天然物由来 vs 化学合成――「由来」よりも「品質」が重要

天然物由来 vs 化学合成――「由来」よりも「品質」が重要
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◆ はじめに
 健康食品やサプリメントの世界では、「天然物由来だから安心」という言葉が昔からよく使われてきました。とりわけ日本では、自然志向や民間療法の文化的背景もあって、天然物に対して特別な安心感を抱く人が少なくありません。さらに、かつては「これは石油から作られているんだよ。危ないんだよ」といった営業トークが横行し、「化学合成=危険」、「天然=安全」という単純な二分法が広く浸透してしまった経緯があります。

 しかし実際には、天然物由来であっても品質上の問題が生じることが往々にしてあります。たとえば、工程のどこかで腐敗菌やカビが混入したり、抽出のために用いた溶媒中の不純物を除去しきれなかったり、原材料そのものが汚染されていたりすることもあるわけです。また、目的とする成分の濃度を高めたり、可能な限り純度を高めようとする工程で、有害成分も一緒に濃縮されてしまうことがあります。具体例を挙げることは避けますが、死亡事故を起こした例も記憶に新しいでしょうし、軽度のものでは、今回買ったものだけ舌がピリピリする、などという例もあります。要するに、品質の安定化が非常に難しいわけです。

 このような背景を踏まえると、「天然由来だから安心」という考え方は、科学的に見れば必ずしも正しいとは言えません。むしろ、天然物の運搬や保存の過程で起こるリスク、工場で加工する過程で起こるリスク、そして現代の環境汚染の影響を考えると、天然物の安全性は昔よりも複雑な問題になっています。本記事では、その点を科学的に整理し、天然物由来と化学合成の違いを正しく理解するための視点を紹介したいと思います。

◆ 天然物由来の本質的な問題点
① 天然物は「腐敗・カビ・雑菌混入」を避けるのが極めて難しい
 天然物由来の素材は、見た目の印象とは裏腹に、品質管理が非常に難しい素材です。動物由来であれば、胆汁、臓器、血液、骨といった生体組織は、微生物汚染のリスクが本質的に高く、その多くは採取した瞬間から腐敗が始まります。植物由来の場合も同様で、収穫後の腐敗やカビの発生は避けがたく、アフラトキシンのような強力なカビ毒が混入する可能性があります。農薬の残留も、天然物ならではの問題です。
 菌類由来の素材に至っては、菌体そのものが汚染源になり得ます。菌類は環境中の微生物と競合しながら生育しますので、収穫後の管理を少し誤るだけで、別の菌が繁殖してしまうことがあります。

 さらに、天然物は「採取 → 運搬 → 加工 → 一時貯蔵」という複数の工程を経ますが、どの段階においても異物混入のリスクが存在します。また、温度管理、湿度管理、衛生管理を徹底しても、天然物は“生物”が原料であるため、ロットごとに性質が多かれ少なかれ異なるのが普通であり、品質が安定しにくいという根本的な問題があります。
 一言で言うならば、天然物は管理が非常に難しい素材であり、品質を一定に保つこと自体が非常に大変なのだということです。

② 溶媒抽出と溶媒除去に伴うリスク
 天然物中から何らかの成分を取り出す際には、一般的に「溶媒抽出」という工程が必要になります。アルコール、アセトン、ヘキサンなどの溶媒を使って目的成分を抽出し、その後に溶媒を除去するわけですが、この工程にも固有のリスクが存在します。

 まず、抽出に使用する溶媒そのものが、天然物の複雑な成分と反応して、予期しない副生成物を生じる可能性があります。天然物は数百〜数千種類の化合物の集合体であり、溶媒との相互作用を完全に予測することは困難です。
 また、溶媒を除去する工程では、揮発しきれなかった溶媒や、溶媒に含まれていた不純物が濃縮されて残留する可能性があり、これが風味の変化や刺激感の原因になることがあります。

 さらに、溶媒抽出では、目的とする成分と化学的な性質が似ている成分は、同時に抽出されてしまいます。そこで、抽出後には必ず精製工程が入るのですが、化学的な性質が似ている夾雑物ほど、それを取り除くことは極めて難しくなります。実験室での研究であれば、操作の繰り返しや、クロマトグラフィーなどの費用の掛かる方法を使うこともできますが、製造コストを抑えなければならない工場ではそういう訳にはいきません。だからこそ、高価であるにもかかわらず低純度な製品になるのです。

③ 環境汚染による天然物の汚染度の悪化
 もう一つ重要な点は、現代の天然物は「昔の天然物」とは質が大きく異なるということです。海洋汚染の進行によって、魚介類にはマイクロプラスチックや重金属、化学物質が蓄積しやすくなっています。土壌汚染も深刻で、農薬、工業排水、重金属などが植物に取り込まれ、天然物の純度を低下させています。大気汚染による微粒子や化学物質の付着も避けられません。

 即ち、現代の天然物は、昔のような「自然の恵みそのまま」という状態ではなく、環境汚染の影響を受けた複雑な素材になっています。天然物の安全性は、昔よりも低下していると言ってよいでしょう。

 以上のように、天然物由来の素材は、腐敗、雑菌やカビの混入、溶媒抽出と精製の不確実性、素材自体の環境汚染など、複数のリスクを抱えていますので、品質を安定させるためには極めて高度な技術と管理が必要になります。それにもかかわらず、製造工程を見たことも、考えたこともない人々の間で、「天然だから安心」という言葉が、いまだに独り歩きしているわけです。

◆ 化学合成と品質管理技術の進歩
 一方で、化学合成によって得られる成分は、上記のような天然物特有の不確定要素をほぼ完全に排除できるという点で、現代の健康科学において重要な役割を果たしています。

① 西洋医薬の殆どは化学合成品
 いわゆる“西洋医薬”の殆どは、化学合成によって製造されています。その理由は、天然物由来では純度や安定性を確保しにくいからであり、また、化学合成の方が安全性と再現性を高いレベルで維持できるからです。
 天然物由来の成分が“自然で安心”というイメージを持つ人もいますが、医薬品はイメージではなく、確実性を求めるわけです。

② 品質管理技術は日進月歩で進化している
 さらに重要なのは、化学合成と品質管理の技術が年々進歩しているという点です。現代の製造現場では、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)などの高度な分析技術が用いられ、微量の不純物まで正確に検出できます。また、GMP(適正製造基準)に準拠した製造ラインでは、原料の受け入れから製品の出荷まで、厳密な品質管理が行われています。

 その結果として、化学合成によって得られる成分は、天然物由来とは比較にならないほど高純度で、ロット差がほとんどなく、安定性も高いものになっています。天然物由来の素材が抱える「腐敗・雑菌・カビ・不純物・環境汚染・ロット差」といった問題は、化学合成品では原理的に起こりません。

 結局、現代の化学合成品は、天然物由来の素材とは“桁違いの品質”を持っていると言えるわけです。

◆ タウリンの場合
 前回のテーマでもあったタウリンを例にして、天然物由来と化学合成の違いを、改めて、まとめておきたいと思います。

 タウリンは、イカやタコ、貝類、魚類などの天然食品にも豊富に含まれていますし、牛の胆汁から抽出する方法も古くから行われてきました。しかし、天然物由来のタウリンは、素材そのものの汚染、腐敗や雑菌混入のリスク、不純物混入のリスク、ロット差など、避けがたい問題を抱えています。
 実際、天然由来のタウリン製品では、高額であるにもかかわらず、取り除ききれない不純物の種類や量によって、ロットごとの風味や刺激感が異なるといった事例が見受けられることがあります。

 一方で、化学合成によって得られるタウリンは、分子構造としても当然のことながら、まさしくタウリンなのであり、純度が極めて高く、ロット差がほとんどなく、安定性も優れています。
 なぜなら、医薬品グレードとしての規格をクリアするために、厳密な品質管理のもとで製造され、不純物の混入も極めて少なく、安全性と再現性の面で天然物由来とは比較にならない品質を実現しているからです。
 前回の記事で紹介しました「タウリンの老化細胞除去作用」も、化学合成タウリンで確認されたものです。
 ここには、「天然物由来だから安心」といったフレーズは、全く入る余地はありません。

◆ 健康食品/サプリメント全体に言えること
 目的とする物質が非常に複雑な構造をしていて、化学合成できない、または、化学合成では莫大なコストがかかる物質につきましては、現在でも天然物からの抽出に頼っていたり、微生物を使った半合成とも言える方法で生産されています。一方で、化学合成が比較的容易にできる物質につきましては、化学合成品と、天然物由来品の両方が存在することがあるわけです。
 その場合、全体的に言えることは、昔によく言われた「天然=安全」「化学合成=危険」という二分法は、科学的な根拠を持たない、全くの誤解だということです。繰り返しますが、天然物信仰にとらわれず、素材の由来ではなく科学的な品質や純度に目を向けることが、現代の健康管理においてはより重要だと言えるでしょう。

 
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