今日は、がんを主テーマとするお話の第2回目とさせていただきます。因みに第1回目は「がん化の根本原因は遺伝子変異ではない」というお話でした。そして今日は「では一体何なのか…?」という次の疑問を解決していくことにしましょう。
がん化する組織や細胞の種類によって、少しずつ事情は異なりますが、共通点は、通常の細胞のままでは対応できない状況が生じてしまっていることです。今日は、その中でも乳がん、卵巣がん、子宮がんにおける発がん原因として最も多数を占める、性ホルモン性のがんに着目してみたいと思います。
そのような部位において発がんの引き金を引いている最大の要因は、大量に分泌された性ホルモンを体内で分解処理する過程において生じる、発がん性の非常に高い代謝産物です。現在のところ、その筆頭に挙げられているのは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左上に紫色の文字にて注釈を入れた、16α-OH-E1(16α-ヒドロキシエストロン)です。
この名前からも予想がつきますように、エストロン(E1)の代謝産物であり、エストラジオール(E2)やエストリオール(E3)の代謝産物ではありません。このことは、総女性ホルモン分泌量が急激に低下していく閉経後においても、E1だけは減りにくく(E1からE2、またはE1からE3へと変換する能力が低下し)、結果としてE1の割合が高まり、その代謝産物の一つである16α-OH-E1が発がんに関わることになりますので、安心はできないことになります。ただ、その対策を後述しますから、ご安心ください。
話を戻しますが、分泌されたE1は、その何割かはE2へと変換(相互変換)されますが、残りは体内にて水溶性が付与された(ヒドロキシ基が付けられた)代謝産物へと変換されます。その代謝産物には複数種類あり、その一つが上述の16α-OH-E1であり、他のうちの一つが、掲載した図に赤色の文字にて注釈を入れた2-OH-E1です。そして、前者は高い発がん性を示し、後者は逆に、高い抗がん活性を示します。要するに、たとえE1が多く生じてしまっても、それを2-OH-E1へと変換してしまえば、その結果として発がんが防がれ、がん細胞が在ったとしても増殖を阻害することが出来るようになります。
関連することを、もう一つだけ紹介しておきます。それは、発がん性が高い16α-OH-E1は、E3の前区物質でもありますので、16α-OH-E1が一時的に生じたとしても、それをE3へと変換する能力が高い場合は、発がんを逃れられるわけです。妊娠・出産を経験している人は、E1→E2、E1→E3の変換能力が高まっており(鍛えられており)、中間代謝産物である16α-OH-E1が増える機会が少ないため、ホルモン性のがんが生じにくいわけです。
さて、ホルモン性のがんの対策に移ります。今日のお話のポイントは、抗がん作用の強い2-OH-E1を増やし、発がん性の高い16α-OH-E1を減らすことです。即ち、両者における比率(2-OH-E1/16α-OH-E1)を高めることです。そして、その目的を達成することが可能な物質は、図中に示されているEGCG(エピガロカテキンガレート (エピガロカテキン3-ガレート))、I3C(インドール-3-カルビノール)、DIM(ジインドリルメタン)です。
その中で、私が最も推奨したいのはDIMです。因みに、I3CはDIMの前駆物質になりますので、I3Cを摂取すると体内で(胃酸によって)DIMへと変換されます。なお、I3Cの前駆物質はグルコブラシシンであって、これはアブラナ科植物に多く含まれている配糖体で、「野菜は虫に喰われたときに有効成分を増量する」にて紹介した、グルコシノレートと総称される物質の一つです。虫食い野菜を多く食べていた時代には、乳がん、卵巣がん、子宮がんが少なかった理由の一つになります。
DIMが示す抗がん作用の機序は、上述のことだけでなく、図中の左寄りに描かれている多くのものがあります。また、性ホルモン性のがんだけでなく、図の右側に挙げられているように、殆どのがんに対して抗がん作用を示します。
日本の医療業界においては、中には良心的なクリニックでDIMを推奨しているケースも見受けられますが、大きな病院や、がん専門病院などでは、このようなカネにならない物は排除しようとします。そして、例えばホルモン性の乳がんに対しては、女性ホルモンの全体をブロックする「ホルモン療法」が適用されます。女性ホルモンは様々な細胞において重要なシグナル伝達物質ですから、これがブロックされると細胞の健全な活動が抑制されて、やがて全身がボロボロになっていきます。ところが、標的であるはずのがん幹細胞は、増殖のためのシグナル伝達因子を他の物質に切り替えるだけですので、何のダメージも負わないどころか、怒りを爆発させることになります。
DIMは比較的安価で、誰もが手軽に手に入れることが出来ますから、ぜひ検索してみてください。なお、EGCGは、日頃から緑茶を多く飲んでいれば、それ以上に補給する必要はないと考えられます。