ビタミンDの現実 ~重要ポイントの整理~

ビタミンDの現実

 ビタミンDにつきましては、これまでに幾つかの視点にて触れてきましたが、今回は、全体像および重要ポイントを整理しておこうと思います。
 他のビタミンに較べると、ビタミンDは、ちょっとややこしいビタミンだと言えそうです。それは、体内で様々な形に変化しながら生理作用を発揮していくことが最大の理由だと思われます。次には、他のビタミンと違ってホルモンとしての性質が強いことが挙げられると思います。次には、体内で変化して生じる個々の物質に複数の呼び名が存在することが、ややこしさを助長しているのだと思われます。
 ところで、ビタミンDのことを知らなかったり、特に気にしなくても生きていけるとは思いますが、大変不幸な目にあうこともあります。例えば、数年前では新型コロナウイルス感染症が重症化したり、それをこじらせて死亡してしまったりする原因の一つとして、ビタミンD不足がありました。「え?ビタミンDが少ないだけで死ぬのか?」と言われれば、これは「確実に死にます」としか答えようがありません。そもそも、〝ビタミン〟と名の付くものはヒトにとって必須物質ですから、どのビタミンが欠乏しても生きていけないのですが、現代において欠乏している程度が非常に高いものの一つがビタミンDだと言えます。
 では、頭の中を整理するつもりで、順番に見ていくことにしましょう。

 掲載した図(高画質PDFはこちら)の左上からなのですが、先にupしました『紫外線が不足すると却って皮膚ダメージや老化が進む』で用いた図の一部を利用して、ビタミンDの全体像をまとめてみました。このことは、先にupした内容の続きにもなっているということです。
 体内のビタミンDの起源は、平均的には皮膚で作られたものが約8割、食べ物から摂取したものが約2割となっています。これはあくまで平均であって、皮膚で作られる場合には紫外線(UV-B)が必要ですので、平素から日光を浴びる機会が非常に少なかったり、完璧に紫外線対策をしてしまっている人の場合は、非常に危険なレベルまでビタミンD濃度が下がってしまうことになります。即ち、約8割の分が得られなくなりますので、食餌から得られる2割の分だけだということになります。

 次に、食餌から得られるビタミンDですが、これはヒト以外の動物(地中性や深海性の動物を除く)も同様に体内でビタミンDを作っていますから、その動物を食べれば少量ではありますがビタミンDを得ることが出来ます。なお、この場合のビタミンDは〝ビタミンD3〟と呼ばれていて、別名を〝コレカルシフェロール〟と言います。
 また、キノコをはじめとした菌類も類似物質を作っていますので、それを食べることによっても少量ではありますがビタミンDを得ることが出来ます。なお、この場合のビタミンDは〝ビタミンD2〟と呼ばれていて、別名を〝エルゴカルシフェロール〟と言います。
 更に、サプリメントにてビタミンDを補給しようとする場合、製造原料の違いによってコレカルシフェロールが主であったり、エルゴカルシフェロールが主であったりします。

 次に、コレカルシフェロールやエルゴカルシフェロールが消化管に入ってきた場合、吸収されて肝臓に運ばれ、そこで〝カルシジオール〟へと変換されます。これは別名として〝カルシフェジオール〟と呼ばれたり、〝25(OH)D〟と表記されることがあります。なお、前駆物質がコレカルシフェロールであることを特定したい場合は〝25(OH)D3〟と表記し、〝25-ヒドロキシコレカルシフェロール〟と呼ばれることがあります。このあたりから覚えにくくなるかもしれませんが、総称的に〝カルシジオール〟を覚えておくのが妥当だと思われます。
 このカルシジオールは、いわば〝貯蔵型のビタミンD〟でもあります。主に肝細胞内に備蓄されるのですが、血液中にも出てきますので、血液検査によってビタミンD濃度を測定するという場合、カルシジオール濃度が測定されることになります。

 次に、カルシジオールは必要な時に必要な分だけ、腎臓において〝カルシトリオール〟へと変換されます。これが〝活性型ビタミンD〟であり、別名として〝1,25(OH)2D〟と表記されることがあります。(前駆物質がコレカルシフェロールであることを特定したい場合〝1,25(OH)2D3〟と表記されることになります。
 更にややこしく感じそうですが、ビタミンDの最大の役割が、血中カルシウム濃度を高めることです。従いまして、血中カルシウム濃度が低くない場合は、カルシジオールからカルシトリオール(活性型ビタミンD)への変換が抑制される仕組みになっています。
 このことは、体内のビタミンDの量を測定したいという場合、カルシトリオールの濃度を測定しても、それは常に動的に変化していますので、値が低い場合は血中カルシウム濃度が低下していないからなのか、腎機能が低下していて変換されていないのか、前駆物質であるカルシジオールが少ないのかを判断することが出来ません。そのため、通常の血液検査では、貯蔵型であり前駆物質であるカルシジオールの濃度を測定することになっています。
 因みに、腎機能が低下していることが明らかである場合は、活性型ビタミンDであるカルシトリオールを医薬品の形で投与することが行われています。もちろん、そうでない人がカルシトリオールを飲んでしまうとカルシウム代謝を乱してしまうことになりますから、単なるビタミンD 製剤だと思って誤飲することが無いよう注意しなければなりません。

 さて、体内におけるビタミンDの充足度についてですが、皮膚で約8割が作られているという場合、紫外線を浴びていることが前提です。しかし、冬場であったり、仕事が夜勤であったりした場合、皮膚におけるコレカルシフェロールの生合成が殆ど進まず、貯蔵型のビタミンDであるカルシジオールの備蓄量がどんどん減っていくことになります。なお、カルシジオールの血中における半減期は、約3週間から1か月だとされています。従いまして、今月に紫外線に当たることが少なければ、そのツケが翌月に現れて来ることになります。
 掲載した図の右上に、医療従事者の男性87名、女性274名の血中カルシジオール濃度が測定された結果を示しました。これは、2021年3月1~5日に検査された結果であり、その下にあるグラフに示されていますように、血中カルシジオール濃度が最も低くなる時期に相当します。
 検査の結果、「欠乏」レベルより上にいる人、即ち、カルシジオール濃度が充分である人が、かなり少ないことがわかります。特に女性の場合、念入りに紫外線対策をしている場合が多いため、半数に近い人が「著しく欠乏」のレベルを下回っています。なお、年齢との相関は殆ど見られていません。
 この結果として何が起こるかといえば、短期的には院内感染や、重症化が起こりやすくなります。長期的に見れば、その下のグラフに示されていますように、発がんリスが高まります。その他、体内のCa代謝や骨代謝に支障が出たり、うつ病、高血圧、血栓症、心筋梗塞、脳梗塞、自己免疫疾患発症リスクなども高まることになります。

 以上、ビタミンDに関する重要ポイントについて見てみました。どうしても紫外線を浴びる時間が取れない場合、サプリメントにてコレカルシフェロールまたはエルゴカルシフェロールを補給してみてください。平均的な食餌で摂れるのは約2割です。残りの8割が皮膚で得られない場合、その分を食餌の改善で補うことはほぼ不可能です。なお、医薬品になっているカルシトリオールは腎機能低下などの特殊な場合のみですので、お気を付けください。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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