ヒトの進化から見たアラントインの必要性

生物進化の過程において私たちは尿酸オキシダーゼの酵素活性を失った。

 アラントインは、医薬部外品や化粧品に配合できる成分として承認されているものなのですが、パウダーとして誰もが安価に入手できるものでもあり、動物進化から考えると必要度の高い成分であると考えられますので、ごく簡単に記事にしてみたいと思います。

 ところで、〝プリン体〟というのは、大抵の人が一度は聞いたことのある物質だと思います。多くの場合、痛風を起こさないために〝プリン体ゼロ〟などのビールが存在していることも、その知名度を高める要因になっているのでしょう。
 ヒトがプリン体を少々敬遠するようになった理由は、痛風のリスクが高まるからですが、それはプリン体を処理した結果として尿酸の体内濃度が高まり過ぎて結晶を生じてしまうからです。しかし、多くの動物は、尿酸を水溶性の高いアラントインにまで変換してから尿中に排泄できますので、痛風には罹りません。ヒトを含めた一部の霊長類だけ、尿酸をアラントインにまで分解する酵素の一つを遺伝子変異によって失ってしまった結果です。

 もう少し具体的に見ていきますと、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左端に示されていますように、プリン体に該当する種々の物質が代謝されていって〝尿酸〟にまで変換されます。ヒトは悲しいことに、ここまでなんです。ところが、進化において原始的な霊長類や、霊長類以外の殆どの哺乳類は、尿酸をアラントインにまで変換することが出来ます。それは、尿酸をアラントインにまで変換する酵素(厳密には3種類)がしっかりと働くからです。
 ところが、ヒトと一部の霊長類は、それらの酵素のうち〝尿酸オキシダーゼ(ウリカーゼ)〟の活性を失ってしまったのです。「活性を失う」というのは、その酵素をコードしている遺伝子は持っているのですが、その塩基配列の中の3箇所に突然変異を生じてしまった結果、酵素が生じなくなった、ということです。なお、突然変異の箇所は、図の左寄り下部の系統樹に示されています。

 このような変異によって尿酸からアラントインへの変換が出来なくなったヒト(及び一部の霊長類)は、体内にアラントインが生じなくなってしまったと共に、尿酸の濃度が高まることになってしまいました。
 先ずは尿酸の濃度が高まることについてですが、尿酸の元になるプリン体は、食餌に由来するものが全体の1~2割だということです。その他は、体内においてアミノ酸や葉酸代謝物を原料として生合成されたものと、代謝経路の途中で再利用に回ったものが合計されたものになります。このことは、痛風になりやすい人が食事を改善すれば、少しは対策になるであろうことを意味しています。
 また、尿酸は腎臓から尿として排泄される過程で、その多くが回収(再吸収)されて再び血中に戻ってきます。戻らなければ尿酸値が下がることになるのですが、進化の過程において、尿酸値をある程度高めることにメリットがあったのでしょう。そのメリットとは、ビタミンCに代わって抗酸化対策として用いることです。
 因みに、ビタミンCは、ヒトと一部の類人猿が生合成能力を失ったため、体外から摂取することが必須である「ビタミン」になったのですが、ビタミンCの濃度低下による抗酸化能の低下を尿酸で補うために、腎臓における再吸収を増やしたのではないかと解釈できます。
 なお、痛風につきましては別の記事として書くことにしますが、痛風になる最大原因は、尿酸が水に溶け難くて結晶化しやすいことです。2番目の原因としては、抗酸化機能を高めるために尿酸を再吸収して濃度を高める必要があったことです。

 次に、尿酸オキシダーゼの活性を失ったことによってアラントインを作ることが出来なくなった件についてです。ヒトの祖先(少なくとも6千数百万年前まで)は尿酸オキシダーゼをしっかりと発現させて、体内に生じた尿酸をアラントインにまで変換し、それを尿中に捨てていたと考えられます。もちろん、捨てられるまでには肝臓から血流を通じて体の隅々まで行き渡っていたと考えられます。そのような物質が、いきなり体内から失われてしまったわけですが、それによって何らかの問題は生じなかったのでしょうか…。
 無くなってしまったことによって、はじめてその必要性が分かった…、ということが、日常的にも多くあります。アラントインも、おそらくそのようなことになっているのだと思われるのですが、如何でしょうか…。

 アラントインは、皮膚に適用することで次のような効果が発揮されることが確認されており、医薬部外品や化粧品に配合できる成分として承認されています。そして、その効果は図の右下に箇条書きにしておきましたが、1. 創傷治癒を早める効果、2. 皮膚や粘膜を保護する効果、3. 炎症やアレルギーを抑える効果、4. エストロゲン様作用、です。
 上記のように「アラントインはこのような効果を示します」という書き方をすると、「そのような効果を示す物質は他にも色々とありますね~」という感想が返ってくるような気がします。しかし、アラントインの大きな特徴は、元々体内成分であったことです。例えば、犬や猫が喧嘩して傷を負っても、比較的速やかに修復されると思いませんか? 「彼らは野性的だから…」「他の動物は何でも早いよ…」との解釈があるかもしれません。しかし、「彼らはアラントインを作っているから」という回答もあって然るべきであると思われます。即ち「私たちの皮膚トラブルが治りにくいのは、アラントインを欠いてしまったから」という回答があって然るべきだと思われるのです。

 アラントインは、パウダーとして、かなり安価に市販されています。手持ちの香粧品類に配合されていなければ、そのパウダーを購入して、全量に対して0.5~2%程度の配合量になるように混ぜ込めば、上記の効果を得られるようになると思われます。私たちが進化の過程で失ってしまったものを、改めて補給してみませんか。

 
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