スイカを1/7食べればシトルリン800mgが摂れる

スイカを1/7食べればシトルリン800mgが摂れる(1日の摂取目安量)

 スイカの季節になりました。ウォーターメロンと言いますから、中には水が入っているのかと思えば、随分と高機能なアミノ酸が入っているではありませんか。そのアミノ酸は、タンパク質を構成しているアミノ酸でもなく、必須アミノ酸でもないのですが、これを体外から摂り込めば結構な健康増進効果が得られる、というものです。そしてそのアミノ酸の名前は、シトルリン(Citrulline)です。
 シトルリンという名称は、スイカ(西瓜、水瓜)のラテン語であるcitrullusに因んで名づけられたとされています。植物のなかではスイカに特に多く含まれていて、次に多く含まれているメロンの3倍以上(単位湿重量あたり)含まれているようです。とは言え、人体を含めた動物にも含まれていて、体内ではアルギニンと相互変換されながら、各所において非常に重要な役割を担っています。

 ところで、なぜスイカにシトルリンが多いのでしょうか…?。「そんなこと、どうだっていいじゃないですか。人間に対してどうなのかが大切でしょ!」という声が聞こえてきそうですが、そういうところを疎かにせずに見に行くのが当研究室の癖です。
 野生のスイカの原産地は熱帯アフリカのサバンナや砂漠地帯で、乾燥と、強い日射に耐えられるように進化したようです。即ち、1年のうちには雨季と乾季があり、雨季の間に茎を伸ばし葉を広げて成長します。そして、やがて訪れるであろう乾季に備えて準備をし、併せて、次年度の子孫を残す準備を進めることになります。
 具体的には次のようです。乾季になると、雨が殆ど降りませんから根から水分を吸い上げることが難しくなると共に、水に溶け込んでいる各種の栄養素を吸い上げることも難しくなります。そのため、伸長成長は停止せざるを得なくなります。また、日射は相変わらず強いため、それに伴うストレス上昇、特に活性酸素種による酸化ストレスに耐えられるよう、植物体を変えておかなければなりません。
 もう一つ、満たさなくてはならない苦境がありました。それは、野生スイカの原産地である熱帯アフリカのサバンナや砂漠地帯では、特に窒素源が少ないという特徴がありました。そのため、その地で子孫を残すには、種子が落ちるであろう地面に多くの窒素源を与えておく必要があったことです。
 そこで、野生スイカが選んだ方法は、細胞内、または組織内に大量にあったとしても、細胞に悪影響を与えない物質として、アミノ酸代謝における中間産物であるシトルリンを蓄積する方法です。ヒトの場合もそうなのですが、シトルリンはアルギニンの前駆物質であり、その後は相互に変換されて一定の割合が保たれます。ヒトの場合には、シトルリンだけが高濃度に蓄積することは無いわけですが、野生スイカは敢えてシトルリンを大量蓄積する方法を選んだということです。
 シトルリンを大量蓄積しても大丈夫なのか…。アルギニンは塩基性アミノ酸ですが、シトルリンは中性アミノ酸ですので、これを細胞内に大量に蓄積したとしてもpH的な影響は少ないわけです。また、蓄積に伴って浸透圧が高まりますが、乾燥地帯にて細胞内の水分を保つ上で高浸透圧は有利に働きます。
 では、シトルリンを大量蓄積した場合のメリットは…。一つは、シトルリンは分子の構造上、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素種を消去する能力が高いため、乾季の強烈な日射によって高まるであろう酸化ストレスを打ち消すことが可能になることです。
 二つ目は、元々窒素源の少ない土壌に窒素源を付与するために、1分子中に3原子も窒素を含むシトルリンを蓄積しておくことが有効に働くことです。即ち、やがてスイカが割られたり腐るなどして黒い種子が地面に落ちたとき、その周囲には果肉中のシトルリンが散らばっており、土壌細菌によって吸収可能な窒素源へと変換され、それが子孫の貴重な栄養源になることです。
 併せて、多量の水分を果肉に含ませておくことは、乾燥地帯において自分の子どもが生長するための潤いを与えることになります。
 植物が生存戦略のために蓄積する物質には色々なものがありますが、アミノ酸を蓄積する例は非常に少ないのです。しかし、野生のスイカが選んだこの方法は、元々窒素源が少ない地域で生育するためであり、併せて乾季という水分不足の時期が必ず訪れ、しかも強烈な日射が続くという超過酷な環境下で生き、その地に子孫を残し、子孫に少しでも快適な環境を与えるための、親スイカの真心であるような気がします。

 この、スイカが編み出したシトルリン蓄積の努力の成果を人間様が戴いた場合、次のような優れた効能を戴くことになります。重要ポイントの全ては掲載した図(高画質PDFはこちら)に散りばめたのですが、重要ポイントは次のようです。
 例えばアルギニンを摂取すると、腸管内のアルギナーゼによって5~8割が分解されてしまうのですが、シトルリンを補給した場合は分解されずに血中に入って末梢組織に到達し、末梢組織中にてアルギニンへと変換され、末梢組織中のアルギニン濃度を高めることが出来ます。また、シトルリンとアルギニンを合わせて摂取した場合は、シトルリンが腸管内のアルギナーゼを抑制するため、アルギニンの単独摂取の場合よりも血中濃度を高めることが出来ます。
 末梢組織中では、シトルリンとアルギニンは適切な比率になるように相互変換かつ自動調整されますので、両者による効能として次のようなものを挙げることが出来ます。即ち、肝臓にてアンモニアの解毒に関わる尿素回路が強化されること、脂肪組織に働いて脂肪の分解が促進されること、骨格筋に働いてタンパク質合成が促進されること、ミトコンドリアの生成が促進されること、クロファージに働いて一酸化窒素の合成が促進されること、血中に増加したアルギニンがシトルリンに変換されるときに一酸化窒素(NO)を放出するため、血管拡張効果が生じること、などです。また、それらによる総合的な健康効果として、次のような疾患のリスク低下、即ち、高血圧、アテローム性動脈硬化症、炎症、インスリン抵抗性、2型糖尿病、心血管疾患などのリスク低下になるということです。

 夏真っ盛りになってきましたが、水分不足と強烈な日射に耐えるためにスイカが編み出したシトルリン蓄積の恩恵を、有難く頂戴するのも、ヒトが夏を乗り切るための一つの方法になるでしょう。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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