や歯石の予防(米が既にミネラルを捕捉しているため、それ以上に体内のミネラルを奪うことは無い)
◆イノシトール
 神経症状の防止、脂肪肝・動脈硬化・高脂血症の改善
◆アブシシン酸(多くの植物が利用している植物ホルモンであり、極微量)
 血糖値上昇の緩和、糖代謝・ストレス反応の調整
(毒性を示す量を摂ろうとすると、通常の玄米食の25万倍を摂らなければならない)
◆【抗がん作用を示した図中の成分】
 γ-オリザノール、γ-トコトリエノール、トリシン、モミラクトンB、フィチン酸
 因みに、この研究結果は、胃腺がん細胞、前立腺がん細胞、結腸がん細胞、乳がん細胞、白血病細胞などで、細胞周期を停止させる作用が確認されていますが、全てのがん細胞に有効だと考えられます。
 このように、イネが卵母細胞を守るために配備した各種の成分は、ヒトにとっては病気を防いで命を守る成分だということが判ります。

 「何分づきなら良いのか…、それとも、少しでも精米すれば機能が失われるのか…?」という疑問の対する答えですが、掲載した図の左下をご覧になれば一目瞭然です。5分づきであっても、機能性成分が最も高濃度である果皮の部分が失われてしまいますから、上記のような効果は殆ど期待できなくなります。
 玄米を炊飯する場合の手短な工夫としては、果皮の最外層には水を弾くためのロウ成分が存在していますので、すり鉢などに玄米を入れて、その部分だけ剥がす、または傷を入れることによって、炊飯における問題は軽減できます。ただ、すり鉢に微量に残っているであろう果皮の成分は、しっかりと回収して一緒に炊飯するのが、玄米の機能性を維持する方法だということになります。
 なお、好みの美味しさを優先させるのか、病気を防いで健康を増進させることを優先させるのかは個人の自由ですから、この記事は玄米ご飯を強要するものではないことを予めご理解いただければと思います。 

 
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