老化によって減少するNAD+とニコチンアミドやNMNとの関係

老化によって減少するNAD+とニコチンアミドやNMNとの関係

 今回は、抗老化をテーマとした記事の、最も基本的な部分になります。具体的には、先にupしました『老化の原因と対策 ~概略編~』にて一覧表『抗老化(アンチエイジング)の方法』を公開しましたが、その中に記載した〝NAD〟の基本を理解するための内容となります。
 まぁ、あまり細かいことを気にする必要は無いのではないか…という考え方も一つでしょうが、解った上で実践するのと、解らずに実践するのとでは、実質上の効果が違ってきて、前者の方が高い効果が得られるのは、トレーニングの理論と一致するのではないかと思います。従いまして、少しだけ掘り下げて見てみることにしましょう。

 〝加齢〟ではなくて〝老化〟というのは、病気の一種だと捉えて問題は無いと思われます。世の中には老化現象をほとんど示さない動物がいて、彼らは死ぬ直前まで殆ど病気をせずに生きることが出来ます。その最大の理由が、〝加齢〟はしても〝老化〟はしないことです。ヒトもそのような生涯を送ることが出来れば、他人に迷惑をかけずに楽しく暮らすことが出来るのではないでしょうか。
そして、老化を特徴づける現象の一つとして、世界的に揺るぎない事実として認められるようになったのが〝NADの減少〟です。

 そのNADって何なのでしょうか…。昔に生物の授業で出てきたことを思い出す人もいらっしゃることでしょう。でも、それが何であるのかを他人に説明できる人は、かなりの少数派となるでしょう。「う~ん…、よぅわからん。。」というのが圧倒的多数であるような気がします。もちろん、普通はそれでよいわけですが…。
 私たちの体、または細胞が活動するために使っているエネルギー源は何でしょう。「ぱわぁ~!!」。ATPという物質については、NADよりも知名度が高いと思われます。反対から読めば「PTA」ですが、学校における組織とはあまり関係はありません。
 ATPの分子がADPに変化するときに、実質上のエネルギーが放出されます。具体的には、ATP(アデノシン三リン酸)からADP(アデノシン二リン酸)へと変化するときに、リン酸基が一個外され、そのリン酸基の結合に使われていたエネルギーが余剰となり、その余剰エネルギーが別の生化学反応を進める原動力になる、ということです。
 そのため細胞は、ATPという物質を作ることを、生命活動のための最も重要な活動として行うことになります。そして、この地球上に生命が誕生したときからずっと、ATP合成を生命活動の最も基本的な動作として行ってきました。

 掲載した図(高画質PDFはこちら)の右下に、ミトコンドリアを内包した細胞によるATP合成の過程が図示されています。最終的に多量のATPを作ってくれているのはミトコンドリアに装備されている〝ATP合成酵素〟です。これは回転するタービンのような構造になっていて、回転することによって周囲に在るADPにリン酸基が一個付加され、ATPが生じる仕組みになっています。
 このATP合成酵素のタービンを回すのは〝プロトン〟です。即ち〝陽子〟です。別の言い方をするならば〝水素原子から電子を取ったもの〟です。水素は原子核に1個の陽子(プロトン)と、周囲に1個の電子を持っていますので、その電子が外れた水素イオンは陽子なのであり、それは即ち〝プロトン〟だということになります。因みに、〝水素イオン〟としてはプロトン以外にも存在しますので、厳密に言えば「ATP合成酵素を駆動するのはプロトン」だと言うほうが正式な表現になります。

 図中においては、プロトンを〝H+〟と表示しています。この表記のメリットは、「あ~、水素原子から電子が取れたものだ」ということが解りやすいですから、物理学ではなくて生物学や化学の世界ではこちらが普通に使われています。
 では、取られた電子は誰が奪っていったのだ…?ということになりますが、結論的には、その最大の犯人はNADだということになります。正式には〝NDA+〟というふうに、右上に〝+〟の記号を付けて〝+に帯電している〟ことを示すのが一般的です。ただ、あまり細かいことを気にしなくてもよい場合には、単に〝NAD〟と書かれることも多いです。
 さらに細かいことを言えば、図の上段中央に示しましたように、5印環の糖分子(リボース)と他の分子(アデノシンやニコチンアミド)との結合部分が、生物が使っているのはβ結合になっていますので、〝β-NAD+〟と表記されることもあります。もちろん、平易そうな記事に書かれている〝NAD〟と同義になります。

 話を戻しますが、色々なものから〝電子および水素〟を奪っていく最大の犯人(犯物質)がNAD+です。正(プラス)に帯電していると、負(マイナス)である電子が欲しくてたまらなくなります。もう、強引にでも電子を奪ってスッキリさせようという状態にまでなっています。NAD+という分子は、そのような性質を持った分子なのです。また、生体分子から電子を奪う場合には〝電子1個と水素原子をまとめて奪う〟ことが、より行い易いやり方になっています。これを表記する場合には〝H〟が奪われたと表記されることなります。結局〝電子2個と陽子1個〟が奪われますので、電気的には負(-)が解消されることになります。ただ、この反応は一般的には〝脱水素〟と表現されています。もちろん、現実的には電子が余分に奪われたことになり、〝還元された〟ことにもなります。

 電子(および水素原子)を奪ったNAD+はNADHとなり、ミトコンドリア内に増えていきます。このNADHを他の方法にて刺激すれば、比較的たやすく電子と水素原子を放出するであろうことは想像できます。そこでミトコンドリアはそれに挑戦し、見事に目的を達成する方法を見つけ出しました。そして、その方法を実行することによって、NADHをNAD+へと逆戻りさせ、奪い取られた電子と水素原子を放出させることに成功したわけです。
 この時、水素原子のほうは更に分けて、電子と陽子(プロトン)にすることにも成功しました。結局、電子・電子・プロトンが得られるわけです。そして、プロトン(H+)はミトコンドリアの内膜と外膜の膜間隙に送り込み、それを使って内膜に設置したATP合成酵素を駆動することにも成功しました。これによって、まるで夢のような高速ATP合成が可能になったわけです。
 一方の電子は、電子伝達系を通した後は内膜より内側に閉じ込め、プロトンが存在する膜間隙との電位差を高めてプロトンの流入圧を高めることに貢献させました。その後は、ATP合成酵素を通じて内側に流入してきたプロトンと、呼吸によって得た酸素を合わせて、水を作ることになりました。その水は、生命活動を支える体内の水として使われることになります。

 もしNAD(NAD+やNADH)が減少すれば、上記のあらゆる活動に支障が出てきます。その減少の原因を作るのは、NADの原材料の一つになっているニコチンアミドの不足です。体内でもトリプトファンから生合成されるのですが、満足な量ではありませんし、その合成能力は老化によって更に減少する可能性があります。
 その対策として、巷では、ニコチンアミドの代謝産物であり、NAD+の前駆物質であるNMNを保有する方法が挙げられていますが、そればかりに頼ると、ニコチンアミドからNMNへと変換する酵素のNAMPTを怠けさせることになります。従いまして、血流にて全身を巡る形態であるニコチンアミドを主として補給することが、総合的に見れば加齢に伴うNAD不足を解消する最良の方法だと考えられる、ということになります。

 

 

 
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