グルタミン摂取が途絶えると小腸粘膜はボロボロと剥がれ落ちていく

 「私たちの細胞は、エネルギー源としてブドウ糖(グルコース)を使っている」という子どもの頃からの教育が、その延長線上で多くの誤解や弊害をもたらしています。今日は、その代表的な一例を紹介しようと思います。
 それは、小腸の内壁を構成している粘膜細胞の主要エネルギー源は、アミノ酸の一つであるグルタミン(またはグルタミン酸)だということです。また、同様に、主要エネルギー源としてグルタミンを使っている細胞には、各種の免疫細胞があります。従いまして、小腸粘膜細胞や免疫系細胞にブドウ糖を与えても、それらの細胞は生きられないということになります。

 さて、弊害をもたらしている例は、ファスティング(断食)を行う習慣のある人や、食欲が無くてお粥ぐらいしか食べられない人、病院などで点滴によってのみ栄養素の補給が行われている人、などを挙げることができます。このような場合、2~3日間ほどタンパク質またはグルタミンの摂取を止めると、小腸の粘膜細胞はエネルギー不足によって脱落を早め、次々と補充されるはずの新しい粘膜細胞の増殖も阻まれます。その結果、小腸粘膜が全体として薄くなり、委縮していきます。更には、既に傷害を受けている部分の修復が出来ずに出血に至る人もあります。ファスティングの場合、絶食期間が済んだ後に急に普通に食べ始めてはいけない理由は、小腸壁が傷んでしまっているからです。従いまして、ファスティングを行う習慣のある人や、これから行ってみようと思っている人は、その期間にも充分量のグルタミン(またはグルタミン酸)、或いは、タンパク質(プロテイン製剤など)を補給し続けることによって、小腸壁を守ることが可能になります。

 では、なぜ小腸内面の粘膜は、グルタミンを主要なエネルギー源にしているのでしょうか…? 一般的に生物の体は、自然選択圧による淘汰の結果として、生存にとって有利に働いた特徴が残されていくことになります。仮に、小腸粘膜の主要エネルギー源をグルコースにした原始人が過去に誕生していたとしましょう。その彼は、グルコースを摂取し続けなければ小腸の健全性を保つことができませんでした。しかし、狩猟採集生活の場合にグルコースを多く含む食料を得続けることは容易ではありません。魚を捕って食べても、イノシシやシカを捕って食べても、それにはグルコースはほとんど含まれていません。また、木の実を食べても、葉や芋を食べても、多くのグルコースは含まれていません。そのため、彼は若くして小腸を壊し、世代を繋ぐことは出来ませんでした。

 では、血中から小腸粘膜までエネルギー源を運べばよいではないか…、ということになりますが、腸管内面は様々な異物が入ってくるため、非常に傷がつきやすいのです。魚を食べたため消化されなかった小骨が突き刺さるかもしれません。そのため、粘膜表層まで血管を延ばすことは避けたいところだったのです。これも、大昔に粘膜表層まで血管を延ばした原始人がいた可能性もありますが、その彼は腸管出血が頻発して早く亡くなることになったと考えられます。

 それなら、いったいどうすればよいのか…。小腸にいつも多く流れ込んでくるアミノ酸、その中でも特に多いグルタミンやグルタミン酸を上手く使っていこう…、ということになったのだと考えられます。因みに、グルタミンからアミノ基の1つを外せばグルタミン酸になりますし、グルタミン酸にアミノ基を1個付けるとグルタミンになります。例えば、体内のアンモニア濃度が高めの場合、グルタミン酸を補給することによって体内のアンモニア濃度を下げることができます。それは、アンモニアのアミノ基がグルタミン生成に使われるからです。
 赤ちゃんは、お母さんの母乳で育ちますが、母乳の中にはグルコースは殆ど含まれていませんが、その代わりに高濃度のグルタミン酸が含まれています。このグルタミン酸が小腸粘膜細胞に吸収されたときに最適な濃度比率になるようにグルタミンや、アラニンをはじめとした他のアミノ酸へと変換され、その大半は小腸粘膜のエネルギー源や、新しい粘膜細胞を作るための材料として使われます。

 グルタミンやグルタミン酸を、口からではなく静脈経由で補充した場合、それがどの程度、小腸粘膜のためになるのかというと、ごく微量だと考えて結構でしょう。上述しましたように、血管網が粘膜表層まで延びておらず、更に、血中のアミノ酸濃度は肝臓にて厳密に調整されますので、グルタミンやグルタミン酸の濃度の特に高い血液を腸管に届けることが出来ないからです。その結果、静脈経由のグルタミン(およびグルタミン酸)補給では小腸粘膜を養うことはほぼ出来ないと考えて結構です。

 以上のように、絶食によって、小腸粘膜を養ったり各種の免疫系細胞の活動を支えているグルタミン(やグルタミン酸)が不足し、健康を害したり病気が治らなくなったりしますので、くれぐれもご注意ください。

 
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